みつどもえ
「ごめんなさい………。せっかくの長期休暇に私の事情につき合わせてしまって………」
ここに来るまでの道中、自分から一度も口を開かなかったレフィアちゃんが初めて自分から話しかけてくれた。
「いや、俺も早くリフィアちゃんに会いたかったし………それに元々はいつか神聖国に来るつもりだったから全然気にしないでくれ」
俺とレフィアちゃんは今、王都から南の方にある神聖国という国に来ていた。理由はもちろんこの神聖国の教会に居るというレフィアちゃんに会うためだ。
そして出来る事ならこの機会に前にララが言っていた神聖国に伝わっている『結界』というものについて調べてもみたかった。……といっても学校の長期休暇の間という限られた時間の中でどれほどの事が出来るのかは分からないが……。
「……それはナイトエイジさんと?」
「……ん?」
ナイトエイジ?なんで急にリリィの事を?
疑問に思いレフィアちゃんの目線を追って行くと、そこには仲睦まじそうな若い男女の二人組が居た。
「あれは……」
今自分達は神聖国行きの馬車から降りてすぐの場所にいるのだが、周りを見ると他にも沢山の男女二人組が馬車を乗り降りしていた。
『ここにいる人間達はアニキの居た世界で言う結婚式をこの神聖国の教会で挙げる為に来たものだと思われるッス』
『……結婚式』
結婚式……ナイトエイジさんと……もしかしてレフィアちゃんと俺との間で認識に大きな間違いがあるのでは無いだろうか。
『その儀式をしたところでララとアニキのように一心同体になれる訳でもないのに進んでやりたがるなんて理解に苦しみますね』
「あの、レフィアちゃん?俺とリリィは別に………」
「リフィアの所に行く前に……出来たら会って欲しい人がいるの」
レフィアちゃんの勘違いを訂正しようとしたが、それを遮るように言葉を被せられた。
「会って欲しい人?リフィアちゃんじゃ無くて?」
「…………………………レグスよ」
「え?」
「私達と同じ村に住んでいたレグス・シルフレヴよ」
「レグス君も此処にいるのかっ!?」
「……ええ、でも貴方が会いたく無いのなら……」
「勿論会いに行くよ!」
まさかレグス君が神聖国に居るなんて思いもしなかった。……だがレフィアちゃんは何故今までその事を教えてくれなかったのだろうか?
「ごめんなさい……会って欲しいなんて言える立場じゃ無いけれど………彼にもリフィアを見ていて貰った恩があって……」
「……こっちよ」
レフィアちゃんに手を引かれて移動しているうちに見慣れた様式の建物が見えて来た。
レフィアちゃんはそのまま躊躇いなくその建物の中に入っていき入り口横の受付に座っている女性に話しかけた。
「レグス・シルフレヴを呼んでもらえますか」
「……少々お待ち下さい」
受付の女性が少し席を離れて、少し時間を置いた後一人の男性を連れて戻って来た。
その男性はレフィアちゃんの存在を確認すると急いで駆け寄り目の前で深々と頭を下げた。
「レグスさん!?」
状況についていけていない受付の女性が頭を下げているレグス君を見て驚きの声を挙げていた。
そしてかくいう俺も状況を把握出来ずに固まっていた。
「すまないレフィア!俺が着いていながらリフィアを本部の修道院に連れて行かれてしまった!」
レグス君は周りの視線が集まっていることなど気にせず、懺悔するかのように謝っていた。
「いえ、元はと言えば私が魔法学校に入ろうとしたからこんな事になってしまったのよ。レグスが謝る事は無いわ」
「それは………仕方ないだろう!俺もエデルをあの森に置いておけないっていうのは俺も同じ気持ちだ!だからレフィアがあの魔法学校から腕輪を持ち帰って来るまでは俺がリフィアの面倒を見ておくと、そう啖呵を切っておきながら………!」
「え?………俺?」
レグス・シルフレヴは今自分が頭を下げている幼馴染の真横から男の声が聴こえてきた事に驚いて顔を上げてしまった。
本当は頭を上げるつもり等無かった。だがその聴こえてきた声に覚えがある気がしてつい男の顔を見てしまった。
「……………な」
「えーっと、久しぶりだねレグス君。ところでレフィアちゃんが魔法学校に入った理由に俺が関係しているって一体……」
その声だけでなく顔にも覚えがあった。それどころかよく知っている顔だった。そしてあの自分がどれだけアプローチをしても一切靡かなかった彼女が手を繋いで側にいるのも納得な人物の顔だった。
「……………………あり得ない」
だがその人物が此処にいる筈がなかった。いや、それどころかこうして生きて話しかけて来る訳が無い。
何せアイツは自分が殺した。木刀で腕の骨を折り、そのまま満身創痍の彼を自分が『腐敗領域』に追いやったのだ。
そして終いには自分は『腐敗領域』ギリギリの場所までアイツを追い込んだせいで重度の腐敗の毒気にやられ死にかけ、アイツが持って帰ってきていた黄色い実のおかげで命を繋ぎ止めたという不甲斐無さだ。
「…………………………………エデル」
だからもし彼が生きていていたのなら俺は………。
ここに来るまでの道中、レフィアちゃんからレグス君がここにいる事、自身と同じくらいに三年前の件を気にして未だに引き摺っているという事を教えて貰った。
