2-2 落第生と、面倒見の良い先輩
ある時から世界を満たす
少しだけ青みがかっていて、液体のように揺らめき、その中を魚のような何かが泳いでいる。
そんな性質から『水』と付いてはいるが、普通にしていたらこれに濡れることはないし、溺れることもない。
一般的な生活を送るにはほとんど影響が無いという不思議な存在。
国内での
「今日もここら辺の魚は元気だ」などと思いながら、スウって泳いでいくと、その軌跡に泡が立ち、水面へ向かって上っていく。
本当はそれを眺めながらゆったりと泳いでいたかったが……残念ながら今日は、そんな余裕も無い。
「近いなぁ、相変わらず」
緩やかに地面へ近づいて、足を出す。
「学園の敷地内は飛泳禁止……律儀に守ってんなよ、そんなの」
「も、
声の主は1人の少女――小柄なので少女と言いたくなるが、本当は違う。本質は全く違う。
纏っている雰囲気が明らかに少女ではない。
膝まで届きそうな銀色の長髪は、風と戯れ光を撒き散らす。雪を欺く白い肌、絵に描いたような二重の猫目、その中心にある深く透明な碧眼。
どこをどう切り取っても、神様の圧倒的な贔屓によって作り込まれたんじゃないかと思う程に整っていて、美しい。
背丈は
とても尊大に、
「ウチがどこに居ようが、ウチの勝手だろうが。そしてウチがその瞬間居る場所に、アンタが来れば良いんだよ」
「それで? 俺に何をさせるわけ?」
見上げる
「ふふふ、察しがいいねぇ。話が早い。流石、優等生の
眼と口先で大きなスタッカートを打つ。
「……ぶちのめすぞ…………」
「あー、先輩に向かってそんな口を聞いて良いのかな? 良いのかなぁ? せっかくポイント稼ぎさせてやろうってのに。別のヤツに回してもいいんだぞ」
「いや、それは……すみません。お願いします」
「ふん、素直で良い。とか言ってもさ、アンタじゃなきゃ完遂出来ない案件ではあるのさ」
ニヤリと
「何その顔……今の発言、こちらは素直に受け取れていませんが」
「そう? 他意は無いよ。この学園唯一のクラス5ライセンス、
◆◆◆◆◆◆
しかし特殊な訓練やカリキュラムを経て、
この能力を得た者達のことを
同様の教育機関は、国内外問わず多数存在するが
そんな中、
「別に、歴代卒業生の中にも居なかったわけじゃないし、そんなに持て囃されるものでもないって」
居なかったわけじゃないが、当たり前のように居たわけでもない。そんなことは知っている。
ただ、その賞賛を素直に受け取れない理由が
「……まぁ。それは瑣末なことさ。そんなことばかり気にしていたら、話が始まらないよ」
バサバサと暴れる銀髪の奥に静かに燃える碧い瞳。何もかも見透かしたよな、底の見えない視線が
とても、人ひとりから放たれている存在感とは思えぬその圧に、思わず息を呑んだ。
「そ、それで? 俺に何をさせるんだっけ?」
「ふん。巡り巡って、
思った通りだった。
「はあ……やっぱそれか。また無理難題を」
「難題? いや、そんなわけないだろ。やる前から決め付けんのは良くないぞ?」
「分かってて言ってるなら、本当に性格が悪い」
「勿論、分かってて言ってるさ。アンタなら何とかするって」
「そんな弱気になるな。安心しろ、ウチはこう見えてめちゃくちゃ優しい先輩だ。後輩クンのことは分かっているから」
また全身でスタッカートを打ちながら言葉を紡ぐ
強まっていく語気に呼応するように、
「……っ」
嫌な感じだ。相変わらず。ゾワゾワする。
「アンタがちゃんと実績上げられるように、ちゃんと舞台整えてやるから」
なんだかんだ
「後輩クンの後輩、つまり二回生から有志を募った。一緒に行って、先輩としての威厳を見せてやれ」
「…………な、るほど?」
なるほど、その手があった。
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