第75話 ドラ友


「きゅわっ!」


「みゅー!」


『オレンジ・ロック・キャニオン』のど真ん中で、スケールが小さいながらも激しい戦いを繰り広げる二体のモンスター。


 フレンとジャッカロープだ。


 両者の大きさはほぼ一緒。


 赤ちゃんドラゴンVS角ウサギという構図は、ぱっと見なんともかわいらしい。


「フレン! 〔ヘッド・バット〕ですわ!」


「きゅわっ!」


 クローディアから指示を受け、鋭い頭突きを繰り出すフレン。


バシンッ!


「みゅ……ッ!」


 頭突きはジャッカロープにクリティカルヒットし、小さな身体が吹っ飛ばされる。


 勝負ありだ。


「やったぁ! やりましたわねフレン!」


「きゅわぁ~♪」


 戦いに勝利したフレンをぎゅっと抱き寄せてあげるクローディア。


 それと同時に、


ピコン!



〔〔ジャッカロープを撃破!〕〕


〔〔経験値を取得〕〕


〔〔レベルUP!〕〕


〔〔各ステータスが上昇〕〕



 フレンの頭上にアイコンが表示。

 彼のレベルUPが明示される。



「いい調子だね、順調に強くなってるみたいだ」


「きゅーん♪」


 戦闘を終えた二人に対し、俺とスピカは近づいて声をかける。


 状況によってはスピカを増援に送ることも考えてたけど、その心配は杞憂だったな。


 ――俺たちが『オレンジ・ロック・キャニオン』にやって来て、早数日。


 フレンの初陣もとっくに済み、今じゃ雑魚モンスターとの戦闘もお手の物。


 俺とスピカも後方から安心して見ていられるほどに成長した。


「勿論! ジャッカロープなんて、もう私のフレンの敵ではなくてよ!」


「きゅわっ!」


「その意気その意気。自信が付いてきたようでなによりだ。……後は空を飛べれば完璧だね?」


「むぐっ……!」


「きゅわっ……!」


 トスッ、と胸に見えない弓矢が刺さったご様子。


 ……レベルも上がってきており、フレンの育成は順調。


 しかし、それでも彼は未だに空を飛行できずにいた。


 岩の上から飛び降りて飛ぶ練習は日がな繰り返しているのだが、中々どうして上手くいかない。


 彼も必死で小さな翼を羽ばたかせるのだが、どうも恐怖心が勝ってしまっているようなのだ。


 とはいえ、


「ま、焦ることないよ。時間をかければ飛べるのは間違いないし、この後も飛ぶ練習をしたら街へ戻ろう」


 ――ちなみにだが、俺たちはここ数日『オレンジ・ロック・キャニオン』の近くにある街『ハンプール』で宿を取っている。


 一々学園と往復するには流石に距離がありすぎるからな。


「そうですわね。……ところで気になっていたんですけれど……」


「ん? なに?」


「よくこんな長期の外泊許可が取れましたわよね。一体どんな手を使ったんです?」


 ――当たり前だが、俺たち学園の生徒は学園内で過ごすのが決まり。


 今頃、他の学園生徒たちは普通に授業に出席して講義を受けていることだろう。


 だから何日間も学園を離れる場合は許可証を発行してもらうのだが、これにはちゃんとした理由が必要だ。


 ”育成モンスターのレベルUPのため”……だけだとちょっと弱いな。


 あくまで場合によりけりではあるけど。


「ああ……それは学園長に頼んだんだよ」


「デイヴィス学園長に?」


「俺と学園長は”ドラゴン好き”で繋がるドラゴン友達……略してドラ友だからな! お願いしたら聞いてくれたよ!」


 そう、前回のアース・ドラゴンの件からというもの、俺とデイヴィス学園長はもはやマブダチの仲。


「ドラゴン、いいっすよね」「ドラゴンはいいぞぉ」で通じ合えるドラ友なのだ。


 だから「ドラゴンフレン強くしたいから外泊許可出して♡」ってお願いしたら「しょうがないのぉ……」とすんなりハンコを押してくれたよ。


 やっぱり持つべきものは同好の士だよな、うん!


「……なんでしょう、先に言っておきますけれど私をそのドラゴン友達に含めないでくださいね?」


「え、なんで!?」


「なんか嫌です。ええ、とっても」


「そんなぁ……」


 (´·ω·`)ショボーン


 残念……もう少しでクローディアもこっち側に引きずり込めると思ってたのに……。


 ふっ、まあいい。


 彼女も少しずつ洗脳して、もはやドラゴンなしでは生きられない身体にしてくれるわ……。


 くっくっく……。


「そういうところが嫌だと言っているのですけれど」


「え? ま、まだなにも言ってないけど!?」


「言わなくても全部顔に出てましたわよ」


 嘘だろ……マジかよ……。


 俺ってそんなに考えてること顔に出るのか……?


 怖……。


「さあ、早く飛行練習を始めましょう。こんな話ばかりしていては日が暮れ――あら?」


「……? どうした、クローディア?」


「あれ……」


 クローディアは茫然と遠方を見つめる。


 それに釣られ、俺も彼女の視線の先を追うと――


「あれは……商人の輸送団?」


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