第14話 作戦会議

「本当にすまなかった」


「悪かった、ペルシャロ」


「2人もやめてください。あれは、すべてわたくしのせい。占術師であるわたくしが、魔物の気配に気づかなかったうえ、貴方たちを危険にさらしたのですから」


「何を言う。俺が、もっと強ければ…一発でどんな魔物も切り捨てられるような力があれば…。あんなことには」


「私もだ。エルフのくせに、あんな<魔力打消キャンセラーレ>の魔法にも気づかなかった…」


ミトミルが、肩を落とす。いつも明るいミトミルが、耳を垂らして、羽ばたきも弱々しい。


「でも、ヒロイドケイスは、第3番を特訓なしに習得し、ミトミルは<インドルジェント>で傷を癒してくれたではありませんか。素晴らしいことですよ」


ペルシャロは、少しでも2人を励ます為…イヤ、本当の感謝を、2人に告げた。


「「そう言ってもらえると…」」


2人は、同じように右手て後ろ頭を掻いた。




「それよりも…です」


「「ん?」」


「ここからは、作戦会議をしなければなりません」


「「あぁ」」


「この森は、もう<フラワー>によって、<アストレイ>の魔力も効きません。迷わず、午前中には<ハチ―クス>に到着することが出来るでしょう。問題は、<ハチ―クス>に潜む魔物の情報です。花畑となった、この森にもしかしたら人間が薬花やっかを取りに来るかも知れません。わざと今すぐ乗り込まず、まずは情報収集の為、人間に逢うことが一番の近道でしょう」


「人間は結界などで閉じ込められている…と言う可能性は無いのか?」


「…完全に無い…とは言い切れません。しかし、魔物に襲われた時、多少の人間は、森に逃げた可能性も高いかと…」


「ふむ。そうだな。では、<ハチ―クス>周辺の花畑を探してみよう」


「そうですね」


3人は、荷物をまとめ、昨夜の恐怖と、自信を胸に、出発した。






<ハチ―クス>の西の森、ギリギリ花畑が広がる外れに辿り着いた。


「!皆、静かに…!」


何かを察知した、ペルシャロが2人を制した。大きな木の陰で、何かが蠢いている。魔物か…人間か…。


タランッ…。ペルシャロが制止したその右手を下した。そして、その陰に近づくと、そっとカバンの中から、水を取り出した。


「これを…」


⦅ペルシャロ…!?⦆


ヒロイドケイスは、思わず止めようとした。しかし、手渡された水を見て、樹の影で、よく見えなかったが、その蠢いていたものは、目を輝かせた。


「あ!ありがとうござします!!うぐっ!うぐっ!うぐっ!…はぁ!!!」


「大丈夫ですか?」


「は!はい!!本当に本当に、ありがとうございます!!」


「…良かった…」


「ぺ…ペルシャロ、人間なのか…?」


「はい。ただ、喉が酷く乾いていらしたようで…」


「何故、そんなことが解ったのだ!?」


「<フラーデュー>の水を飲もうとしていたのですよね?」


「は…はい。これほどの量があれば、仲間に持って行っても余りある。しかし、昨日の夜までは、何も見つからず、もう喉がカラカラで…。多少なれ魔法を使えなければ、<フラーデュー>を大量の水に変えることは不可能。蜜のように一房一房、吸うしかなかったので…」


「それで、何故、人間だと解ったのだ?」


「それは私が答えよう!<フラーデュー>は魔物の毒消しに使われる薬花でもあるんだ!!」


ミトミルが得意げに答えた。


「そう言うことです。ヒロイドケイス。それより…」


「あぁ…」


ヒロイドケイスは、大きく頷くと、その人間に尋ねた。


「お前は、<ハチ―クス>の町人か?もしそうなら、今、街はどんな状況にあり、どんな魔物がいるのか、教えて欲しいのだ」


「あ、貴方がたは…もしや、ヒロイドケイス様と、ペルシャロ殿ではございませんか!?」


(ミトミル:私もいるのに…)


「あぁ。俺はヒロイドケイス。隣にいるのが優れた占術師であり、賢者でもある、ペルシャロだ!」


ヒロイドケイスは、自分を名乗るより、誇らしげに、ペルシャロを紹介した。


(ミトミル:私もいるのに…)


「あぁ!!これで私たちは救われました!!どうか、どうか、私たちを助けてください!!」


「やはり<ハチ―クス>の町人か。勿論、そなたたちを助けるべく、我らは参った!だから、教えてはくれないか!そなたたちを苦しめる、魔物の特徴と、その数を!」


「はっ!はい!!では、とりあえず、何とか町から森へ逃げることの出来た者たちの所へ案内します。魔物のことは、そこでゆっくりお話しします」


「解った」


4人は、<フラワー>で切り開かれた花畑を超え、<ハチ―クス>に近い林の外れに辿り着いた。そこには、15人~20人の程の老若男女が身を寄せていた。その一人として欠かさず、何処かけがをしていた。


「皆よ、我々は助かったぞ!」


「カシュー…、その方たちは…?」


「あの名高い、勇者ヒロイドケイス様と、占術師ペルシャロ殿、そして、エルフのミトミルさんだ」


「「「「えぇぇえええ!!??」」」


その声に、思わず3人は一歩後退した。





「あれは、ふた月ほど前のことです。毎日毎日、陽が射さず、街にいた、たった一人の魔法使いである私、チュスラと申しますが、魔物が近くまで来ていることを察知しました。何とか結界をはり、3日間は耐えたのですが、4日目の朝、とうとう結界が破られ、<ヴォルティチニロ>が現れたのです…」


「<ヴォルティチニロ>!?」


ペルシャロは、その顔をこわばらせた。


「ペルシャロ、<ヴォルティチニロ>とは、そんなに強いのか?」


「え…えぇ。少なくとも、<クレズマー>は効きません。同じ“渦”の魔力を使う魔物ですので…。<フラワー>も、森の中でしかその能力を発揮することは出来ません。闘えるとしたら、ワルツ第4番<ミュゼット>しか…」


「<ミュゼット>…?」


「…」


「どうした?ペルシャロ」


ミトミルがポカンと言った。


「時間がありません」


「「どういうことだ?」」


「…<ミュゼット>は、<クレズマー>の3倍は体力を使います」


「ならば、また、俺が特訓すればいいだけの話。そんなに俺が頼りなく見えるのか?」


「いいえ。ヒロイドケイス、そういうことではありません。現れたのがふた月ほど前と言うことが問題なのです。<ヴォルティチニロ>は、自分の渦に街ごと人間を吸い込みます。その渦を完成させるのに、ふた月。…つまり、もう特訓している時間がない、ということなのです」


「なっ!なにぃ!!で、では、一体どうすれば…」


「…」


ペルシャロは、いつになく険しい顔をしている。あれほど書物を読み漁り、得て来た知識の中に、今の絶体絶命の危機を回避する方法が浮かんでこないのだ。町人も、救われた…と思っていたのに、もはや解決策がないのか…と今度は完全に諦めたように、肩を落とした。


「一つ…一つだけ、方法があります」


「「「「「「え!!!!????」」」」」


ヒロイドケイス、ミトミル、町人、みんながペルシャロの方を向いた。


「そ、それは、一体どんな!?」



にやり…。



ペルシャロは、微笑んだ。


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