6-5 幕切れ

 一瞬だった。


 酒梨さなせが『あの蝶は何だろう?』と思った時には、終わっていた。

 もみじの話を聞いていたって、結良ゆうらが何をやったかなんてサッパリだった。


 ただなんとなく『先祖代々、刻まれてきた無数の傷が、今一瞬で全身に再現されたら、痛いとかそんな次元じゃないよね』とは思った。

 

 今、捻じ曲がった者クラーケンが見せた反応は、『消失反応』と呼ばれ、空魚が何らかの理由で生存を諦めた時に見せるショック死のような現象。


 空魚について学者以上の知識を持つ酒梨さなせであっても学術書の中でしか見た事のない貴重で希少な現象だった。


 意味は分かるけど、理屈は分からない。

 

 まあ……そんなことは、今はどうでも良かった。


 。助かったんだ。

 それだけで今は良かった。


 そう感じると、急に全身からチカラが抜けて酒梨さなせはその場に倒れ込んだ。


 地面に頭をぶつけてしまう前に、誰かにそっと支えられたような感覚だけはあった。

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