第10話 ペルシャロの強さ

3人は、まずは、魔物たちが支配しているという、西の国、<ナトーレ>に向かった。<ナトーレ>は、比較的小さな街だが、魔法に特化していると言われていた。その魔法が発達してしてるはずの<ナトーレ>が何故、魔物に支配されているのか…、それを知れば、他の国の魔物たちの特徴や、生態、解決策が見つかるのではないか…と言う、ペルシャロの提案だった。



森の中を進んでゆくと、だんだん、暗く厚い雲が空を覆い出した。


「ペルシャロ、何か感じないか?」


「えぇ。ヒロイドケイス、わたくしも、何だか嫌な予感が…」


「そうだな…。この辺りに魔物はまだいないはず。なぜこんなに邪悪な空気を纏っているのだろうか?」


ミトミルは言った。その次の瞬間、パシンッ!!とミトミルをペルシャロが突き飛ばした。


「「な!何をする!?ペルシャロ!!」」


ヒロイドケイスとミトミルの声が重なる。


「ミトミル…イエ、あなたはモ―ディーフィカ…ですね?」


「モ…モーディーフィカ…?」


「生き物に宿り、操り、その中身を変化させる、恐ろしい魔物です」


「わ、私はミトミルだ!何故疑う!!」


「ミトミルが魔物の多いこの森で「いない」?ですって?そんな馬鹿なこと言うはずがないでしょう!!ミトミルを解放しなさい!!でなければ、命はありませんよ!!」


「くっ!己…。これほどまでに魔力を消していると言うのに…見破られるとは…。お前、何者だ!?」


「わたくしはペルシャロ。そして、ミトミルはわたくしのパートナー。その耳、エルフ封印のピアスが付いていますよ…」


「これにも気付いていたのか…ならば…」


モーディーフィカがミトミルの体を乗っ取ろうとしたその瞬間、


「<シャッシー>!」


すかさず、ペルシャロが占術を唱えた。


「ぐおぉぉぉぉ!!」


じゅわ~~~っっとミトミルの体の中から、緑色のモーディーフィカが苦しみながら現れ、そして、あっという間に消えていった。


「ミトミル!!ミトミル!!大丈夫ですか!!??ミトミル!!」


慌ててミトミルに走り寄るペルシャロ。


「魔物を…もう倒したのか…?」


ヒロイドケイスは、その洞察力と、観察眼、そして、素早い攻撃に、圧倒された。


「ミトミル!!ミトミル!!」


「…うぅ…ぺ…ペルシャロ…?」


「良かった!ミトミル!無事でしたか!!」


「ミトミル!大丈夫か!?」


ヒロイドケイスも、側に歩み寄る。ミトミルの耳にもう[エルフ封印]のピアスは無かった。しかし、ペルシャロは、とても心配そうだ。


「ペルシャロ、もう大丈夫なのではないのか?」


「いいえ、ヒロイドケイス。モーディーフィカに一度体を乗っ取られると、意識が戻らない場合も十分にあったのです。人の言葉を使えなくなることも稀ではありません。それに、後遺症もあるのです。危機察知能力にかなりの支障が出ることも、しばしばあるのです」


「…いや…大丈夫だ。ペルシャロ。済まない。少し油断して、モーディーフィカに背後を許してしまった。エルフとして情けない。しかし、よくぞ気付いてくれた。もしも、気付いてくれなかったら、私は、死んでいた」


「えぇ…本当に良かった…」


そう言うと、ポロッと涙を流した。その涙が、ミトミルの額に墜ちた。


「くくく…!」


「い!痛むのですか!?ミトミル!!」


しゅわ~っとミトミルの体が浄化されてゆく。モーディーフィカに乗っ取られた分…イヤ、それ以上に、ミトミルのvlが上がった。


「そうか…君の涙だな…」


ヒロイドケイスがぽつりと言葉を零した。


「え…?」


「俺の剣が、<ワルツ>になった時、君の涙が、グリップから切っ先まで流れた。その涙が、ペルシャロが選ばれし占術師であると言う証明だったのだ。それだけではない。君の涙には、<ニュートリション>の効果もあるらしい」


「そ…そうなのですか?」


「あぁ。恐らくな。現にこうしてミトミルの傷が癒えるどころか、パワーアップした…。君はとても賢いのに、自分のことはそんなに知らないのか?自分が、この世で唯一選ばれた、<ワルツ>を変化させたのがその証だろう」


「そう言われれば、そうですね。ですが、ヒロイドケイス、それを言うなら貴方もですよ。貴方は、ちゃんと<タランテラ>を使いこなすことが出来ました。『知恵の女神』に認めらえたと言うことです」


「ふむ。ペルシャロ、ヒロイドケイス、お前たちは、選ばれし占術師と、選ばれし剣士と言うことだ」


すっかり元に戻ったミトミルが、ふんふん、と首を大きく縦に振りながら、言った。


「ミトミルったら偉そうに…」


ペルシャロがくすりと笑った。ヒロイドケイスも、ペルシャロの力をまた見せつけられ、これが、最強の占術師なのか…味方で本当に良かった…と心の中でホッと溜息を吐いた。そんな暇はない!と言わんばかりに、ペルシャロはすぐに顔を真剣に戻すと、


「ここからは、もっと強敵がいるはずです。信じあい、そして、疑い合い、自分の出来るすべての力を使って、魔界を滅ぼしましょう!行きますよ!ヒロイドケイス!ミトミル!」


「「うむ!!」」


こうして、西の国、<ナトーレ>に再び足を動かしだした。


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