第18話 ペルシャロの特訓と恐るべき可能性
壮絶な闘いを終え、休む間もなく、3人は<ユスカス>に向かっていた。
「私の案は、上手くいったな!」
「えぇ…まさかとは思いましたが、本当にわたくしが泣くことになるとは…」
「あぁ、俺が危機に陥るということも計算に入っていることだったからな。しかし、それは本当に一か八かの賭けだ。どちらも、なってはいけない状況であり、しかしながらならなくてなならない状況でもあった。まさに矛と盾と言った所か…」
「そうですね。でも、ヒロイドケイスがあんな重傷を負うのは計算外でした。本当に危なかった…。助かって良かったです」
ヒロイドケイスは、その言葉に、なんだかこそばゆい想いだった。
「ペルシャロ、<ファーサピーレカンツォーネ>で、<ユスカス>のことはわかったのか?」
ミトミルがペルシャロに尋ねた。
「えぇ。それが…、かなりまずいことに…」
「なに!?どういうことだ、ペルシャロ」
ヒロイドケイスの顔が険しくなる。
「<ニュイリュージオーネ>の力が、私たちが<デイシーヴキャデリーノ>と闘って勝利した、と言う噂が、どうやら<ニュイリュージオーネ>の耳に入ったようなのです。それで…」
「「それで?」」
ヒロイドケイスとミトミルは、まものが怯んでいるのか?…とでも思って、ペルシャロに聞き返した。
「魔物を食べ漁っているそうなのです」
「「え!?そ、それはどういう!?」」
「<ニュイリュージオーネ>は、魔力を持つものを喰らうことで、魔力をアップすることが出来る魔物なのです。それで、<ユスカス>にいる魔物を、端から端まで食い漁っているようで…」
「と言うことは、<ニュイリュージオーネ>以外の魔物はいない…と言うことか?」
「そう…ですね。しかし、それによって、<ニュイリュージオーネ>の魔力は計り知れないかと…」
ペルシャロの
「ペルシャロ、<ミュゼット>は、どれほど今より長ければ、<ニュイリュージオーネ>に勝てる」
「<デイシーヴキャデリーノ>で会得した、3倍の魔力が必要です」
「体力と精神力はどうだ」
「体力は…そうですね、2倍。精神力は…」
ペルシャロは険しい顔をする。気構えるヒロイドケイス。
「今のままで十分でしょう」
そう言って、ペルシャロは笑ったではないか。
「なに?」
「貴方は、<スカーラ>を受けたにも関わらず、<ワルツ>を掲げ、<ミュゼット>も会得しました。精神力はかなりのものと言えるでしょう。もうそこは心配していませんよ」
ペルシャロに、そう言われ、ヒロイドケイスは、初めてペルシャロの“相棒”になれたような気がした。前々から、思っていたのだ。“相棒”になってくれ、とペルシャロを連れ出したのは自分だが、力ではどう考えても、自分が劣っている。足を引っ張っている。お荷物になっている…、そんな想いが消えないでいた。それでも、この旅で、少しずつでもペルシャロの力に近づけているのかも知れない…とそう、やっと実感することのできるペルシャロの言葉だった。
「あと少しです。ヒロイドケイス、、ミトミル。<ユスカス>は近いですよ。魔力が高まってきました。<ファーサピーレカンツォーネ>が、反応しました。とてつもない魔力です…」
ペルシャロが笑ったかと思うと、いきなり険しい顔になる。
「「「くっ…これは…!!」」」
<ユスカス>についた一行は、凄まじい魔力に少し後退りした。
「想像以上ですね…」
ペルシャロが口に手を当てながら、眉間に皺をよせ、その魔力に少し恐怖さえ抱いている様に見える。
「どうする、ペルシャロ。すぐに闘うか?」
「…それは、難しいかと…」
「それは何故だ」
「今は夜。<ニュイリュージオーネ>の魔力が最大に保たれている時間帯です。仕掛けるには、朝を待った方がよいかと…」
「そうか。ならば、この近くにテントを張ろう」
「そうですね。しかし…」
「ん?なんだ」
「パワーアップした<ニュイリュージオーネ>に<ミュゼット>が素直に効くかどうか…」
「そ…そんなにパワーアップしているのか?」
「はい。恐らくは、最初に<ファーサピーレカンツォーネ>で得た情報とは、かなりの相違点があるかと…」
「相違点?」
