第7話 賢者、ペルシャロ!

「なっ、なぜ、ダブルオーバークラップソードの名を知っている!?」


ヒロイドケイスは、初めて剣を地面に落としてしまった。手首が未だ痺れている。苦渋の戦況だ。


(こんな小娘に…この俺が、2度も続けて攻撃を跳ね返された上、ダメージまで与えられてしまうとは…!!)


「わたくしが、何億冊の書物を読み漁り、占術を覚え、どんな剣であれば、どんな矢であれば、どんな弓であれば、どんな矛であれば、どんな槍であれば、どんな盾であれば、どんな魔術であれば、私のこの頭の中にある占術で闘え、守れ、助け、倒せるか…。16年の月日、わたくしはこのことだけを考え、試し、生きて来たのす!!重双の剣など、最も有名なソードの1つ!!わたくしが存じぬはずがないでしょう!!」


「そうか…ペルシャロ、君の力は、この俺が出逢った占術師の中で、最も…イヤ、いるとは思えないほどの強い占術師だ。認めたくはないが…この俺でも、今の実力では君を為には、実力不足のようだ…。しかし…そして、問う!!いざなれば、この俺と魔界滅亡の冒険へと出発してくれる!!、ペルシャロよ!!!」


(!!)


ペルシャロは、思わず、いつも魔物からの襲撃に咄嗟に反応する為、自分の体に薄い結界を張っているのだが、その結界がシュッ…と消えた。


!?この私が…?毎日毎日いじめられて…魔術の本ばかり読んで、世界本当は無いと思っていたのに、それでも意地だけでこの世界を信じ続けた…そんな、私が、本当にあったの世界で、と呼ばれるなんて…!!)


ペルシャロは、剣を高々と振り上げ、自分を賢者と呼んだヒロイドケイスの前で、へたへたと座り込んだ。


「何事だ!?どうしたのゆうのだ!ペルシャロ!」


驚いて、ペルシャロの元に、ヒロイドケイスが駆け寄った。困惑するヒロイドケイスに、ペルシャロは何もかも正直に話した。


「ヒロイドケイス…、わたくしの中で、は終わっていました。もう、どうせ太陽の射す日など来ようはずもない…と。ですが、でヒロイドケイス、貴方の側で“相棒”と呼ばれ、魔界を滅ぼすことが出来たのであれば、わたくしは、生まれてきたことを、生きてきたことを、後悔せずにいられるかも知れません。どうか、貴方の相棒として、占術師として、賢者として、冒険に連れて行ってはくれませんか?」


ペルシャロは、泣きながら訴えた。


「ペルシャロよ、よく解った。君は本当に賢い。今の君の力ならば、俺より…最強と言われる俺より、町人の信頼も、勇気も、希望も、期待も、すべてを得ることが出来るかも知れない。しかし、その前に、君は自分の強さよりも、自分の弱さを知っている。それは、何より、どんなことより、大切なことだと俺は思う。君の中のが、必ずしやを打つこととなるだろう」


「ヒロイドケイス…ありがとう…」


「ペルシャロ、もう一度聞く。君と冒険がしたい。一緒に付いて来てはくれないか?」


ヒロイドケイスは、ペルシャロの肩を抱き、そう言った。


「ヒロイドケイス…私は、あなたの手となり足となり、そして、“相棒”になります。わたくしが生きて来たすべての知識と知恵を使い、魔物たち…そしていつかは魔界を滅ぼすことをここに誓いましょう。どうか、わたくしを冒険へ一緒に連れて行ってください!!」


「ペルシャロ、ありがとう!!しかし、君の能力の前で、俺は余りに役不足すぎる。君の力を、魔物退治や、魔界消滅の為にも、それだけではなく、俺の力の強化にも使ってはくれないか。特訓ならば、幾らでも受けよう。君と俺は、“主従関係”ではない。もう一度言う。“主従関係”では決してない。ペルシャロ、君と俺は“相棒”だ。これから、よろしく頼む。よ!!」


その言葉に、感極まったペルシャロの、瞳から、ポロポロ涙が零れて来た。の世界では、決して泣いたりしなかったのに…。その溢れた涙を見つめるヒロイドケイス。そして、よ~く頭巾の中の顔を覗き込むと、そこには朝陽が昇り、暗闇と、頭巾で隠れていた、ペルシャロの顔がはっきりと見えた。その瞬間、ヒロイドケイスは、思わず、その頬の涙に口づけをした。


「!!な!何をするのです!!<ストーム>!!」


思いっきり驚いたペルシャロは、思いっきり、ヒロイドケイスをひっぱたいた。その上、<ストーム>で、ヒロイドケイスの小屋を半壊させてしまった。もう、訳の分からないペルシャロは、咄嗟に占術を使ってしまったのだ。


「す…すまん…君が、余りに美しかったから…。しかし、普段こんな破廉恥なことをしているとは思わないで欲しい。むしろ、俺の性格は、純情で、潔癖なものだ!」


「まぁ、そうなのかも知れないが、説得力はないな」


と、いたのか!と、ミトミルがヒロイドケイスを茶化した。


そして、徐に立ち上がり、手から離れた重双の刃を手にした時、突然、ぐわん!!と、剣が宙に浮いた。


「なんだ!?あれは!!」


「あ!あれは…!!」


ヒロイドケイスも、ペルシャロも、その現象に只々目を凝らすしか出来なかった。剣は、少しずつ光を強くしながら、上へ上へと浮かんでゆく。そして、195㎝のヒロイドケイスの頭上3mまで上がると、ぴたっとその動きをやめた。そして、グリップからそーっと流れてくる雫が、切っ先に届くと、滴る寸前にその雫は剣をバーッと包んだ。


「ペルシャロ、これは…一体、何が起きているのだ?」


「多分…これは、重双の刃が、真の姿に変わっているのだと思います」


「真の姿!?それはどういう意味だ」


「この瞬間が終われば、きっと解るはず…」


ペルシャロ、ヒロイドケイス、ミトミル、3人は、真剣な眼差しでそのものの数秒を、何時間と捉え、まるで夢の中にいるような気になった。






「あぁ!!あれは!!」


剣が、ついにその姿を現した。


「ペルシャロ、何なのだ!この剣の真の姿とは、一体何なのだ!?」


「ヒロイドケイス、この刃は、涙の五重奏ティア―ファイブワルツです…」


「なにぃぃぃぃぃ!!!こっ!これが、ティア―ファイブワルツ!!??」


「はい。持ち主が、もしもティア―ファイブワルツをこうして持っていたとしても、その主が天界からの勇者でなければ、そして、剣に吸わせる涙が、崇高な占術師でないと、決して姿を現さない…そう言われている剣です。この世界で、最強の剣に間違いはありません!」


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