6-3 再起動
例えば、現実に確かに存在する何かがあったとして。
でもそれを認識している人が居なかったら、果たしてそれは現実と呼べるのだろうか。
理論的に証明されていても、実証されていなければ、それはきっと仮説。
この世界には、そんなあやふやで曖昧なものが結構多い。
それらを
じゃあ……夢ではなく、妄想ではなく、仮説ではなく、幻想ではなく――現実を現実と定義するものは何なのか。
現実を現実たらしめる要素は何なのか。
もし線引きがあるなら、その境界線は何処にあるのか。
眠りながら見る夢は、その内容こそ非現実的な場合も多いが、夢を見る行為それ自体は間違い無く現実だ。
夢か幻のような話でも、集団幻覚のように一定数の人が同じことを言えば、それはほとんど現実みたいなもの。
叶わないと馬鹿にされる壮大な目標としての夢も、口に出し続け、追いかけ続ければいつか叶って現実になる。
逆に、実力的にやればできると言われ続けても、結局やらなかったらそれは現実ではない。
――人の生き死にも、きっと同じだ。
誰からも忘れ去られてしまった人は、生きながらにして死んでいるようなものではないか。
逆に、例え死んだとしても、その人を忘れない人が1人でも居続けてくれる限り、それは生き続けているようなものではないか。
『きっと忘れない』と
「だから、ごめん」
もし自分が死ぬ時は、ちゃんと誰かに託していくから。
「だから……ごめん」
だからあなたは、死なない。
「だから」
ごめん――
春のうららかな日差しのような笑顔、せせらぎのように優しい声、爽やかな朝の澄んだ空気のような匂い。
その全てを
「『
破裂しそうになる胸を押し込めるように
『
それこそが
そしてそれを約1年半ぶりに、
たまに
それは
やり切れなくてごめん。
背負い切れなくてごめん。
助けられなくてごめん。
そして、『
そして、盤面が切り替わる。
――アンタなら何とかする――
――躊躇わないことだよ、
――使いこなせてないなんて嘘だろ――
「……皆、そんなに期待するなよ」と
――いつもみたいに笑ってなよ――
「ああ、そうするよ」
――大丈夫、大丈夫だから――
――先輩ならきっと辿り着いてくれると信じていたよ――
「本当はもっと早く、気付いてやりたかった」
だから今は……せめて今からは、何にも遅れないよ。もう誰も死なせない。
スっ、と
――分かる。
今何が起きているのか。何処でそれが起きているのか。どんな状況なのか。
どんな危機がそこに在るのか。
どうやれば、そこへ最速で行けるか。
全て分かる
「マジかよ……とんでもねぇ状況だな。この気配を感じ取ること自体を回避していたのか」
左手で顔面を覆って自分の情けなさに打ち
折れている暇は無い。今は俺しか居ない。
胸の苦しさは消えない。でもそれを思考で押さえ付けて――身体を動かす。
軽くトンっと地面を蹴って、飛泳を開始する。
ドゴオオォ……ン!
まるで雷のような爆音が鳴り響いた。
たった1回のキックのみで、いかなる目的地に到達するという飛泳スタイル――ワンキック。
誰も真似出来ないし、真似しようともしない。
参考に出来ないし、参考にしようともしない。
ワンキックの残響が消えぬ内に、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます