9-2 砕け波の恋物語 弐

 ブー……ブー……ブー

 

 ある冬の朝、国頭くにがみのタブレット端末が子気味よく振動した。それを音速より早く察知して、掴み取る国頭くにがみ


 ――メッセージアプリを開く。


『受かったよ』の5文字とVサインの絵文字。

 

「…………!」

 

 声を出さないように大きなガッツポーズをする。


 後から何か言われても嫌なので、2人は試験前のひと月は連絡を取っていなかった。

 

『おめでとう! お祝いしよう!』と国頭くにがみは、おめでたい雰囲気の絵文字を、考え得るだけありったけ付けて返信した。


『うわっ! なにこれ!』と大笑いの絵文字が返ってきて、改めて幸せを痛感した。


 ◆◆◆◆◆◆


 桜が満開になった走井はしりい学園のキャンパスを国頭くにがみ白波しらなみは並んで歩く。

 

「はい、これ。私の部屋のカギ」

「お、おおおおお! これが、伝説の……合鍵」

「伝説? 何言ってんの」

「ありがとうございます。大切にします」

「大切にしないで、たくさん使って欲しいけど」

「……へへへ」

 

 白波しらなみの顔は蕩けてしまっている。

 

「私にもちょうだいよ。なゆんのカギ」

「へへへへ……うへへへへへ……あ、勿論ですよ! こちら、お納め下さい」

「なんか変な言葉使いになってるけど。ありがと。あ、あー……今、私、もしかしたらめちゃくちゃ平然としてるかも知れないけど――心臓爆発しそうなくらい嬉しい」

「平然と? してないよ。沙耶さやの顔、ユルユル」

 

 腕を伸ばして、人差し指を突き出し、国頭くにがみの頬をまたつつく。

 

「痛いって、もう」

「……じゃあ……今日はさ、どっちにする?」

 

 距離という障害が無くなった2人を止めるものはもう無く、堰を切ったように愛し合った。

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