祝勝会


 「いやーめでたいでござるな!此度の勝利によって更に『名刀でゅらんだる』に近づく事が出来たでござるよ。これもひとえに此処にいる皆のお陰でござる!」


 「いやー本当にヒサメの言う通りだと思うわ!『ダンジョン攻略』の時も『PvE』の時も、此処にいるうちの誰か一人でも欠けていたらこんないい結果は残せなかっただろう!俺達は最高のチームだ!」


 「いやー僕は今回はたまたま弱い人と当たったから勝つことが出来ました!強い人と当たっていたらどうなっていたか分かりませんが最終的に一位を取れたのなら何の問題もありませんよね!」


 先日、見事に『PvP』で一位の成績を収めた俺たち四人は今、特別寮にある俺とヒサメの部屋で祝勝会を開いていた。


 祝勝会と言ってもそこまで広くも無い部屋に各々食堂からご飯を持ち寄って集まっているというだけのささやかなものなのだが………。


 そして祝勝会と表現はしているがこの会を開いた目的は勝利を祝うことでは無い。みんなまだこの一回の勝利で宝物庫の中の物を貰える事が確定した訳じゃ無いと分かっている。


 この名ばかりの祝勝会は『PvP』が終わって以降ずっと思い詰めた表情をしているリリィをどうにか励ます為に三人で開いたものだ。


 「……ジョンさん達が宝物庫を諦めずに済んで本当に良かったですわ」


 リリィが落ち込んでいる原因も分かっている。きっと自分一人が『PvP』で黒星を付けられた事を気に病んでいるのだろう。


 だが勿論俺達も彼女が手を抜いていたから、実力が足りていなかったから負けた等とは思っていない。


 彼女に実力がある事も、決して魔競技に対して手を抜くような人物では無い事もこの一年間を共に過ごした事でよく分かっている。


 きっと対戦相手が………レフィア・マクスウェルがそれ以上の実力と執念を持っていたのだろう。


 それに何よりリリィがいなければあの『ダンジョン攻略』で耐魔ローブを装備した魔物が出て来た辺りで詰んでいたかもしれない。


 先ずはリリィが、一度負けたぐらいでは崩す事の出来ない程の貢献をこの班にしてくれているという事を思い出して貰おう。


 「…………リリィ、聴いて欲しいことがある」


 「……はい」


 彼女は何かを覚悟した様な表情で此方を見つめて来た。


 「俺達はリリィが強い事と、決して魔競技を軽く見ていない事を知っている」


 「……でも私は負けてしまいました」


 「確かに今回は負けたのかもしれない。だけど結果的には『PvP』で一位を獲る事が出来たし、何よりリリィが居てくれなかったら『ダンジョン攻略』の時点で終わっていたかもしれない。リリィのおかげで俺達は入学した目的を諦めずに済んだ。こうやって今祝勝会をやれているのもリリィのおかげだ。………俺達はリリィに心から感謝をしているし仲間だと思っている」


 「………」


 「それだけはどうか知っておいて欲しい」

 

 伝えたい事は全部伝えた。後は彼女の中の引け目が無くなることを祈るばかりだ。


 「………次は」


 「ん?」


 「次は必ず勝ってみせますわ」


 「あ、ああ!次は絶対に勝てるさ!俺達はリリィがどれだけ強いか知っているからな!」


 「勿論僕達もリリィさんの強さは信頼してます!」


 「リリィ殿が元気を取り戻してくれて良かったでござる。それでは改めて祝勝会と行くでござるよ」


 祝勝会が始まって以降誰も手を付けてなかった料理へとヒサメが手を伸ばしはじめた。


 そしてそれに続く様に俺達も食事を開始した。






 「いやあ、とりあえず第一学年であるうちの総合成績で一位を取る事が出来て本当に良かったでござる。これで拙者も『名刀でゅらんだる』を諦めずに済むでござるよ」


 部屋に持ち込んだ料理が全て無くなり、一息ついた頃にヒサメが話を始めた。


 しかし『名刀でゅらんだる』か………何度聴いても気が抜ける様な名前だな。


 「ジョン殿も僅か一年目で『状態異常封じの腕輪』を諦めずに済んで良かったでござるな!」


 「そうだな。本当に良かった……………ところで今更だが『名刀でゅらんだる』ってどんな物なんだ?」


 「うむ!よくぞ聞いてくれたでござる!『名刀でゅらんだる』とは無一文字家の先祖が、かの有名な異界人いかいびとのユウト・フジヤマ殿から譲り受けたとされる刀の事でござる」


 異界人?


