6-2 大丈夫ついでに

 赤黒く澱んだ火点ひともし頃。ロイヤルゲートホテルの麓は、より一層どす黒い空気を漂わせていた。

 日が沈むように希望の火が消えかかり、絶望の影足が伸びる。

 

 その影がいよいよ酒梨さなせを喰らおうとした正にその時、左手首の腕時計型通信端末が着信した。


 本来なら、そんなことに反応していられるような状況ではない。


 空想級の鱗ル・ファンタスク・スケールを目の前に、まともに動けるのは、もう自分1人という状況。――絶望に両足を突っ込んでいる。


 でも。それでも、何かにすがりたい気持ちが……何かに救われたい気持ちが、その着信に応答させた。


「は……い」

「お、出た出た。良かった良かった。酒梨さなせは相変わらず無事か。なるほど、そうするとお前を副隊長にしたのは、正解ということになるな」


 声の主は言問ことといもみじ


「こ、こと……言問こととい、せんぱっ」

「あー、いよいよ。無理すんな。ごめん、悪かった。怖かったよな。でももう大丈夫。今度こそ本当に、大丈夫だから」


 小撫こなで入生田いりうだも、同じようなセリフを言った。

 でも言問ことといもみじの『大丈夫』は、もう意味合いが違った。なんとなく酒梨さなせはそれを直感した。


 きっと助けが来る。きっと助かる。


「大丈夫ついでに、少し話を聞かせてやろう」


 呑気にもみじは、酒梨さなせに話し始める。

 それは、結良ゆうらの昔話だったらしい。


 「えっ――」

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