「<ニュイリュージオーネ>は、<デイシーヴキャデリーノ>ののように、空を舞います。<デイシーヴキャデリーノ>は<ファンファーラ>の姿に変身したのは覚えていますね?それと同じで、<ニュイリュージオーネ>のパワーアップバージョンが、<インクボ>の<ジガンディースコファンファーラ>と言う形態のはずだったのですが、最新の情報では、どうやら…」
「な、なんだ。どのような形態なのだ?」
「<ジガンディースココーダディロンディネ>に変化する…と聞きました」
「それは…どういった…」
「<ヴェレノモルターレ>と言う猛毒を持つ魔物へと変化するのです」
「<スカーレ>…とやらをまた降らすのか?」
「えぇ…。しかし、レベルが違います。<ヴェレノモルターレ>の<スカーレ>は一降り浴びれば、体は…消滅します」
「「しょ…!消滅!?」」
「…はい。これを回避するには、恐ろしく強力な盾の占術が必要です。しかし…、私はまだ盾の占術をあまり所有していません…。申し訳ありません…」
ペルシャロが顔を下に落とす。
「ペルシャロ、君ならどのくらいでその盾の占術とやらを会得できる?」
「2日…イエ!半日でマスターして見せます!!」
「うぬ。心強いな…。賢者ペルシャロよ!!」
「はい!!必ず、明日には会得します!!」
*****
「ヒロイドケイス!!<タランテラ>を!!」
「解った!!<タランテラ>!!」
「<リチェブート>!!…!!くっっ!!あぁああああ!!!」
「ペルシャロ!!」
「だ…大丈夫です!!もう一度、<タランテラ>を!!」
「よ、よいのか!?」
もうヒロイドケイスはハラハラだ。体力も精神力も、そして、ペルシャロのおかげで得た魔力も相まって、第1番の<タランテラ>さえ、ペルシャロが受けるのは難しいほどの力量になっていた。
「構いません!!会心の一撃を!!」
「くっ!わ、解った!!<タランテラ>!!」
「<グリームリンバッツァーレ>!!!」
「!!グオ――――――――――!!!」
ヒロイドケイスは思わず、<ワルツ>で受けると、ズズズ!!っと脚が後ろへ下がった。
「!?」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ペルシャロが地に倒れ込んだ。その体は、煌々と光り、魔力を使い切ったようにも見えたが、反対に、これ以上ない魔力を得たようにも見えた。
「ペルシャロ!!大丈夫か!!」
「は、はい。大丈夫です。ヒロイドケイス、貴方こそ酷い傷…。すぐ手当をしないと…」
そう言われて、ヒロイドケイスは初めて自分が手負いでいることに気が付いた。
「な、なんと…この傷は…くっ…」
「大丈夫ですか!?ヒロイドケイス!!すみません!!つい6分目まで占術のパワーを使ってしまいました!!」
「6分目!?今のが6分目と申すか!?」
「は、はい…。そう…ですが」
ペルシャロは特別驚いてもいない様子だ。
(この娘…信じがたい…)
ヒロイドケイスは手当てを受けている間中、ずっとペルシャロを見つめていた。丁寧に、優しく、正確な手当てをするペルシャロ。博識ぶりが、どの場面でも、滲み出て来る。
「出来ました」
「……」
「ヒロイドケイス?手当は終えましたが…」
「あ!あぁ!ありがとう!!毎回済まぬな」
「いいえ。こちらこそ、特訓に付き合ってもらいながら、けがを負わせてしまい、申し訳ありません」
「いいや、君の6分目と言うのは少し驚いたがな…」
「ふふふ。そうですか?」
笑って言うが、あれが6分だとしたら、10はどうなるのだろう…?と、ヒロイドケスは敵だったら、恐ろしいな…と思っていた。味方で本当に良かった…と。
「明日の朝、魔力が多少弱まっている時間帯に攻撃を仕掛けます。<ミュゼット>の使い方はもう頭に叩き込んでありますね?ヒロイドケイス」
「勿論だ。…必ずや、勝ちにゆくぞ。ペルシャロ、ミトミル!!」
「はい」
「おう」
その日は、翌日のこの旅で1番の強敵であろう<インクボ>に勝利を誓い、3人は眠りについた。
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