2-4 心を読む教授
二回生の
それらを欠席し、特別課外活動に出るため、個々人が取っている講義の担当教授へ報告をしなくてはならない。
その役目は「アンタやっといてね」と
しかしそれが、7人全員の1日分あると、少しだけ煩わしかった。
その時間をただ待たせているのも効率が悪いので、
取り敢えず、これまでの事故現場をグルっと回ってみるらしい。スタートは一番最初の現場で、そこから近い順に時計回りで辿って、市内をひと周りするルートだそうな。
「先に行かせるなんて、厳密に言えば規定に則っていないと思うけどね」
「……あれ? 何で今、僕が考えていることが、後ろから聞こえてくるんでしょうか」
他人の思考を、タイムラグ無く読み取る。そんな事が出来る人物は、そう多くない。
「
「――
「あ、口に出てましたかー。すみません。でも教授こそ、他人の思考、勝手に読まないで下さい」
「それは失敬。と言っても、既にキミの暗躍は広まっているから、別に思考を読まなくても、おおよそ当たりは付くと思うがね」
ピンクベージュのロングヘアーを揺らしながらハイヒールを鳴らす
胸元の大きく開いた
『隠したくても隠しきれないから、敢えて隠さない』みたいな大人の色気に気圧される。
「暗躍って……そんな物騒なもんじゃないですよ」
「相変わらず。好かれていないのかねぇ、私は」
少し前髪をかきあげながら
「いえ、好き嫌いじゃなくて、ただ単に苦手なだけです」
「そっちのがストレートに傷付くわよ?」
「好きか嫌いかで言ったら、好きな方です。でもめちゃくちゃ苦手です」
「ど、どういうことなんだね? それは。新種のツンデレってやつなのか」
「……ツンデレなんて言葉、未だ使う人居たんですね」
「いや、こっちはこっちで意味が通じて驚いたよ」
ハハハっと
「この時間は第二キャンパスで講義じゃなかったですか? 偶然、ここで出会えたから良かったものの、すれ違っていたらどうしてくれるんですか」
手に持つタブレットを見ながら
「どうしてくれるとは随分な物言いだな――って、おいおい。
「……失礼しました」
「コンマ5秒だけ合わせて、すぐ逸らすんじゃないよ!」
生理的に苦手なタイプというのは誰にでもいる。理由も原因も無い。それはどうしようもないことだ。
しかし、一方の
しかも『だから普通に接する』ではなく『寧ろより積極的に関わろう』としてくるから厄介なのだ。
「なかなか耐性獲得してくれないねー。結構、頑張っていると思うんだけど」
「頑張っているから、ですよ。もしそのやり方で対人関係が克服できるなら【苦手な人】はとっくに絶滅している筈です」
「そういうものかなぁ。まあいいや、何でこっちのキャンパスに居るのかって質問されていたんだよね、私。今日はたまたま講義を休みにしていたのさ。お偉い様方に呼び出されちゃってね」
「そうでしたか。さっき、既に耳にしているというようなことを仰ってましたけど、何処までご存じですか?」
「メンツと目的、引率がキミだということ」
「ほぼほぼっすね」
「だってー、私が最後なのだろう?」
「言い方がちょっと卑屈っぽい……」
「いやいや。別キャンパスに居るであろう私を最後にするのは適切なルートだと思うよ。そして勿論、承認するよ」
「あ、ありがとうございます」
「『てっきり断られるかと思った』って……そんなに意地悪だと思われているのかい?」
「また勝手に読みましたね。そういうところですよ」
「ごめん、ついつい。しかし、こういった話を拒否する教授陣なんて居ないだろ。メンツもメンツなわけだし」
「引率が僕なのは承認の妨げにはなりませんか?」
「キミこそ、そうやって卑屈なことを言うよね。寧ろ逆。キミだからあっさり承認するんだろう?」
「
「そう、ですか……」
また心を読まれていたことを、
「しかし、気を付けてはくれよ? 学園唯一のクラス5ライセンスのキミが付いているとはいえ。優秀な二回生ばかりだとはいえ。まだ原因も分からない事件なんだからな」
「
「……揃いも揃ってクラス4の
「クラス1とかの成り立て
「うん。低ライセンスの、能力が定着してない頃なら、まだわかる。でもクラス4じゃ有り得ない」
「だから、その線はナシ。そうすると、危険性空魚に襲われた可能性一択ですが……この場合でも事故じゃなく事件、ですか?」
「まず大前提として、事故にしろ事件にしろどちらにしても、犠牲者は皆クラス4の
「そうでしょうね……残念です」
「襲われたってことはつまり、トップレベルの
「それは――というか、そっちのが問題ですね。
「そう、大問題だ。そんなこと、あってはならない」
また意味ありげに髪をかきあげながら
「だから、勅命なんだろ?
諦めのような感情が多分に含まれた
◆◆◆◆◆◆
それは地域に根ざした運営とか、地元の学生の通い易さとか、そういった理由も確かにあるが、実は他に大きな理由がある。
居住区域の安全性の確保。それこそが最重要の存在意義なのだ。
アパートの窓の外に居たような空魚は、そこに居るだけであって、人にも、またその文明にも無害である。
無害と言うよりは、お互いに干渉出来ないという表現が、より近しいかも知れない。
干渉出来なさ過ぎて、放っておくと、部屋の中にまで入ってきてしまうので、そこは適切な処置が必要になってくる。
ただ、空魚にも種類や種族があり、人側へ干渉する力を持ったモノも存在する。
それらは危険性空魚と呼ばれている
「有する危険性は様々だが、人を積極的に襲うタイプも居て……ソイツらは本能的、あるいは直感的に自分より弱いものを襲う。その習性を逆手に取った防御システムが『
「急にどうしたんですか……ちょっと馬鹿にしてます?」
「冗談冗談、そりゃ流石に失礼だったか。
「入った時のことなんてどうでも良いんですよ。入ってからが重要なんです、大学は」
「ふむ。だとしても十分やってると思うけど、キミは。それで――そんな大学は、
居住区域の安全を実現する、対危険性空魚用の防衛技術――それが
それは、優秀な
その強烈な雰囲気によって、野生の危険性空魚を遠ざけるという考え方だ。
「他にも様々な忌避方法が検討され開発されたが、最も効果が高く、また維持費も少なく、見た目も良い方法が
「技術というか……ほんと、考え方ですよね。これ思い付いた人、アタマ柔らかいなー」
「そして、その中心地としてこの上なく最適なのが大学だったってこと。優秀な学生を沢山集めることができれば教育機関としての名声は上がるし、同時に
「
――しかし――――
「その
「野生の空魚が
「キミだって、そう思っているんだろう? あー、先に言っておくけど、今のは思考を読んではいないからな」
あくまで可能性の1つだが――と前置きをして
「
「俺からしたら、その考えそのものが自殺行為ですが、
「自殺……ね――」
「
「いや、なんでもない……だからさ、
「つまらない? それって、どういう……」
「――あ、ああ! 君は知らないか。彼らが居る講義はとても盛り上がるんだよ? 教授陣も思わず奮起してしまうんだ」
「なるほど、確かに
「彼だけじゃないぞ、
「正に、黄金世代ですね。それの引率か……やっぱり気が重いな」
「またそうやって。とにかく少しでも危ないと感じるようなことがあれば躊躇わないことだよ、
「……はい、心得ておきます」
その返事を聞くと
「あの人……あんな風に笑う人だったっけ」
たなびく白衣を見送りながら、
どことなく、なんとなく。何かと何かが噛み合っていないような。
そんな
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