第15話 対峙と退治

「では、行ってきます。皆さんは、闘いが終わるまで、決してここから動かないでください」


「はい。どうぞ…お気をつけて…」


町人が全員土下座をし、深々と3人に頭を下げる。


「大丈夫。必ず、助けて見せますよ。ここにいるのは、最強の剣士、ヒロイドケイスなのですから」


「うむ。そして、賢者、ペルシャロなのだからな」


「はい!!」


(ミトミル:私もいるのに…)





「くっ!これは!!思ったより魔力が強力ですね…」


「あぁ…これほどまでに強い魔力は初めてだ…」


暗黒に染まった<ハチ―クス>は、もはや人の世界ではない。


「てや!はぁ!」


ヒロイドケイスが下等魔物を剣で薙ぎ払ってゆく。


「<シャッシー>!!」


「うぎゃーーー!!!」


ペルシャロは、その占術で、自分だけではなく、ヒロイドケイスとミトミルを守りながら、敵を素早く、その上、一気に大群を倒してゆく。


「ふふ、君は本当に頼もしいな、ペルシャロ」


「作戦は、頭に入っていますね?ヒロイドケイス!!」


「あぁ!!勿論だ!!」


魔物を倒しながら、どんどん街の中心部に迫ってゆく。家は崩れ、地は荒れ、人の遺体が転がっている。


「く!もっと…早く辿り着いていれば…ここまでには…」


ペルシャロは、一筋の涙を流した。その涙が、<ハンドメイドブック>にかかった。そして、その本が急に煌めき出したのだ。


「な!?」


ペルシャロ自身も驚いていると、


「貴様ら…<ヴォルティチニロ>様がここにいると知ってのこのこやって来たのか」


「「「!!」」」


<ヴォルティチニロ>がとうとう、目の前に現れた。これほどまでに大型の強力な魔物と対峙するのは、3人とも初めてだ。


「チャンスは1度ですよ!ヒロイドケイス!!」


「あぁ!解っている!!」


「ぐわはははは!!!!俺様の渦はもはや完成に近い!!今更貴様らに出来ることは無いわ!!!」


『《ユナファイ》!!』


ペルシャロとヒロイドケイスは叫んだ。すると、ハンドメイドブックが巨大化した。その次の瞬間に、2人は一体化したではないか!!


「<ラガンナティーラ>!!」


<ヴォルティチニロ>が叫び、黒い渦がペルシャロとヒロイドケイスを呑み込もうとした、その時、


「行きますよ!!」


本の中から、ペルシャロの声がした。


『《シェイドルイチェ》!!』


ぱぁっ!!っと空が光り、<ヴォルティチニロ>を煌々と照らし出した。下等魔物たちの姿が保たれることなく消えてゆく。そして、<ヴォルティチニロ>も…、


「ゲッ!!ギュ―――――――ワァァアア!!!!」


『…………!!!!』


目の前で腕を構え、眩しさを堪える、ペルシャロとヒロイドケイス。





―数分後―

「…ん…」


「…」


「は!ヒロイドケイス!!ミトミル!!大丈夫ですか!!??」


一番先に目覚めたのは、ペルシャロだった。2人に問いかけたが、返事は無い。慌てて、首の脈をとる。そして…、


「ふぅ…、大丈夫そうですね…。………。」


周りを見渡したペルシャロは、思わず微笑んだ。そこには、小さな蛇の死骸が1匹、転がっていた。<ヴォルティチニロ>だ。あたりの魔力は消え、魔物の姿もない。残念ながら、魔物に囚われた人間も、光の空へ吸い込まれて行った。しかし、心配することは無い。魔物が消滅するのとは違い、人間の魂が光の空へ吸い込まれれば、誰一人残らず、天界へ運ばれるのだ。




「「「「「ペルシャロ殿ーーー!!」」」」」




ザザーっと、砂埃を上げ、何とか生き延びて林に潜んでいた町人も、町へ駆け戻ってきた。


「皆さん!」


まだ、体力が完全に回復していないペルシャロは、上半身だけ起こしたままで、町人に手を振る。


「「「「あぁ!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」」」」


「んん…」


「ヒロイドケイス!大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ。ペルシャロ、君こそ大丈夫なのか?」


「えぇ。わたくしは大丈夫です」


「しかし、には驚いた。このようなことが本当に出来るのだな…」






―前日―

「ヒロイドケイス、貴方が明日までに<ミュゼット>を習得するのは不可能です。それなら、わたくしの<ユナファイ>を試してみるのが一番確実かと…」


「<ユナファイ>?」


「わたくしとヒロイドケイス、2人が一瞬だけ、一体化する占術です。私の占術と、貴方の体力、この2つを合体させることで、恐らくは強大な力が生まれるはずかと…」


「…解った。どうすれば良いのだ?」


「<ヴォルティチニロ>は<ラガンナティーラ>と言う魔法を使う魔物です。その魔法は、一度獲物を捕らえると、逃がすことも、闘う力さえも奪います。そこで、<ラガンナティーラ>を放つ、一瞬前、<ユナファイ>で一体化し、占術を一緒に唱え、一気に天界へ送ります」


