第77話 それドラゴン種の中での話やで


「なあ……あれってディルクとアルベナだよな?」


 俺は岩陰に隠れつつ、遠くの輸送団を見つめる。


 輸送団はなにやら布で覆われた長方形の物体を運搬しており、それをディルクたちに届けにきた様子だ。


 クローディアも俺と同じように身を潜めつつ、


「ええ、そのようですけれど……。こんなところで一体なにをしているのでしょうか?」


「きゅわっ?」


「こらフレン、危ないから隠れておいでなさい」


 相変わらず彼女の頭に登ろうとするフレン。


 どうしてもその位置が好きらしい。


 なんともほっこりする光景だなぁ。


「うーん、見た感じ荷物の引き渡しをされてるみたいだけど……。いやまさか……な……」


 ……違くあってくれ。

 頼む。


 どうか、ロゼが言ってた”ドラゴンを取り寄せた”とかいう取引の瞬間ではありませんように……!


 純粋に、ディルクの手にドラゴンが渡る瞬間とか見たくない。


 それに取り寄せたのって、捕獲した野生のドラゴンなんだろ?


 譲渡のタイミングとか一番事故りやすいじゃんか……。


 俺がそんなことを考えていると――輸送団のメンバーたちが、荷物に掛けられた布をバッと取り払う。


 そして俺たちの目に映ってしまったのは、


「――ッ! ドラゴン・タートル!」


「う、嘘!? どうしてディルクたちがドラゴンなんて……!?」


 驚きを隠せないクローディア。

 彼女はなにも知らなかったから無理もない。


 あーあ、もう……。

 やっぱり取引の瞬間だったのかよ……!


 こんな場面に出くわすとか、運が悪過ぎだろ……。


 ある意味タイミングが良すぎるとも言えるけど……。


 それにしても――取り寄せたのがドラゴン・タートルとは。


 ……なんか、もうだいたい想像つきました。

 ディルクたちがなにを企んでるのか。


 どうせアレでしょ?


 飼いやすい上級ドラゴンを躾けて、

「フェルスト家でもドラゴンくらい余裕で飼えるからwww」

 とか、

「これでワイバーンなんか育ててるクローディアは形無しwww」

 なんて煽るつもりだったんじゃないか?


 ドラゴン・タートルっていえば温厚で大人しい性格なことで有名だからな。


 それでいて上級種だから、フェルスト家の品格を落とさないとでも思ったんだろう。


 少し前に”呪操珠”が問題にもなったし、そんなのに頼らなくても躾けられそうな上級ドラゴン――。


 そう考えて、消去法であの種に行き着くのは納得だ。


 ……でも、現実はそんな甘くないぞ。


 頼むからおかしな真似だけは――


「あっ! 見てくださいまし、護衛がドラゴンを鞭で叩き始めましたわ!」


「……はぁ!? あいつらなに考えて――!?」


 ああもう、祈った傍からこれだよ!


 出会ってすぐのドラゴンに鞭を入れるとかアホなのかぁ!?


 あの調教師テイマーっぽい男、絶対に上級ドラゴンを育成した経験ないやんけ!


 他の下級モンスターとはちゃうねんぞ!?


「な、なんだかドラゴンが怒り出し始めましたけれど……!」


「……」


 アカン。

 もうこの後の展開が見える。


 ……確かに、確かにドラゴン・タートルは大人しくて温厚だ。


 でもそれは――あくまで”上級ドラゴン種の中では”って話。


 ドラゴン種は総じて気高く、誇り高い生き物。


 ドラゴン・タートルとてそれは例外ではない。


 攻撃的な性格ではないだけで、もし危害を加えられようものなら――



ドガアアアァァァンッ!!!



「あ」


「あ……あああ! ドラゴンが檻を壊して逃げ出しましたわッ!?」


「きゅわぁっ!?」


「きゅーん!?」


「……言わんこっちゃない」


 はい、こうなりますよね~。

 

 どうせ無事にここまで運んでこられたのだって、輸送団の人たちが”ディルク様にお届けする商品を傷付けるワケにはいかない”って丁重に扱って運搬したからだろうし。


 そこにいきなり鞭なんて入れられたら「降りかかる火の粉は払う」ってなるに決まってるよ。



「フシュワアアアァァァッ!」



「ド、ドラゴンがディルクたちを追いかけ始めましたわ! ど、どうしましょう!?」


 ――慌てて逃げ出すディルクやアルベナたち。


 それを追うドラゴン・タートル。


 輸送団の人たちはターゲットにならなかったようで、受け取りに来た彼らだけを執拗に狙っている。


 やっぱりモロに扱いの差が出てんじゃん……。


「……放っておけばいいんじゃない? ワイは意味もなくドラゴンに鞭を入れる奴らは好かんでのう」


「きゅーん!」


 そうだそうだ! 賛成!

 とプンスコと怒るスピカ。


 うんうん、そうだよね。

 ドラゴンは愛でてナンボだもんね。


 あんな奴らは放っておきましょう、そうしましょう――。



「で、ですけれど……ディルクたちが向かっている先って――『ハンプール』の街がある方角じゃ……!」


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