003
3-1 ソートで世界の見え方は変わる
その7人はとても速かった。
横を通り過ぎられた空魚も気付かない程に静かに、そして速い。影を置き去りにしそうだ。
国内最大の規模を誇る
全部で6ヶ所ある墜落事故現場は、その広大なエリアの外縁部に点々としている。
それを1日で回ろうとするなら、この位のスピードが必要なのだろう。
(そもそも常人には『1日で』という発想すら生まれないような距離感なのだが)
「……い、り、う、だっ、くーん!
集団の真ん中ら辺から、赤色の巻き髪ツインテールをはためかせて
「ちょっとごめーん。1つ目って、こっちであってるー?」
「え、
何故か、にこやかに振り返る
上半身から腰辺りまでをすっぽりと、黒色のロング丈パーカースウェットでワンピース風に包み、足先はゴツイ革製のモンキーブーツ。
そんな割りとパンキッシュな見た目に反し、|その声はとても耳触りが良いのだ。
周波数的な問題なのか、いかに大声にしようとも、不快感を与えることはない。
寧ろ癒されるような感覚があって、
「えっとね。まあ、『いただきますをする時に、揃えた両手の親指と人差し指の間に箸を水平に挟んで持つのか、それとも箸は未だ持たず手だけで合掌するのか』くらい些細な問題だと思うんだけどね」
「箸。僕は、置いたままだな。箸持ったらもう食べ始めようとしている気がする」「それって宗教的な考え方にも寄るんじゃなかった?」「気にしたことない!」「心の中で唱えてます」
バババッと集中砲火に晒されて「う、うわぁ」と焦る
「そこそんなに広げないで! ビックリするな、もう……えっと、話戻すけど、
左手に持ったタブレットを
「どういうこと? 私もこっちが1つ目の現場だと思っていたよ」
2列目右翼を飛泳していた
「うん、ややこしい書き方してるんだよね。この先輩方から貰った資料もそうだし、ニュース記事とかも同じ。多分、
タブレットの画面を、右手の親指と人差し指だけで
大きく身振り手振りしたり、コロコロ体勢を変えたり――高速飛泳中に、なかなか出来ることではない。
速度は落ちるし、不安定になり危険なので、一般的には『やってはいけないこと』とされている。
「いやいや。このスピードの中で、そんなチマチマしたこと出来んの
編隊で
「ん。そうだね、皆止まるよ!」
文字通り急停止だが、その動きに反動らしきチカラが働いたようには感じられなかった。
ある程度のスピードで飛泳している
しかし
変換したエネルギーは一時的に保留させ、次に飛泳を開始する時の加速エネルギーに充てることが多い。
とは言え――
「うっわ、相変わらずエゲつない止まり方するねぇ、前3人は。ぶつかるぶつかるー」
「発生順と亡くなった順で、違いって出るの?」
眼鏡を左手人差し指の第二関節でクッと直す
「即死しなかった人が、居たってことか」
その疑問符に、
「ぴん、ぽん」
「あ……」
「なるほど、その可能性は考えなかった。墜落事故と聞いて、即死以外の選択肢をなんとなく除外してしまった。明確な理由も無いのに考慮しなかったのは、早計だったな」
真面目を絵に書いたような
「誤認させるような書き方してるからねー。これ、先輩方は気付いてらっしゃるのかな? いや、気にしていないのかな。実際、私達も回る順番の起点を定める上で、ちょっと気になった程度ですしね」
サラリと、さりげなくフォローされたような気がした
「相変わらずよくそんな所に気が付くな、
「それはそうだね、キュウちゃん」
「その呼び方止めろ」
眼光が鋭く強面。身長もそこそこ高く、ガタイも良い。金と黒の混じった単発を整髪料で逆立て、耳にはピアス。
その見た目に加え、竹を割ったような性格に、ストレートで歯に衣着せぬ物言い。
学園内でも積極的に声を掛ける者は少なく、街を歩けば自然と道が開く。
そんな風貌の
「替わるって言っても、1人目と2人目が入れ替わるくらいなんだろ? どっちのソートを使っても」
「あー、それがね。死亡日時順がABCだとして、それを発生時刻順に並べ替えるとCABになる感じね」
右手を突き出し「これがAとBね」と言いながら人差し指と中指で『2』を作る。
左手は人差し指で『1』作り、「で、こっちがC」と言いながら両手を体の前で揃える。
次に、手の形はそのままに右手と左手を交差させてみせる。
「入れ替わりは、こんな感じ」
「めちゃくちゃ理解しやすいじゃねぇか、その指の動き!」
吠える
「1番最初の方が、実は亡くなったのは3番目。何も知らない私が、何かを推し量る事なんか出来ないけど、きっと……その人は頑張ったんだろうね」
「そうね、
「取り敢えずさ。
「それで良いだろ、問題無い。ただまあ、ここから市内を時計回りにすると位置的に、発生時刻順の1番目、つまり死亡日時順のCが、ゴール地点になっちまうみたいだぜ?」
「ふふふ、そうやって考えると、だいぶ入れ替わってしまったような気もするね」
「そうそう。市の中心部から見ると、AもCも同じ方角にあったから、気付くのも、聞くのもちょっと遅れちゃって。ごめんね、
「いや、全然。ありがとう、
空中に浮遊して話し込んでいた7人は、また音も立てずに飛泳を開始した。
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