「その〔占術〕とは?」


「<シェルドルイチェ>と言う占術です。<ヴォルティチニロ>が、<ラガンナティーラ>を叫んだら、その闇が発出される寸前に、<シェルドルイチェ>と唱えるのです」


「…解った。タイミングが肝、と言うことだな」


「はい。一瞬でも占術を唱えるのが遅れたら、わたくしたちは<ヴォルティチニロ>に捕らわれてしますでしょう」


「私には、何か出来んのか!?」


「ミトミル、あなたは町人を守ってあげていてください」


「あ、あぁ!解った!!」










―現在―

「良かった…。君の足を引っ張らなくて…」


「そんなことある訳がないでしょう。わたくしの体力では、あの占術は絶対に使えないのです。足を引っ張るだなんて…、そんなこと、あり得るはずないではありませんか」


「うん。2人ともよくやった!!」


「ミトミルったら…ふふふ」


「「!!」」


ヒロイドケイスとミトミルは顔を見合わせた。その様子を見て、ペルシャロは、はて?と言う顔をして言った。


「何か、わたくしの顔に何かついてますか?」


2人はゆっくり微笑むと、


「「何も」」


「そう…ですか…。じゃあ、次の闘いに向け、この街の復旧も手伝いたいですし、少し、ここで足を止めましょう」


「ん?大丈夫なのか?こういった国がまだまだあるのだろう?」


「えぇ…。ですが、ここから先は、<ヴォルティチニロ>以上の魔物がたくさん出て来るはず。何の策も、鍛錬も、占術のストックも無しに挑むのは、少々危険かと…」


「うむ。確かに。今回の闘いも、すべてはペルシャロの知識に頼ったもの。俺が、<ミュゼット>なるものをすぐ操れるような体力と精神力があれば、もっと容易くこの街を救えたものを…」


「いいえ。あの<ユナファイ>は、わたくしの体力が貴方の体力の4分の1程度に達していなければ、成しえない占術。正直、ハラハラでしたよ」


そう言って、ペルシャロは笑った。


「君の笑顔は本当に可愛いな!」


「へ!?」


「!!(しまった!!)」


思わず、ヒロイドケイスは本心をポロッと零してしまった。ミトミルがにやついてヒロイドケイスを見た。


一気に空気が変わった。何とも可愛い空気に。


菫は、恋などしたことは無い。女子だけでなく、男子からもずっといじめられ、罵倒され、自己を否定された。そんな異性を異性として意識することなど、一切なかったのだ。


しかし、の世界に転生し、ミトミルと言う初めての仲間が出来た。そして、背も高く、顔も格好よく、優しくて、強い、そんなヒロイドケイスに、ペルシャロは少しながら、心惹かれ始めていた。


それは、ヒロイドケイスも同じであった。本当に最初は、“小娘”と思うほど、ペルシャロの力を侮ってさえいたが、本当に知識と教養に溢れ、杖も指を組むことも、本を持つこともなく、自分を闘いで翻弄するペルシャロの力を誰よりも理解し、尊敬し、頼るようになっていた。


その上、ペルシャロは本当に美しい顔をしていた。眼鏡もない。長い黒い髪も、奇麗なピンク色で、2つに三つ編みされている。の世界でよく見る、魔法使いの風貌だ。それが今の自分の姿なのだ。


「ん!んんん!!!もう夜だ。2人とも!もう寝るぞ!!明日からは厳しい特訓をするんだろう?町人の手当や復旧もある。少しでも体力を回復しなければならないのだから!!」


と、ミトミルが冷やかしがてらに、咳払いをして、黙りこくった2人の時間を動かした。


「そ、そうですね!もう、休みましょう!」


「あ、あぁ!じゃあ、俺は、あちらのテントで寝ることにしよう!!」


「「…」」


「ゆっくり、休んでくださいね。ヒロイドケイス…」


「あぁ…。ありがとう。ペルシャロ…」





(ミトミル:くくく…。まったく、子供だのう…2人とも)


ミトミルは、にやにやとしながら、ヒロイドケイスを見つめた。すると、


ゴン!!!と、またヒロイドケイスはミトミルに拳骨を食らわせた。


「痛ってーーーーーーーーーー!!!何をする!?ヒロイドケイス!!」


「ふんっ!!知るか!!」


そして、ヒロイドケイスは、真っ赤な顔をして、テントへ帰っていた。


「?」


ペルシャロはポカーンとして、少し微笑むと、


「…疲れた…」


と、久々の安心して眠れる場所で、すやすやと、眠りについた―――…。

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