 『アニキと同じ世界からこの世界に来た………分かりやすく言うと転生者のことッス』


 『なるほど、この魔法学校を創った奴が転生者だって事はララに聴いたけど……この世界で転生者の存在って結構有名なものなのか?』


 『アニキみたいに人間の領土の端っこにある様な村に住んでる人達は知らないでしょうが王都の方では結構メジャーな存在ッス』


 『そうだったのか……王都に来て結構経つが今初めて知ったよ』


 『………おかしいですね』


 『ん?』


 『かつて『悪滅の雷』としてこの魔法学校を創った異界人に寄生して記憶を覗いた時には異界人は結構居た筈ッス。王都に居たら異界人の活躍や名声が必ず聴こえてくる様な状態でした』


 『そんなにオープンに活躍していたのか』


 『今まで気にも留めなかったがアニキと王都で過ごしていて異界人の話が全く入って来ないなんて、何かおかしい。そういえば私が寄生した異界人の記憶では神は男だった。そしてアニキと違って転生という形ではなく死んだ時の年齢のまま此方の世界に転移させられてた筈』


 『ララ?』


 『異界人はもう居ないのか?ならアニキの存在はいったい………』


 『何か不味い状態なのか?』


 『いえ………アニキを転生させたあの女神の思惑が分からない以上なんとも言えないッス』


 『あのクソ女神か?間違って殺したからお詫びに転生させるって言ってたけど………』


 それ以外に何か理由があるのか?


 『そうッスね。もし仮に………アニキが何かの思惑に巻き込まれていたとしても…………ララが必ずお守りします』


 「ジョン殿?大丈夫でござるか?」


 おっと、またララとの話に集中していて上の空になっていた。


 「すまない、ボーっとしていた」


 「疲れているのでござるか?もしそうなら今日はもうこれで御開きとするでござるか?」


 「いや………もっと話を、そのユウト・フジヤマについて色々聴かせてくれ」


 「む、ジョン殿の頼みとあらば吝かでは無いでござるが……本当に身体の調子は問題ないのでござるな?」


 「ああ」


 「ならば話すとしよう。異界人ユウト・フジヤマは鍛冶師としてその名を馳せた者でござる。拙者の一族の家宝となっている『名刀でゅらんだる』の他にも『聖剣デュランダル』『魔剣デュランダル』と言った名剣名刀を世に送り出しているでござるよ」


 「そいつは……」


 武器の名前それしか知らないのか?


 「ん?どうしたのでござるか?」


 「いや何でもない」


 「あとユウト・フジヤマというと『沈黙の歌姫』の話が有名です」


 どうやらヘンリーもユウト・フジヤマについて何か知っている様だった。


 「『沈黙の歌姫』というと『七つの厄災』の一つだよな?名前は聴いた事あるけど『沈黙の歌姫』は実質存在してない様なものだから気にするなと聴いたんだが」


 「その表現も間違ってはいません。今現在『沈黙の歌姫』は封印されています」


 「封印?」


 「はい。そしてその『沈黙の歌姫』を封印している部屋の壁を造ったのが今ヒサメさんが話していたユウト・フジヤマさんです」


 そこからヘンリーは『沈黙の歌姫』についての話をしてくれた。







 かつて王都で魔法使い達の叛乱が起こった。当時はまだ貴族ならば魔法が使えて当たり前と言う風潮もなく、只々魔法という圧倒的な力を前に貴族達が、王城を守護する騎士団達が蹂躙されていた。叛乱を起こした魔法使い達が、我らこそが上位者で支配権を持って然るべきと王城へ向かっている時にソレは突然現れた。

 ソレが現れると同時に王都に居る全ての者達の頭の中に唄が響いて来た。そしてそれと同時に声を出す事が出来なくなった。

 急に訪れたその症状に全ての人間が焦り困惑した。

 だが一番困惑したのは反乱を起こしている魔法使い達だった。突然声を奪われ魔法の詠唱が出来なくなった。

 そしてその隙を騎士団は見逃さなかった。自分達も今、何故声を出せなくなったのか、この頭に響く唄声は何なのかと疑問ではあったがそれ以上に相手が撃ってくる魔法がピタリと止まっている今なら叛乱を鎮める事が出来るのではないかと攻勢に転じた。

 結局ソレが現れてからものの数分で叛乱を起こした魔法使い達は鎮圧された。魔法という力を取り上げられた彼らは無力だった。

 そして叛乱の後処理が終わった後、残された課題は突如現れた唄を流し続けるナニカをどうするのかということだった。

 耳を塞いでも、壁で遮ってもその唄を遮る事が出来ず、一切の攻撃をしてこないソレを物理的に壊そうとしても何かの金属で出来ていると思わしきその体に傷一つつける事が出来なかった。

