5-6 続・空想級の怪物
噂には聞いていたが、1度も目の前で披露されたことはなかった。
敢えてしないようにしている、そう感じていた。
今回以外にも、
基礎レベルがとんでもなく高く、サイコキネシスなんかはパッと見、そっち系統の
『近くにいる人を怖がらせてしまう』という理由で、
「
怖い。
本能的に
突然押し付けられた孤独のような恐怖。誰も自分を受け容れてくれないような恐怖。
そう、世界から拒絶されているような恐怖。
『……寒気がする』と
『
当代最高傑作の1つとも言われるこの
指定空間内――1辺が13.3メートルの立方体の拒絶空間――において、任意の物体・物質を『拒絶』する……というだけの効果だが、拒絶されたものはその空間内に存在し続けられない。
存在を保てず崩壊するか、あるいはその空間の外へ押し出される。
物質的な強度などを一切無視するので防御不能とも思えるこの
唯一制限があるとすれば、拒絶できる対象は
博識な
また、見えていないものも基本的に対象外。(見えていなくても、その存在を正しく認識できているなら拒絶可能)
正確に計測されていないので推定だが、13.3メートルの立方体の拒絶空間を作れる射程範囲は数キロとも言われており、つまりその範囲内に在って
だからその範囲内に居ると本能的に恐怖を感じるらしい。
「皆、済まない。この状況は完全に僕の判断ミスによるものだ。だから、責任を取らせて貰う」
「あと、怖がらせてごめんね」
そう言って
「
隊長の
負傷者も居るし、
もう一度、先輩や学園に応援を要請するべきじゃないか。
いや、
「どうしたら……」
答えが出るより先に、周辺の寒気が増した。
「――
キイ、イイイイ……!
これまでに無い
「
何かを感じ取ったのか、
「ほら……あの絶水を耐えられる空魚は居ない。それが例え
危険性空魚の抹殺に絶対的な効果を発揮する絶水。
仕組みとしては、『
空魚は
危険性空魚も
通常の水から打ち上げられた魚だと、長ければ数十分の間は生存し続けることができるが、空魚はもっとダメージが深刻で、数十秒で致命的なダメージを負い、1・2分もすれば組成が崩壊する。
個体差があるにはあるが理論上、
しかし、空魚は組成のバラつきが大きく、同じ見た目・同じ形をしていても、物質的には全くの別物ということも多い。
そうすると、拒絶に失敗してしまう。
キィ……キイ
キ……キ、イ……
そして消えた。
触手も胴部も頭部も、丸ごと全部。
「――なっ!」
それは
消滅はするだろうと思っていたが、それは拒絶空間内に収まった胴部のみの筈だった。
胴部が消滅していく余波で多少は触手の根元辺りも消えたりはするだろうが……無数の触手の先端までもが一斉に消えるなんて、それは完全な想定外であった。
「し、しまった……これは――」
その巨大が故に、移動速度は芳しくないのだと思っていた。
いや、思わされていた、と言った方が正しいだろう。また 思い込みを植え付けられていたのだ。
『またこんな単純な見落としを……』と思うが早いか、
パリパリパリパリ……と何かが割れる音と共に
「がっ……」
何度も地面に体を叩き付けながら、十数メートル転がって、建物か何かの壁に激突し、止まった。
そしてまた地面に這いつくばった。
「ぐっ、う……あ」
顔だけ動かし、直前まで自分が立っていた場所を見る。
「……あ、あれは……ワープゲート? や、やはり空間移動系の……」
『あれにやられたのか』とすぐに理解できたが、だとすると逆に何故、自分は生きているのか不思議に感じた。
「キ、
両手を
目は血走り、右の鼻から血が滴る。
一目で負荷の大きい
言うだけなら簡単だが、実現の難易度は桁違いだった。
片や、
知覚感度を上げて
実戦での成功はこれまで1度無かった。
「でき…………た……」
強度面では
「こ、
「く……そっ……ぶふっ」
しかし当然、その代償も大きい。
「ごめんね、
振り絞ったその声よりも、鼻から滴る血の方が多い。完全に脳がオーバーヒート状態になった
「そんな――ど、どうする……」
どうすれば逃げ切れるか、誰かを逃がすことができるか
――しかしそこで更に、絶望的な異変に気付く。
「……ひ、飛泳出来ない……?」
触手の直撃を受けて負傷したからではない。どれ程傷を負ったって、
その速度やなんかは、やはり心身の状態に左右されはするが、全く発動出来ないなんてことは有り得ない。
5年ぶりぐらいの地を這う感覚。
「くそっ……
飛泳能力喪失――それは、
墜落事故の犠牲者の死因は、飛泳中に高所から落下し全身を強く打ったことによるショック死。
それ以外に目立った外傷は無かった。そしてこの事故に
「どうして真っ先にこの能力を想定しなかったんだ……つくづく、僕は……」
退却に全振りした思考は、淀みなく『全滅』の2文字に上書きされた。
キイ、キイイイイイ
今度はセントラルパークホテルに絡み付いた
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