8-7 背負う
流石に自分から言い出すだけあって
あっという間に、鯛のカルパッチョと野菜スティック、それとシラスが沢山乗ったペペロンチーノが完成した。
「レストランみたいじゃん!」と
それと……なんとなくお米を使った料理が出てくる気がしていたが、それは何かの間違いだったらしい。
「つ、作り過ぎてしまったかも知れません……食材の使用計画とか確認すべきでした!」
「いやいや、そんな計画無いし、寧ろいつも余らし気味だから。しかし本当に美味しそう」
「ほとんどの食事を1人でするので……工程にも出来映えにも――勿論、味にも、目一杯拘らないと食事をする気が起きないんです、私」
「そっかー。そこは俺と逆かも。ほとんど1人だから、めちゃくちゃ手を抜いてしまう」
「あ。
「んー、家族ね……よく分からない」
「分からない?」
目の前にいるのが、隠したいことは適切に隠す人だと
――認識したが、しかし理解は出来ない。
深く追求したかったが、
だから
「えっと――どうぞ、召し上がって下さい」
「ありがとう、いただきます!」
ペペロンチーノをクルクルとフォークで巻き取って口へ運ぶ。
材料・作業工程の少ないシンプルな料理だからこそ、細かな技量が味に直結する、ごまかしの利かない料理――
満遍なく乳化している麺は艶々と輝いている。唐辛子とシラスと、オリーブオイルの香りが混ざりあって食欲をそそる。
「
「ありがとうございます! 私もそうなんですが、珈琲好きな方って辛いものも好きなことが多いと思っていて」
「それでペペロンチーノを選ぶのは、なかなかチャレンジングじゃない? いやーそれにしてもシラスと大葉の組み合わせは無敵〜」
「ちなみに……ニンニク入れてません」
「へぇー、そうなんだ! ニンニク無くてもこんなに美味しいくなるんだね」
その意味を
「――そう言えば、冷蔵庫に色々とお酒見つけましたが、特に何がお好きなんですか?」
「まあビールかな」
「じゃあやっぱり和食にしなくて良かった」
「ん? ああ、そういうこと? ……だとしても多分ビールなんだけど」
「へー、そうなんですか! なるほど、つまり……拘りが無いというよりは寧ろ『お酒好きじゃなくてビール好き』なんですね?
そんな他愛も無い話がとても新鮮で、心地良かった。
――お互いに。
◆◆◆◆◆◆
「有りもしない行間……ノーモーション……先輩も結構ディスりますねぇ」
「『魔法』を扱う主人公が、人類の敵サイドということなら、それでも良いんだけどね」
「なるほど、そうですね」
「あるいはその表現がワザとなら、世界がひっくり返ったということを暗に匂わせたいのか……」
「今、世界の覇権を握っている側が、実はかつて侵略者側で、権力の転覆に成功していた! みたいなことですか?」
「そうそう!そんな感じ」
「だとしたら余計に『魔』とは付けない気もしますねー」
「確かに……それもそうだね」
◆◆◆◆◆◆
「……だかぁ私、言ってやったんぇすよ! 『お前は鳥か!』ってね」
「と、鳥……! はははは! それは上手い……傑作っ、ははは」
◆◆◆◆◆◆
「せぇんぱーい……なぁんか、世界が揺れていますぅ」
「え、飲み過ぎ? ……なんか面白い感じになっちゃってるね」
気付くと時計は0時を回っていた。
うっかり時間を忘れて盛り上がってしまっていた。
「ゆーらゆーらゆーら……あ、呼び捨てしてるわけじゃあないですかぁねー? 先輩」
倒れそうで倒れない――
『お酒は嫌いじゃない』とは決して『お酒に強い』ということではないようだった。
色白の
「水、持ってくるよ」
サイドテーブルに右手を着いて、立ち上がろうとした瞬間――
その手を掴まれて、体の内側に向かって払われた。
「えっ――」
支えと重心を一気に失って、
『資料映像で観たことある古武術みたいだ』とか思っている間に、顔は天井を向いて、背中が床に近付く。
回転の勢いからして、背中を強打することを覚悟した……が、払われた右手が未だ掴まれままで、引手の役割をしてくれていた。
着地の衝撃は予想の1割程度だった。
しかし、それ自体を狙ってやったわけでもなく、引手で上手く衝撃を逃がせたのも偶然だったようで――その結果、自分自身に返って来た重さや運動エネルギーを捌き切ることは出来なかった。
逆に体重の軽い
「どわっ!」
床に仰向けになる
「いって」
「うっ……」
まるで
「
お互いの息が混ざり合う距離で、話し始める。
「う……ん、俺、も」
「私のワガママに付き合って下さって、ありがとうございます」
「いいよ、全然」
「でも先輩? あー……きっとこういうこと言わない方が、本当は良いんだと思うんですが……
「何の、話」
「いつまでも背負って生きていけば、誰かに許して貰えますか。誰かが戻って来てくれますか……そもそも、先輩1人が背負うべき問題ですか」
「…………」
「偉そうに、ごめんなさい。それでも、きっと先輩は背負い続けていこうとするんでしょうね……だったら、私にも……一緒に背負わせてくれませんか」
「……っ」
「一宿一飯の、恩義――として」
そこまで言って、
咄嗟に、顔面同士が衝突するのを回避しつつ、空いている左手で
「――わたし……
すーっ……すーっ…………。
「……お、おーい。
そんなどうでもいいことを口にしていないと、とても理性を保っていられない。
「ま、ず、は……ここからどうやって抜け出しましょうか」
どうやら
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