4-6 空想級の怪物
「――よし、あっちは大丈夫だ」
ロイヤルゲートホテルの屋上に、紅い炎を確認した
「うーし、取り敢えずもう1回やってみるか……『
クラーケンに向けて手を突き出し、そのまま手の平をグッと握り込む、が……左手がバチンと弾かれる。指先から出血している。
「くっ……何だこれ」
「大丈夫か、
「さっきとはまた別の……? カウンターみたいな能力だとすると、擬態や気配隠匿……何個、能力有るっていうんだ?
「いや、わからないね。そもそも実在するのか怪しい空魚達ってことなんだからね……」
キイイイ、キキイ
ウネウネと触手を動かす
ゴウっという鈍い風切り音。
「うっ……お」
触手が叩きつけられて、地面が大きく砕ける。際どくその触手を躱した前線の3人だが、動揺が隠せない。
「今の、裏から出てきたぞ!」
その上で、表の触手と同じ動きをさせながら影のように隠れていた裏の触手を、リズムをズラして打ち下ろしてきた。
「こんなトリッキーな……明らかに意図というか意志というか、そういうのが感じられる攻撃だな」
薄明の陽光に照らされる鈍色の巨体。蛇のような捕食者の目がギラつく。
『自分の姿を見られている』ことに対する憤慨なのか、それとも純粋な威嚇行動なのか、複数の触手を広げている。
「
危険性空魚は自分より弱いものを襲う。
「このメンツ引っ括めても、自分の方が強いと認識しているのかもね」
「本当にそうだとしても、ちょっと癪だ」
常時ユルっとした雰囲気だった
キイイイイ!
「何だ、その声。何か見誤ったか? おい、イカ野郎……ん、タコ野郎か? まあいいやどっちでも」
「おい、軟体野郎。1つ教えてやる。こういうのを『能ある鷹は爪を隠す』って言うんだぜ!」
言いながらノーモーションで飛びかかる。
それとほぼ同時に放たれ襲い来る触手の網目を縫いながら、瞬きをする間もなく
「さて、お前にもあるのかね――無風地帯は」
何故、
例えば
一般的な
つまり、自身を中心とした半径1メートルの球状の空間には炎が発生しない。
意識的な場合もあれば無意識的な場合もあるが、もしこの中へ入り込まれてしまうと、文字通り何も出来ないのだ。
スピードと緩急をつけた独特な飛泳法を使い、気付いた時には何もされない領域に
「流石だ、
「凄っ!」
獲物を見失ったままの
とある触手の側、その脇に。
「この巨体で、こんな狭い無風地帯……マジで怖すぎるから、いきなり切り札使わしてもらうわ」
右の拳を
「『
ドドドドドドドドドドドドドドドドド……
爆発したそばから、また爆発する。
爆発して、爆発して、爆発して、爆発して、爆発して、爆発して、爆発する。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
「――よっ、と」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
人や生物を移動させることは全く考えず、モノをいかに速く、いかに大量に、いかに簡単に移動させるかを主眼としている。
一般的に
そこで
スタンプには主と従があり、移動対象物には従のスタンプを、呼び寄せる場所(基本的には
この主従スタンプにより移動対象物の質量等を事前に計算し、移動距離に関しては随時的・自動的に計算し続ける。
結果、
刀や剣、銃などの武器を呼び寄せて、無風地帯への飛び込みと組み合わせるのが通常時の
仕組みとしてはシンプルで、従スタンプを施した爆弾を主スタンプのポイントへ呼び寄せ爆撃しているだけ。
それだけなのだが、その爆撃が永遠のように終わらない。
主であれ従であれスタンプは、土台となる押印された物が破壊されると同時に消失するものなので、爆弾が1発でも爆発すれば主従どちらのスタンプも消失してしまう。
だが、
自動押印が可能の範囲は、前回のスタンプ位置から『最も近接した位置にある、構造的に最も類似した物質』にのみ新たな主スタンプが押印される。
最初に
爆発で損傷しつつも残存した触手に新たなスタンプが押印され、新たな爆弾が呼び寄せられ、また爆発する。この繰り返し。
自動押印可能な最大範囲は一応設定されていて、その範囲内に構造的に近しい物質が無くなるか、あるいは
呼び寄せる爆弾側――つまり従のスタンプも、若干異なるが大体同じような仕組みで次々に押印されていく。
「……お、多くない?」
「こんな爆弾、どこに隠し持ってんの?」
「ん? ああ……場所は言えないけど、ウチの会社の倉庫1棟、貸してもらってて。そこでストックが常時1万弾切らないように自動生産させてる」
「……あ、そう」
割と
「と、いうことは、この爆弾って最新式の?」
「いや、俺のオリジナル。輸送することを丸っきり考慮していない軽さと威力に全振り爆弾」
「……あ、そう」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
その間も爆撃は止まらない。
対象が大きいので連続爆撃の時間が長いが、1度
キイイイイ……!
爆音の中から
「そろそろ、かな」
自動押印可能な対象物が消滅しなくとも、生物であれば一定以上の損傷を与えれば絶命する筈なので
「……ん?」
爆炎の中に一瞬、高く掲げられた触手が1本あったように見えた。
バァン!
そして振り下ろされ、薙ぎ払う。
「なにっ」
自切。
「ウソだろ、切り捨てやがった!」
あと数秒あれば、自動押印が胴部へ写っていたかもしれない。そんなタイミングで。
「……
残炎の中から、先ほどより鋭い捕食者の目がこちらを見ていた。
切り落とした触手の断面は、再生を始めている。
「
誰かが呟いた。
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