第13話 突然の遭遇と初めての傷
「…シャロ…起きるんだ、ペルシャロ」
「は!す、すみません!わたくし、2時間経ったら火の番を交代すると言ったのに!」
ヒロイドケイスの声に、慌てて起き上がるペルシャロ。
「イヤ、違うんだ。ペルシャロ。まだ、1時間も経ってはいないのだが…」
「へ?」
「ペルシャロ」
「ミトミルまで…。どうしたと言うのですか?」
「さっきから…何やら気配がしてな…。魔物なのか、それとも人間なのか…それすら、俺には解らない。ミトミルも同じようなことを言うのだ。それで、休んでいる所悪いとは思ったのだが、起こしたというわけだ」
「!た…確かに…。何か潜んでいます…。何でしょう?わたくしも、このような気配、感じたことが…」
「ない…のか?」
「はい…」
3人に緊張が走る。
「は!ミトミル!!左へよけなさい!!」
「ぐっ!!」
ブーンッ!と、ペルシャロの一言で、ミトミルは、羽根を咄嗟に動かし、ある者の攻撃を寸前でかわした。
「な!これは!!」
ペルシャロの顔が青ざめた。
「どうしたと言うのだ!?ペルシャロ!!」
「これは<ペッシオディアヴォロ>!!この森の主、“最悪の悪魔”とも呼ばれる魔物です!!ヒロイドケイス!!ここは退くしかありません!!急いで!!」
3人は、素早くマントを翻した。それでも、<ペッシオディアヴォロ>はものすごいスピードで3人の後を追いかけてくる。このままでは危険だ!!ペルシャロはそう思った。
「2人は逃げてください!!」
ペルシャロは、1人、後退するのを止め、“千”を超える占術を憶えているはずの脳の中に、必死でこの魔物を倒す占術を探した。
「「な!!ペルシャロ!!」」
「良いから!!行ってください!!」
「行くぞ!ヒロイドケイス!!今はペルシャロに従う他ない!!」
そう、ミトミルに先導されると、ヒロイドケイスもくちびるを噛みながら、<ワルツ>をギュっと握りしめ、森の中へ姿を隠した。
「ふふふふ…お前がペルシャロか…」
「わたくしを知っているのですね」
「あぁ。よーく知っている。<ナトーレ>では、“弟”が世話になったな」
「な!?<ファンタースマ>のことですか!?」
「そうだ。我が可愛き弟を…よくも…!!ヒロイドケイスも必ず殺すが、まずは、お前が先だ。ペルシャロ…!!」
そう言うと、周りの森から、魔力を消す能力など持とうはずのない下等魔物の大群と、その他にも、いるはずのない、<クレズマー>で滅びたと思っていた魔物たちがわらわらと、ペルシャロに襲い掛かって来たのだ。まだ、夜明けは遠い。そこに、ペルシャロは、最も見たくない魔物の姿を見つけた。<アストレイ>だ。人を迷わせる、あの<アストレイ>が大群で森を混乱に追い込んでいた。
(くっ…!これでは、わたくしが例えここを切り抜けられても、アストレイによってヒロイドケイスたちがこの森から出ることが出来ない!!!)
焦りと、初めて感じる恐怖…。ペルシャロの頭に、『死』が過った。
「<ブーイオスピーナ>!!」
<ペッシオディアヴォロ>の羽根から、黒い棘が幾千と放たれ、ペルシャロの体に突き刺さった。
「ぐあぁぁあああああ!!!」
ペルシャロの悲鳴が、夜の闇に木魂した。ペルシャロの体に無数の棘が突き刺さっていた。ペルシャロの体からは、大量の血がしたたり落ちた。
「ふふふ…。所詮、只の占術師。賢者などとよくもまぁ名乗れたものだ」
「ふ…っ!」
「な!なにがおかしい!!貴様に勝機があるとでも思っているのか!?」
「わたくしは、負けません!」
(しかし…どうすれば…!!)
言葉と裏腹の危機に、ペルシャロは、その秀でた頭脳をフル回転させた。
(そ!そうだ!あれなら…、もしかしたら!!)
傷を抑えながら、ペルシャロは、とりあえず、<ペッシオディアヴォロ>に背を向けた。
「なんだ。結局はったりだったか…!死ね!ペルシャロ!!<ブーイオスピーナ>!!」
「<ソーレスクード>!!」
ぱあぁ!!っと森の夜がいきなり明け、光が降り注いだ。
「な!」
一瞬、<ペッシオディアヴォロ>が怯んだ。
(しかし、これで…どうすれば…!?)
