第8話 ヒロイドケイスの特訓

「そこです!ヒロイドケイス!今、<ワルツ>を振るいなさい!!」


「くっ!はぁ!!」


ペルシャロの言葉通り、ヒロイドケイスは魔物に向かって<ワルツ>を振り下ろした。


「キュキュー!!」


そう悲鳴をあげると、ゲルマと言う石の魔物が、ヒロイドケイスの<ワルツ>で切り裂かれ、消えた。


「はぁ…はぁ…い、今のはなんという占術だ?何故、あのゲルマが剣で切れたのだ?」


ヒロイドケイスが、少し息を切らし、ペルシャロに尋ねた。


「簡単なことです。<フリッシービレ>で、ゲルマの体を柔らかくしたのです」


「そんな占術も持ち合わせているのか…」


「申し上げたはず。私のだけの占術でも千を超える…と。これから、わたくしはもっと強くなりますよ。ヒロイドケイス、貴方も、もっともっと強くなっていただかなくてはなりません。この街を出発するまであと1週間。ビシバシ、鍛えますよ!!」


「む!望むところだ!!」


そう言うと、2人は、また特訓を始めるのだ。と言っても、ペルシャロの強さは他の占術師の群を抜いていた。誰も創造しえない占術と、魔物の種族と、その特徴、そしてその弱点、薬草や呪草の効能や見分け方、等々…その知識は、占術の実力に必要な力を補うのに余りあるほどだった。


ヒロイドケイスの方は、確かに、強かったが、強かったのだが、ペルシャロの実力にはまだまだ遠く、魔界へ行っても、まだ序盤にしか通じないだろう…と、ペルシャロは確信していた。その為、ヒロイドケイスに厳しい特訓を課したのだ。


毎日、千回の腕立て伏せと、腹筋。2時間の剣の素振りと、森での本物の魔物相手の実践。それから、<ワルツ>のの力を引き出す為、勉強もさせた。ペルシャロは、<ワルツ>について、あることを聴いたことがあった。


<ワルツ>は、あの知識の女神、のお告げを受けると、その力は甚大で、強固たるものになると…。そのお告げを受ける為には、メーティスにある程度の「知恵」を持ち合わせていると印象付けないと、<ワルツ>の真の力を得ることは出来ないのだ。


ペルシャロは、必死で、街にあった書物の館でメーティスの出現の条件などを調べていた。<ワルツ>のことは知っていた。当然、知っていた。それはそれは強い剣なのだから。





特訓を始めて、5日目の朝。ペルシャロは、酷い頭痛で目が覚めた。


「ミトミル…これは…」


「あぁ。間違いないな」


2人は、顔を引きつらせながら、急いでヒロイドケイスの小屋に向かった。


「ヒロイドケイス!起きて!」


「…な…何事だ…!ペルシャロ…!」


眠気眼で何とかヒロイドケイスはペルシャロの名を呼んだ。


「魔物の大群が来ます!!この街を滅ぼさんとという事なのでしょう!!」


「なっなにぃ!?」


「今すぐに装備をしてください!!それまでは、わたくしの結界でこの街を守ります!!」


「解った!!頼む!!」





「あ、あぁ!ペルシャロ殿!あの森の様子がおかしいのです!」


高台で見張りをしていた町人が、魔力に反応し、やって来たペルシャロに言った。


「<アップ>!」


すっと瞳を見開き、山を拡大してみると、そこには、ピルバグの群れがこちらに猛スピードで向かってきていた。


「くっ。ヒロイドケイスとわたくしのことを嗅ぎつけたのでしょうか…。ですが、今のヒロイドケイスには、かも知れませんね…」


そう、ボソッと呟くと、口元だけにやっと笑った。




―前日―


「ヒロイドケイス、五重奏の刃には、5つの力があります。1つ目を、明日までに習得してもらいますよ!」


「うむ。それをペルシャロが必要とするならば、このヒロイドケイス、何を置いても習得いたそう!!」


「では…まずは、<タランテラ>です」


「<タランテラ>…」


「これは、<ワルツ>の第一形態、折り重なるその剣の一番上の切っ先が輝くことで、一気に放射線状に…大体、中等の魔物なら、300匹の大群でも、一瞬で消し去ることが出来ます」


「さ…300匹!?一気にか!?」


「はい。そう驚くことではありません。わたくしは、最初の占術で20匹の三牛角を一発で倒しましたよ」


「あ、あの手強い三牛角を、一発で20匹!?そ、そなた…、やはりただ者ではないな。良いだろう。その<タランテラ>、今日1日で必ずや習得して見せよう!」


そう言うと、2人は特訓を開始した。




「イメージするのです。ヒロイドケイス。自分の中にある<リズム>を感じる事が、この剣を操るうえで、最も大切なことです。心臓と、<ワルツ>の呼吸をゆっくり合わせ、合った!と思った時、大きく左下から、右上へと<ワルツ>を振り切るのです」


「…」


ヒロイドケイスは、スッと気配を消すと、<ワルツ>の呼吸を感じ始めた。トクントクン…トクントクン…。次第に、<ワルツ>の呼吸が速くなる。それに乗じて、ヒロイドケイスも、手首から少しずつ力を入れて行く。


「!」


ここだ!と、何の前置きもなく、ペルシャロは突然ヒロイドケイスに向かって、占術を唱えた。


「<ニーロ>!」


ハンドメイドブックから、突然黒い影がぶわーっと飛び出してきた。


「!」


「出来ますね!?ヒロイドケイス!!」


「<タランテラ>!!」


そう叫びながら、ヒロイドケイスは、ペルシャロの言った通り、大きく左下から右上へと<ワルツ>を振り切った。


シュ――――――――――………。


そこに今の今まであった黒い影は、一mmも残っていなかった。


「…こ、これが、<タランテラ>…。なんと言う強さ…」


「よくぞ、出来ましたね。ヒロイドケイス。あなたのvlは、わたくしと逢う前の1000vlから、9000vlまで上がっています」


「そ…そんなに!?1000vlを超える勇者はいないと思っていた。俺も、これ以上は強くなれないと思っていたのだ。それなのに、魔物たちはどんどん強大な力で人間界を襲ってくる。だから、この街を離れることが出来なかったのだ。ペルシャロよ、ここの民にも、何か身を守るくらいの占術は無いものか?それが無ければ、俺は君と言う最強の占術師をもってしても、ここを出るには心配でな…」


「良いでしょう。民には、私の占術を幾つか授けて置きます。心配せず、貴方は第一のワルツ、<タランテラ>の完全習得を目指して特訓を積むのです」


「そうか。解った。よし!これで、いよいよ魔界を滅ぼす冒険に出発できる。出発は明後日だ。ペルシャロよ、必ず、<タランテラ>を完璧に習得して見せようぞ!」


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