8-6 バックラッシ
「――で。3つめなんだけど、これに関しては野生の
「そうですか。あんな滅茶苦茶なんですね、
「滅茶苦茶だからこそ、とも言えるよ……まあ、俺が倒してしまったから
チラリと時計を見る
「ずあ……なんと。もう、21時過ぎてましたね」
「ずあ? どんな感情、それ」
なんだかんだ、2時間くらい話していたようで、
『まずい、まずすぎる!』と
こうなったら逆に、自宅まで送ってやるという選択肢が無くはないが……それはそれで、夜遅くに後輩女子の自宅へ行くことになる。
幸い、
『幸い? 何をもって幸い!』と
「あの、私、恥ずかしながら……少しお腹減ってしまって……」
「そ、そうだよね! 何か――」
今度は
「もし先輩が嫌でなければ、私が何か作って差し上げても良いでしょうか」
「へ?」
思ってもみない提案。サイドテーブルに片手を付いたまま、中腰で
冷蔵庫やキッチンというのは、パーソナルスペース感が意外と強く、そこへは入る方も入られる方も、少なからず心理的抵抗があるものだ。
そこへ
「……そ、それはありがたい! 俺も何か食べたいかなと思っていたところだった。ちょ、ちょうど昨日、食材ボックス届いたところだから、好きに使ってもらって――良い」
「か、か、かかかしこまりました。い、一宿一飯の恩義です」
「い、一宿……?」
「先輩! あの……今晩……と、泊めていただけませんかっ」
「……っ!」
受け止めることにしたが、その予想を遥かに超えて
彼女が何故、『家まで送るべきかどうか』でウダウダと悩む自分よりも先に、自らそんな決断に至ったのか――その表情を見て、やっと
泣きそうで、強がっていて。
自分の認知を超えた怪物を目の当たりにし、次々と仲間が倒れ、そして自身もあのままいたら死んでいただろう。
初めて、しかし確実に感じた、死の足音。
だが
無条件に
黄金世代と持て囃される天才とはいえ、まだ学生。気丈に振る舞っても、まだ子供。
『それは俺も変わらないのだけど……
「……うん。いいよ、勿論。なんなら朝まで飲んでも良い」
「お酒は嫌いじゃないですが、朝までは遠慮したいです――じゃあ、冷蔵庫、失礼させていただきますねっ」
自分の横を小走りで通り抜けてキッチンへ向かう後輩を、誰にも見せたくない気がした。
だから
「いざとなったら――か」
分かっていても分かってないように、自然に、その流れに身を任せる上手さが、心地良かった。
別にどれが良いとか悪いとかじゃない。ただ、今の
「あの、
「はい?」
「あ、お米好きですか?」
「お米……? もし嫌いだとしたら、お米買ってないと思うよ」
「ですよね。間違えました」
「何と何を間違えたの」
「先輩! 下の名前で呼んでも良いですか」
「それとお米を間違えたんだとしたら、ある意味天才だね」
「
「ビックリした、呼び捨てかと思った」
「流石に呼び捨てする勇気は未だありません」
「未だ?」
「はい、未だ……です。それで『
「全然良いよ」
「やった。そしたらもう1つ――私のことも下の名前で呼んでくれませんか」
「うお……それは、なかなかハードル高いね」
「ちなみに
「
「え? ええ? 呼び捨ては、未だ心の準備が……!」
「こっちも未だ?」
「それは全然、未だです!」
「
「おおおお……自分で言っときながら、なかなかこそばゆいですね」
「ははは、なんだそれ。俺は
「じゃ、じゃあ! やっぱり
「え、結局?」
「はい。先輩が好きと言ってくださったので」
「うん、好きだね。『
不意にエアコンが送風を止める。
「私も――好きです」
たまに噛み合わないまま、それでも2人の会話は噛み合っていく。
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