危機は、終わっていなかったのだ。森の夜を終わらせることには成功したのだが、<ペッシオディアヴォロ>ほどの魔物に致命傷を与える程の占術は、まだ会得していない。
「く…この下等な人間がぁ!!」
(やばい!!)
「ワルツ第3番!<フラワー>!!!」
「!?」
森の緑が、すべて花びらへと変わり、その姿が一変した。そこに立っていたのは、ヒロイドケイスだった。
「ヒ、ヒロイドケイス!?いつ第3番を習得したのですか!?」
「今はそれどころではない!ペルシャロ!占術を!!」
「は!はい!!<デイドリーム>!!」
その占術で、花々と共に、魔物たちは空中に生まれた白い穴の中に吸い込まれていった。
「ぐおぉぉぉおおおおおおお!!!貴様らぁぁぁあああ…!!!よく…も…!…」
森は切り開かれ、花畑となった。そこにはもう一匹の魔物もいない。
ドサッ!!<ブーイオスピーナ>で、全身くし刺しにされたペルシャロは、その場に倒れ込んだ。
「ペルシャロ!!大丈夫か!?ペルシャロ!!」
「ペルシャロ?おい!起きろ!!」
ヒロイドケイスとミトミルが必死で声をかける。しかし、ペルシャロの意識は無い。
「ミトミル、俺は薬草を探してくる!ペルシャロを頼めるか!?」
「待て!ヒロイドケイス!私をなんだと思ってる!これでもエルフだぞ!パワー回復の魔法くらい知っている!!」
「そ!そうか!!普段あまり役に立っていなかったのでな!つい忘れていた!!」
(酷いことをサラリと言うな…この男…)
「<インドルジェント>!!」
意識の無いペルシャロを光が包む。血が止まり、肌に棘が刺さった跡も消えて行く。そして、虫の息だったペルシャロだったが、意識は戻らぬものの、呼吸ははっきりとするようになった。
「だ…大丈夫なのか?ミトミル…」
「大丈夫だ。もう心配いらない。だけど、想像以上の魔力を使っている…。しばらくは動かさない方が良いだろうな…」
「そうか…俺がペルシャロに頼り切って、<ペッシオディアヴォロ>に気付くのに遅れたからだ…。申し訳ない…ペルシャロ…」
「…」
ミトミルも同じことを思ったのだろう。黙りこくって、下を向いた。ペルシャロが眠っている間、ヒロイドケイスにミトミルは尋ねた。
「ヒロイドケイス、ペルシャロではないが、お前何故、第3番を使うことが出来たのだ?」
「あぁ、<ホームメイドブック>だよ」
「え?でも、あれはペルシャロにしか見えないはず…」
「それを、起こしておいてくれたのだ。分厚い本に、ペンでな」
「なに?」
「恐らく、俺が覚えることのできる魔法と、剣術、技を、俺のすきな時に、俺のすきなものを使えるように…とかき出してくれていたのだろう…。逃げろと言われた時、カバンの中から、その本が落ちてな。それを拾い、一か八かで使ってみたのだよ。俺の実力が、第3番に達しているか、まだ、ペルシャロも確信がなかったのだろう。だから、今まで俺に話さなかった…と言う所だろうか…」
「そう…だったのか…。しかし、ちゃんと使いこなしたではないか。よくやったぞ、ヒロイドケイス」
「こんな風に…ペルシャロは色々考えているのだな…。俺がもっと強くならなければ…。もっともっと強くなって、ペルシャロを…守れる男にならねばな…」
「ヒロイドケイス、そんなに自分を責めるな。ペルシャロは、本当に優秀な占術師であり、賢者だ。お前とは元々の出来が違うのだ。はっはっはっ!」
「ふん…、こんな時に人を小馬鹿に出来るとは、ミトミル、お前も大したエルフだな!!」
ゴン!!と、ヒロイドケイスは、思いっきりミトミルの頭をコズいた。
「いってー!!冗談じゃないかよー!!」
初めて、ペルシャロが傷を負うと言う惨事に出くわした2人は、眠るペルシャロの実力を、改めて実感した。
「あの時、もしも、1人残って我々をかばってくれなかったら、3人ともやられていたかも知れないからな…」
「うん。ペルシャロにはもう少し、楽をしてもらいたいな」
「そうだな。ミトミル」
こうして、何とか、悪夢の一夜は終わった。
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