 途方に暮れた彼らの前に一人の異界人が現れた。その異界人の名はユウト・フジヤマ。数々の名剣名刀を造り出した人物だ。

 最初ユウト・フジヤマは自らの造った剣でソレを破壊しようとした。

 しかしそれに待ったをかけた人物がいた。当時騎士団の団長を務めていたアゾーケント家の祖先にあたる人物だ。

 騎士団長は紙に文字を書き要望を伝えて来た。

 次にいつ魔法使い達の叛乱が起こるのか分からない。その時のためにこの女性を象った金属の塊を壊す方向ではなく封印する方向でどうにか出来ないかと。

 その要望をユウト・フジヤマは快諾した。次の日には金属の塊を囲む様に四方八方に壁が創り出されていた。

 そしてユウト・フジヤマは最後にその壁に付いている扉を閉めた。

 その瞬間、今までどうしようとも阻むことの出来なかった唄が聴こえなくなった。

 それと同時に全ての人々が声を取り戻した。

 皆が異界人ユウト・フジヤマに感謝をした。

 最後にユウト・フジヤマはこの扉は騎士団長であるアゾーケントの血筋の者しか開けられないようにしたと言い残しその場を去った。

 そして後に『沈黙の歌姫』と呼ばれる様になるソレを封印した扉はアゾーケント一族の管理の元、いつかまた訪れるかもしれない魔法使いの叛乱に備えて封印され続けた。


 しかし叛乱の中で見た魔法使いの圧倒的な力に魅入られた貴族達は積極的に魔法を使える者の血を自らの血筋に取り入れようと躍起になった。そこからどんどんと今の貴族ならば魔法を使えて当たり前という風潮に変わっていき………その流れに叛乱を見事収めたことで貴族の地位を得たアゾーケントも逆えなかった。


 いつしか『沈黙の歌姫』は、魔法使いの叛乱に備えて封印されているのではなく、貴族の絶対的な優位性を損なわない為に封印され続けることになった。



 


 「………という事が昔にあったらしいです」


 「ユウト・フジヤマ殿はその様な功績も残していたのでござるか。流石でござる」


 「『沈黙の歌姫』の詳しい話を初めて聴いたけど『七つの厄災』っていう割にはそこまで被害を出してるわけじゃないんだな」


 他の厄災と比べても致死性というのが低い気がする。


 「まあ、今の貴族の方々からすれば自分達の絶対性が無くなるので厄災扱いするのも分からない事では無いんですけどね」


 「話しているうちにいい時間になったでござるな。今日はもう御開きとするでござるか」


 「最後に一つ聞いていいか?」


 「どうしたのでござるか?」


 「三人は最近異界人の活躍とか噂とか聴いたことあるか?」


 「ないでござるな」


 「僕も過去にいた異界人については本で読んで知ってますが今を生きる異界人については知らないです」


 「私も今を生きる異界人なんて聴いたことないですわ。きっとその別の世界との繋がりが途絶えたのではないのでしょうか」




 コンコン




 四人で話していると突然部屋のドアをノックする音が聴こえてきた。


 「………拙者が行くでござる。ジョン殿は少し疲れているみたいでござるからな」


 ヒサメがドアの方に向かってくれた。


 「何用でござるか」


 「……ジョン・ドゥさんに用事があるのですが」


 ヒサメがドアを開けると女性の声が聴こえてきた。どうやら俺に用事があるようだ。立ち上がろうとすると他の二人がスクッと立ち上がり俺より先にドアの方に向かっていた。


 「!?あなたは!レフィア・マクスウェル!!」


 女性の顔を確認するなりリリィが驚いたような声を出した。


 「………アゾーケント班の人間がジョンさんに一体何の用なんですか?」


 さっきまでとは打って変わって冷たさを感じる声でヘンリーが質問を投げかけていた。


 「厳密に言うとジョン・ドゥさん個人というよりジョン・ドゥ班の方々にお願いがあります」


 「お願い?魔競技で負けて欲しい等といったお願いなら聞けぬ願いでござるよ」


 「…………違います。何でもするのでどうかあなた方が三年間の魔競技の成績で総合成績一位を獲った時に宝物庫から」


 「ん?あれ?レフィアちゃん?」


 驚く事にこの部屋を訪ねてきた人物の顔はこの世界での幼馴染の顔にそっくりだった。マクスウェルという苗字とアゾーケント班にいる事から貴族だというのは分かっているが、余りにも顔が似ていて驚いた。













 「………………………え?」





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