第17話  一か八か…の挑戦

「「「どうか、皆さまご武運を…!!」」」


<ハチ―クス>の町人が群がり、ペルシャロとヒロイドケイス、ミトミルを見送ろうとしていた。


「皆さん、ふた月の間、お世話になりました。わたくしたちは、必ず、魔界を滅ぼします。お元気で」


「「「「「はい。本当に、ありがとうございました」」」」」


大きく手を振りがら、3人は街を出た。



「…いよいよですね…ヒロイドケイス」


「あぁ…。ミトミルの作戦が、当たれば良いのだが…」


「そうですね…」


「うむ。我ながら、無謀にも近いと思うが、それでも、他に考えはあるまい?」


「はい。そう思います」


「で、ペルシャロ、調べはついたか?」


「<ファーサピーレカンツォーネ>と言う占術を使い、ある魔物がいる、と言う情報を得ました」


「占術で情報を!?ペルシャロ、また新しい占術を会得したと言うのか!?」


「はい。ヒロイドケイスが必死で特訓をしているのに、遊んでいるわけにはいきません。占術をもっと増やし、役に立たなくては」


そう言って、ペルシャロはにっこりと微笑む。いつの間に…。ヒロイドケイスは思った。例え、特訓をしているからと言って、ペルシャロが休んでいる所など、ほとんどみたことがない。それなのに、ヒロイドケイスの特訓をしながら、ホームメイドブックや、占術、そして、体力、精神力のスキルアップを、いつしていたのだろう?


(本当に、大した娘だ…。イヤ、もはや、やはり賢者と言うべきか…)


感心しながら、ヒロイドケイスは本題に入った。


「して、それはどこで、どんな魔物がいるのだ」


「<ネッスーノエクイプラート>と言う、人間がいない、魔物の草原です。ここから、約39里、と言ったところでしょうか」


「約2,3日と言う所か…。で、魔物の草原と言うからには、さぞや魔物が集結しているのだろうな…」


「はい。そこを総べるのが、<デイシーヴキャデリーノ>と言う魔物です。この魔物が、ミトミルのに最適かと…」


「勝算は…どのくらいと踏んでいる?」


「五分五分…としか…」


「そうか…」


3人に、緊張感が高まってきた。


「しかし、<インクボ>を倒すためには、避けて通れぬ道。ゆくしかないな…」


「はい。きっと、今のヒロイドケイスの力なら、作戦の成功は無くはない…でしょう」


改めて、苦境にいるのには相違ない、と言いたげなペルシャロの言葉に、ヒロイドケイスの額に汗が光る。




―2日後―


「ここから先は、わたくしが先導します」


「大丈夫なのか、ペルシャロ」


「はい。<ファーサピーレカンツォーネ>で、大分、情報は得られたので…。わたくしに付いてきてください。ただ!」


「「!?」」


いきなり、ペルシャロが語尾を強めた。


「決して、わたくしの1m以内にいること。それは守ってください。どんな敵に襲われようと、例え人間が現れようと、わたくしがこの<ハイドレンジャー>を濃くした、お香を絶えず持ち歩きます。その香りに、必ず付いてきてください。良いですね?ヒロイドケイス、ミトミル」


「「わ、解った」」


「では、行きますよ!」





そう言って、<ネッスーノエクイプラート>に3人は足を踏み入れた。そこには、不思議と魔力は感じられない。ただ静かに、時だけが過ぎて行く。しかし、ペルシャロの言葉が、ヒロイドケイスにはひどく重々しく感じられていた。あんなに険しい顔をしたペルシャロは、闘い以外では見たことがない。それほど、危険な草原には見えないのだが…。と思っていると、ペルシャロがいきなり足を止めた。


「ど、どうした、ペルシャロ」


「大丈夫。こちらへ…」


「あ、あぁ…」


そう言われてついて行くヒロイドケイスとミトミル。霧が濃くなってゆくのが解った。


「ペルシャロ、前が見えないが…」


「大丈夫です。こちらへ…」


「「う…うむ…」」


(!!)


ヒロイドケイスが、あることに気付いた。


「し!しまった!!」


「どうした!ヒロイドケイス!!」


その突然の叫び声に、ミトミルも思わず驚いた。


「貴様!!ペルシャロではないな!?」


「…」


「なぜそんなことが解るんだ、ヒロイドケイス」


「ミトミル!わからんか!<ハイドレンジャー>の香りがしない!!」


「な!?そ、そう言えば…!!じゃ、じゃあ、このペルシャロは…」


「間違いない!!魔物だ!!」


「な!なんだとぉ!!??」





「ヒロイドケイス、ミトミル、付いてきていますね?」


「「…」」


「ヒロイドケイス?ミトミル?」


「「…」」


「!!なんてこと!!あれほど言ったのに!!こうしてはいられません!2人を早く探さなければ…!」


ペルシャロは急いで、<ファーサピーレカンツォーネ>を唱えた。


「聞こえる…。北の方!!」


ペルシャロは北に一目散に向かった。




その頃。


「ふふふ…。ペルシャロのいないお前らなど、怖くもなんともないわ」


「く!やはり、魔物だったか!!」


「本当か!?ヒロイドケイス!!」


「あぁ、間違いない。こいつは、ペルシャロが言っていた、<デイシーヴキャデリーノ>に違いない!!確か、人間を陥れるのに恐ろしく長けた魔物だとペルシャロは言っていた!」