「…………………………………エデル」
前持ってレフィアちゃんからそう教えて貰っているせいかも知れないがレグス君のその表情は罪悪感で今にも押し潰されそうな感じに見えた。
「いやぁ、まさかレグス君が神聖国に居るなんて思わなかったよ。こんなに大きくなってぇ。見違えたよ」
レフィアちゃんが魔法学校に入学しようと思った理由について聞き出したかったが、今は兎にも角にもレグス君に此方は一切あの事で怒っていない、恨んだりしていないという事を知ってもらう事が先決だった。
「…………………どうして……………………なんで此処に」
「あの……此処で揉め事を起こされるのは困ります。部屋を一つ空けるので話し合いならそこでお願いします。………大丈夫ですか?レグスさん」
「…………あ、ああ」
受付の女性に言われて周りを見てみるとギルド内に居る殆どの人が此方を興味深そうに見ていた。
確かに此処はゆっくり話すためにも好意に甘えて部屋を貸して貰った方が良いかもしれない。
心此処にあらずと言った様子のレグス君の手を引いて移動している受付の女性の後をレフィアちゃんと二人で着いて行った。
「此処です」
案内された部屋には椅子が二つしか無かった。
「………私は立っておくからエデルがレグスと話してあげて」
レフィアちゃんの申し出により俺とレグス君が椅子に座ることになった。
「では私はこれで……………あの」
部屋まで案内してくれた女性が部屋から出ていく間際に俺達に話しかけてきた。
「レグスさんは本当に良い人なんです。あなた方と何があったのか分かりませんがどうか寛大な対応をお願い致します」
「いや、俺達はただ幼馴染に会いに来ただけで………」
「……本当ですか?ならなんで……」
彼女は心配そうにレグス君の方へ目を向け、神妙な面持ちで此方に顔を向けた。
「分かりました。その言葉を信じます。だからどうか……彼の事をよろしくお願いします」
最後にペコリと一礼し、受付の女性は部屋から出て行った。
「じゃあ……改めて……………久しぶりだねレグス君」
「生きて………いたのか………」
「信じられないかもしれないけど『腐敗の女神』に助けて貰ったんだ」
「俺を………」
「ん?」
「………俺を殺しにきたのか?」
「違うよ!?」
「なら………なんで」
「レフィアちゃんからレグス君があの村での事をずっと気にしているって教えて貰ったから俺は全然気にしてもいないし怒っても恨んでもいないからレグス君も気にしないでくれって事を伝えに来たんだ。だいたい俺があのタイミングで女神!なんて紛らわしい叫び声を上げなければ良かった話で………」
「違う……!違うんだエデル……!」
レグス君は突然椅子から転げ落ちるように地面に這いつくばった。
「ちょっとぉ!?」
急にどうしたんだ!?
「あの日………俺が森の方から出てきたエデルを見て大声を上げなければ村の奴らが、レフィアが起きてくることは無かった。それに俺はエデルが戦いは弱くても自分の都合で他人を傷付けたり……ましてや殺すようなやつじゃ無いと知っていたのに………あの時お前に剣を向けてしまった………!だからあの時エデルが村から追放されたのも……死にかけたのも………全部俺のせいだ!!」
「レグス君………」
レグス君はあの時のことをそこまで気に病んでいたのか………。レフィアちゃんから前以て聴かされてはいたが此処までだとは思わなかった。
そして俺はこんな精神状態のままレグス君の事を……三年間もほったらかしにしてたのか。
「ご………ごめんレグス君…………まさかレグス君が此処まで気に病んでたなんて………」
謝るのは俺の方だ。俺があの時すぐにでも自分の無事を伝えに村に戻っていれば………
「いや………エデルが謝ることじゃ無い………全部俺が悪いんだよ……」
「違う!あの時のことも………此処までレグス君を追い詰めてしまったのも………俺が悪いんだ!」
「いや、俺が!」
「俺が!!」
……
「二人とも一旦落ち着いて」
お互いに自分の方が悪いと言い張り合っていると突然それまで一言も発言しなかったレフィアちゃんが初めて口を開いた。
「………」
「………」
レグス君の主張を認めるわけにはいかなかったがレグス君と同じぐらいレフィアちゃんの方にも自分の無事をすぐに伝えなかったという罪悪感があり無視をするという訳にもいかなかった。
「二人の言ってる事は間違っているわ………」
「「間違ってない!俺が……!」」
「いえ………間違ってる。…………本当に悪いのは………私よ!私はあの村にいる誰よりもエデルを信じるべきだった!それにあの時私がエデルの顔をあそこまで殴らなければエデルはレグス達に弁解出来た筈なのよ!!……だから全部私が悪いのよ!!」
「いや貴女も参加するんかーい!!」
レフィアちゃんが突然懺悔し始めたかと思うと部屋のドアがガチャッと開き、先ほど出て行った筈の受付の女性が部屋の中に飛び込んで来た。
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