いつも行く本屋

@mia

第1話

 仕事が休みの日曜日、特に予定がない時は昼飯後近所の本屋へ行くのがルーティンとなっている。

 本屋と言っても大手の書店ではなく、おじいちゃんが店番をしている住宅街にある小さな本屋だ。

 本屋に入ってレジカウンターを見て驚いた。いつもと違う若い男が座っていたからだ。

 いつもいるのはガタイのいい、いかつい強面のおじいちゃんだ。たまにおじいちゃんがいない時は。奥さんが店番をしていた。

 初めて見る彼は孫だろうか。でも全然似ていない。

 優しそうな、人の良さそうな顔をしている。

 父に頼まれていた雑誌を手に取り、レジ横に置く。

 違っていることがもう一つあった。

 レジの横に本を抱きしめたうさぎのぬいぐるみが置いてあった。

 でも、題名や作者名が読めない。子どものいたずらだろうか、マジックでぐちゃぐちゃにしてある。

 いつものおじいちゃんと違うので、気安く声をかけてしまった。

「これ、何ですか」

「これは買ってもらえなかった本です。深夜の散歩で起きた出来事が書かれています。ご覧になりますか」

 そう言って動いたお兄さんをよく見たら、筋肉がつき結構いい体をしている。

 やっぱりあのおじいちゃんの孫か。

「結構です」ととっさに答えてしまったら、「そうですか」とお兄さんは引き下がった。

「本との出会いは一期一会ですからね。お客様とこの本はご縁がなかったということでしょう」

 精算が終わり店を出た。

 帰る途中見かけた車のナンバーに7が見えたので縁起が良さそうと思ったが、黒猫が前を横切り転びそうになったり、家に着く前に雨が降り始めたり他と全然運が良くなかった。アンラッキー7だ。

 家に帰ってからは、なぜかあの本が気になった。

 気になって次の日曜日は、午前中に本屋に行ってしまった。

『行くなら午前も午後も同じだ』とかいいわけをして。

 でも本屋にいたのはおじいちゃんだった。

 気後れして聞けないまま数年後、店は閉店していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつも行く本屋 @mia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