「どうする!?ヒロイドケイス!!ペルシャロがいなければ、作戦が台無しに…!」


「やかましい奴らだ。もうお前たちの命はないのだからその口を閉じろ」


と言うと、<デイシーヴキャデリーノ>は、ペルシャロの姿を一瞬で解き、魔物とは思えぬ、銀白の<ファラファーラ>として姿を現した。


「<スカーラ>!!」


魔物は白い鱗粉をまき散らした。その鱗粉がヒロイドケイスの肌にかかった瞬間、ヒロイドケイスは、悲痛な叫び声をあげた。


「ぐわぁぁぁあああ!!」


肌が、溶けているのだ。


「ヒ!ヒロイドケイス!!」


ミトミルは動揺しているだけで、何も出来ない。一巻の終わり…かと思われた、その時!


「<ベロソーギョ>!!」


草原の霧が一気に吹き飛び、魔力も魔物もいなかったはずの草原が、一気に荒れ果てた大地へと変わり果てた。


「「ぺ!ペルシャロ!!」」


なんとも格好いい登場の仕方だ。ヒロイドケイスは、お株をとられたようなものだ。こんな時、真っ先に勇者が駆け付けるのがお決まりなのに…。


「くっ!お前が…ペルシャロ…か」


「そうです!わたくしの仲間には一切手は触れさせません!!」


「す…すまいない。ペルシャロ。君があれほど忠告してくれていたのに…」


「いいえ。2人とも無事で何よりです」


さっと傷を負ったヒロイドケイスの前に立つと、<デイシーヴキャデリーノ>が笑った。


「ふ…」


「何がおかしいのです!!もうあなたのすきにはさせませんよ!!」


「その勇者を見るのだな」


「なに!?」


言われるがまま、ヒロイドケイスの方に振り向くと、全身が爛れ、腕は膿んでいる。この腕では、<ミュゼット>どころか、まともに剣を振り上げることも出来ない….。



(…)


状況はパニックを呼びそうなほど極めて最悪だが、何より最悪なのは、これからペルシャロの攻撃を受ける、魔物の方だ。


「こんな…こんな…ヒロイドケイスに…こんなダメージを…」


ペルシャロの瞳には、今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。それを、ヒロイドケイスは見逃さなかった。意地で立ち上がりと、これまた意地で、剣を振り上げた。


「ヒ、ヒロイドケイス!!」


「ゆくぞ!!ペルシャロ!!」


ペルシャロの涙で、体の傷が癒されただけでなく、<ワルツ>にペルシャロの涙が数滴落ち、それは、今までにないほど、輝きを放った。


「<ジュシティージアクパバズカ>!!!」


草原が、浄化され、魔物が逃げまどい始めた。


「ふ、そんな弱い占術で、おまえに何が出来る!俺様の勝ちだ!!<スカーラ>!!」


「今です!ヒロイドケイス!!」


「<ミュゼット>!!!」


<ワルツ>が突然変化した。その切っ先をどんどん伸ばしてゆくではないか!羽ばたいて闘う、<デイシーヴキャデリーノ>に、奥深く、突き刺さった。


「ぐわぁぁああああああ!!!!良くも…こ…この俺…様…を………」


<デイシーヴキャデリーノ>は捨て台詞を残し、この荒れた地の割れ間に崩れ落ちていった。





「「「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!!」」」


「2人とも、大丈夫ですか!?けがは!?どこか大変な手負いを…!!」


ぎゅっ!!!


「…ありがとう…ペルシャロ…君の言いつけを守らず、己どころか、ペルシャロにまで危険な行動をさせてしまったこの俺を真っ先に、心配してくれるのだな…」


「ヒロイドケイス…?」


ペルシャロは、少し顔を赤らめた。しかし、こんな風に男性に抱き締められたことなどない。男性の体はごつごつしていて、そして、暖かいのだと、ペルシャロは、初めて知った。


「…あの涙は…本物だったのか?」


ぽつり…と、ヒロイドケイスが言う。


「…でなければ、いま、わたくしたちは生きていませんよ…」


「俺は、<ミュゼット>を習得出来た、ということだな?」


「はい。さすがです!!」


⦅君逢えて、本当に良かった…⦆


「え?何か言いましたか?ヒロイドケイス」


「イヤ、でも、これで<ユスカス>に向かうことが出来るな。そして、<ミュゼット>の強化をしなければならないだろう。違うか。ペルシャロ」


「そうですね。頑張りましょう!!」


「「「おう!!」」」



こうして、なんとか、ヒロイドケイスは<ミュゼット>を習得することが出来た。

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