第76話 後悔先に立たず(※三人称視点)


 ――『オレンジ・ロック・キャニオン』の街道を進んでいた商人輸送団。


 彼らは大人数で、一つの巨大な荷物を運んでいた。


 長方形の箱のような物体に布が被せられ、周囲から中身が見えないようになっている。


 重量もかなりあるようで、十頭以上の牛で引っ張っている。


「――よし、止まれ」


 リーダーらしき男が合図すると、輸送団は足を止めた。


 すると――彼らの下に、護衛に守られた一組の男女が近づいていく。


 ディルクとアルベナだ。


「ディルク・フェルスト様、アルベナ・ビュッセル様、ご依頼のお荷物お届けに参りました」


「うむ、ご苦労」


「おっそいわよ! このアタシを待たせるなんてどういうつもり!?」


「よ、予定より幾分早く到着したのですが……」


「遅いったら遅いの! 社員のくせに口答えすんじゃないわよ!」


「……申し訳ありません」


「まあそう言ってやるな、アルベナよ。それより……”荷”の確認をしても?」


「ええ、勿論です。おい、布を上げろ!」


 リーダーが号令を出すと、共に荷物を運んでいた彼の部下たちが布を取り払う。


 そして――隠されていた中身が露わとなった。


 まず見えたのは巨大な檻。

 さらにその中には――バカでかい甲羅を背負ったドラゴンが鎮座していた。


「これが……”ドラゴン・タートル”か……」


「フフ、こいつがいればクローディアたちに目にもの見せてやれるわ。そうでしょ、ディルク様?」


「ああ、そうだ」


 ディルクは檻に近付き、ニヤリと笑みを浮かべた。


「” 戯言だと思うなら、あんたもドラゴンを育ててみればいい”……だと? この私にそんな口を利いた事、後悔させてやるぞ……ノエル・リントヴルム」


「ぷくく、ライバルの事業を先んじて奪うのは商売の基本だものねぇ?」


 アルベナも口の端を吊り上げ、扇子で顔を扇ぐ。


 まるで勝ち誇ったかのような表情だ。


「フェルスト家でもドラゴンの育成ができるとなれば、クローディアになんて誰も振り向かなくなるわ。やって来たこと全部無駄になってかわいそ~♪」


「やれやれ、本当ならば汚らしいモンスターになど近寄りたくはないのだがな。――まあ、お前がいれば私は近寄らずに済むだろう?」


「へえ、あっしにお任せあれ!」


 続いて前にでたのは、護衛の一人としてディルクたちに随伴していたジャンという小柄な男。


 彼はディルクに金で雇われた調教師テイマーであり、腰には鞭を備えている。


「大金を払って貴様を雇ってやったのだ。しっかり仕事はしてもらうぞ」


「大丈夫ですよ旦那。あっしはこう見えて色んなモンスターを躾けてきたんです」


 ジャンはそう言って、腰の鞭を手に構える。


「上級ドラゴンを躾けるのは初めてですが、ドラゴン・タートルは大人しい性格で知られてますからね。立場を教え込んでやりゃあ――言うこと聞くでしょうよ!」


 腕を振るい――ジャンはドラゴン・タートルに鞭を叩き込む。


 バチン!という音が奏でられ、ドラゴン・タートルの視線はジャンへと向いた。


「フシュウウゥゥ……」


「よおし、今から俺がお前の調教師だ! 逆らうんじゃねぇぞ! 逆らえば鞭打ちだからなぁ!」


「フシュウゥ……!」


「ね、ねえ、本当に大丈夫なの……? なんか怒ってるように見えるんだけど……?」


「心配いりやせんて、どうせ檻に閉じ込められてるんですから――」


 ジャンが余裕を崩そうとしなかった――その時。


「フシュワァッ!」


 ドラゴン・タートルは大きく身体を動かし――自身を閉じ込めていた檻を、内側から破壊した。


「「「あ」」」

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