7-2 予想通りに期待外れ
――――
重傷を負った
触手の直撃を受け、飛泳能力を失っていた
脳に負荷をかけ過ぎた
それを聞いて
医療班の中にかつての同輩で、今は先輩の1人が居て、彼から「お前がついていながらなんてザマだ」と叱責されたが、続けて「だけどまあ……お前が辿り着けたからこの程度で済んだんだろうな」などと言ってくるもんだから、少しだけ泣きそうだった。
その様子を見て彼は更に「まったく、やっとお目覚めですか。お前なら戻ってくると思っていたけど、流石にちょっと待ちくたびれたよ」と追い討ちを掛けてきた。
そんな彼らを見送って、
報告書をだいたい書き終えた頃、ちょうど目的地に着いた。
「やっぱり、日が傾いてから来るような場所じゃないよねぇ……」
そこは、他の5つの現場とは、まるで違う雰囲気だった。時間のせいもあって、とにかく薄気味悪い。
それもその筈。そこは下之宮市の辺境――
かつて
併合されはしたが、そこに元々住んでいた旧
生きながらに死んでいる、あるいは死んだことに気付いていない――亡霊のような。
割れた窓ガラス。
ボロボロに荒れたアスファルト。
乾燥して棘立つ空気。
澱んだ
枯れた草花。
あちらこちらに点在する不法投棄。
とても栄華を極めた下之宮市の一部とは思えない。
好きこのんでこの場所へ近付く人は少ないだろう。
余りにも閑散とした殺風景を眺めていると、時間の流れが停止していくように錯覚した。
「
そんな物騒なことを呟きながら、ある建物を目指していた。寂れた廃墟の街に、まるで墓標のようにそびえ立つ背の高い建物。
「
その墓標こそが、かつての
墓碑の麓には、かつて入り口だったような場所がある。
ここも酷く荒れていて、瓦礫が散乱し、ガラスは割れ落ち、ドアの引手も無くなっている。
建物のエントランスというものが誰かを迎え入れるために設けられた場所だとするならば、ここは全くその本分を達成出来ていない。
「外敵を遮断するための門だとすれば、その目的は達成されているのかもね……」
門のすぐ脇に
「こんなところで……
規制線が張られた形跡も無く、誰かが手向けた花なんかも有るわけ無い。
黒い染みだけが、地面に薄ら残っている。
黒い染みは多分、血なのだろうが、この退廃した雰囲気の中に逆によく馴染んでしまっている。
文字通り命をかけたその行為すら、まるで風景のように飲み込んでいる
死に様がこんなにも
「――大丈夫、俺が忘れない」
上半身を少し仰け反らせると、その動きにつられるようにして肺が大きく膨らむ。
圧力の下がった肺は、その心細さを埋めるように外気を取り込もうとする。
鼻へ、どっと流れ込んだその大量の外気から、『
乾いた空気の匂い、澱んだ
でも、そこには肝心なあの匂いがしない。
多分、しないだろうと予想はしていたけれど。
「やっぱり……
普通、1ヶ月も時間が経過していたら専用の計測機器を用いても
しかし
匂いを司る
「発生順でいう2番目以降は、
搬送される直前に
そこに居ただけという雰囲気ではなく、何らかの攻撃を発動したであろう強さで。
しかしそれがこの現場にはない。
「何故、
すうっと鼻から息を吸い込む
期待とは裏腹に
しかし逆に、実はもう1つ期待とは裏腹に、してしまった匂いがある。
「……何故……
「とても
これらの事実が示す事とは――。
「
じゃあ何故
「
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