7-5 二律背反的に
どれくらい時間が経っただろうか。
気怠そうに手を伸ばして、擬似脳波を発生させていた装置の電源を落とした。
もうそこに群がる
「しばらく……魚料理は食いたくない……」
空魚は食べても、お腹は膨れない。
しかし食べたという感触は確かにある。
いくら食べても物理的にお腹がいっぱいになることはない。そんな物を食べ続けるのはある意味、拷問に近い。
それを何千か、あるいは何万か……
これこそが
しかしこの方法は、まず精神的にキツいのと、それに加えてバラバラとした無数の記憶の断片が脳内へ強制的に送り込まれるので脳への負担も大きい。
食べてみるまで本当にそこに目当ての記憶があるのかもわからない。
なので
平均的な
大の字のまま空を見上げている。
「――はぁ。ようやく記憶が整理されて来たぞ。こりゃ普通は無理だ」
だから、もう見えていた。
――この悲劇の核心が。
流石に1時間も寝ていれば、起き上がれるくらいには回復している。それでもわざとらしく、何度も何度も溜め息を吐いた。
記憶よりも、気持ちを整理したかった。
せっかく取り込んだ記憶も、溜め息と一緒に抜け落ちて行ってしまえば良いのにとさえ思った。
これ以上、何も知りたくない。これ以上何も語りたくない。
でも、その憤りは誰にもぶつけることが出来ない。
だからせめて嫌味ったらしく溜め息を吐くことで、この世界に意思表示をしたかった。
ジャリィィ……
ぼんやりと虚空を見上げ続ける耳元で、小石をいくつか痛々しく踏み
その音で
「どうだった? 数万の空魚を食うって激レア体験は」
「……
「ビビりそうになるだけなのかよ。やっぱりアンタはそっちの方が良いよ」
「そりゃどうも。そっちこそ珍しい、直々に。どうした?」
「話さぬなら、殺してしまおう……じゃないんだな」
「ふふふ。話すまで待ってやろう、
「
「ウチをなんだと思っている?」
「……優しい先輩、と思ってますよ」
ゆっくりと体を起こす
すると、目の前に封の空いたポテトチップスが突き出された。
「あら? マイティポテトの――新味じゃん。なにこれ」
「アンタ好きだろこれ。追加報酬。口開いてるけど、食べてはいない。全部やる」
「……ふうん? ありがとう」
両手で丁重にそれを受け取る
「クライシスペッパー味……? 意味分からんネーミング。なんかヤバそうな雰囲気だね。それで、そっちは――
ポテトチップスを1枚摘んで、それを口に運ぶ。
「死んだ」
バキン、と大きな音が顎から耳へ伝わってきた。
「そう……うわ、なかなか辛いなこれ」
「ワニみたいな
「……そのワニは?」
「ウチにまで牙向けやがったから、勿論ぶち殺した」
「それは良かった」
「なあ、
「真相なのか深層なのか……どっちにしても、どうやらそうみたいだね」
「書き起こさないとわからないような言葉遊びすんな――それで、どうするよ?」
「何を」
ガサガサと袋を振って中身を集める。
「真相を
「尊厳、ね……俺がここまで苦労して知った情報を、お前は当然のように知っているのか」
「
「――それこそ暴露しないだろ。あの人なら」
「……はぁ…………やっぱりそういう感じのが好きだぜ、
「そりゃどうも」
「そんな、ツンケンすんなよ。仕方ないことなんだ。アンタも頭では分かっているんだろ?
「取り崩された筈の
「有り得ないね。そんなこと、あってはならない」
親指と人差し指の指先をペロッと舐める。
「――そう。あってはならない。
肩を叩かれたのに、何故か頭の中が痺れた。
「尊敬を守れば、意思は守れない」
また1つ大きな溜め息を吐いた
もしかしたら
「あー……そうすると
立ち上がって、袋の口をクルクルと器用に畳んで、簡易的に蓋をした。残りは家に帰って食べる。
「……
立ち上がって、くるっと振り返り、黒い染みがあった辺りを見下ろす。
「見落としが無いか、念の為もう一度調べてみたら……何だやっぱりあるじゃないか」
胡散臭く、演技っぽく。
「思った通り、ここにもイカ野郎は居たのか」
少しだけ、誰かのように
「うっかり見落とすところだった」
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