心霊スポット③


 「何もねえな…」



 少しホッとしたような感じで若者Cが言う。続いて若者Bと、若者Aが恐る恐る中へ入った。


 ぼろぼろになったベッドや棚。割れた窓ガラス。朽ちて物が散乱し足の踏み場もままならない。私はベッドに視線を移し寝てる同僚を見た。


 ふ、と同僚が目を覚ます。上半身を起こし目を擦った。キョロキョロ辺りを見渡しなるほど、と納得したような顔になったあと私を見、にやりといたずらっぽく微笑んだ。




 「っ…!!」




 若者Aは目を見開き肩を擦る。若者BCも少し焦ったような声を出した。




 「な、なんかこの部屋寒くね?異様に」

 「ああ、寒」

 「も、もう帰ろうぜ。怖えよお…」




 若者Aは泣き出してしまった。

 …別に怖いことしてないんだけど。やっぱ面白いなこいつら。ぷぷっ、




 「お、おい泣くなよ…」

 「仕方ないな、帰るかっ」




 若者Aの背中を軽くぽん、と叩いたBCは若者Aの腕を引きながら、扉を開ける。


 あれ、もう帰っちゃうんだ。残念だなあ~…あ、



 私はにいっと笑みを浮かべあることを思いつく。足音を立てずに部屋をあとにしようとする三人に近づいた。すうっ…と囁いた。笑いを含んだ声で。






 「また来てね」






 途端に三人はばっ、と振り向いた。口をパクパクさせ、顔は真っ青。




 「い、いま…!!なあ!?いま聞こえたか!?」

 「あ、ああ…、『また来てね』って……」




 「「「っ…!わあああああああっ!!!!」」」





 若者達三人は絶叫を上げて一目散に走り去って行った。




 ――中にはこんな感じでグループで帰って行く人間に憑いていく奴も少なくない。



 楽しさから

 羨ましさから

 怒りから




 でも、私はここを離れるつもりは全くない。いい場所だしね。




 「俺も起こせよ…。いっぱいいたずらしたかったのにさ」




 後ろから声がし、私は呆れたような目で振り向く。同僚はベッドに座ったまんま頭をぽりぽりと掻いた。



 「あんたが爆睡してんのが悪い。つうかいびきいい加減にしてくれ。騒音」

 「自然現象だ。ふあぁ…もう寝よ」




 同僚は欠伸をしたあと、再び寝転ぶ。




 「つうかお前、やけに楽しそうだな…。そんなにさっきの奴ら良かったか」




 同僚が天井を目に向けたまま私に呟いた。私は鼻を鳴らし答える。




 「うん、本当に。また来てほしいよ」

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