第6話 ヒロイドケイスとの決戦
まだ、草原で旅に出る前の準備をしている時、ミトミルがペルシャロのことをたくさん教えてくれた。
「ペルシャロは、とても引っ込み思案でな。いじめられながらも、生き生きと人生を歩んでいた菫とは、全くの逆だった。そして、ペルシャロは、思ったのだろう。自分がこのままペルシャロとして生きて行くよりも、菫を転生させ、出来損ないの占術師の自分ではなく、自分とはまるで違うその知識の豊富さ、魔物(いじめて来ていたヤツ)たちへの燃えるような憎しみを、きっと菫なら活かせる、と話していたのだ」
「そう…。私の…知識の豊富さ…か」
確かに、菫の頭脳明晰は先ほども語った。それでも、あちらの世界では、どうすることも出来なかった。菫がずっと読み漁っていたのは、こちらの世界の出来事が起きたうえでの『書物』であり、『魔術』であり、『魔法』だったのだから。もしもあちらの世界で誰かを殺せば、罪となり、自分も絶対心に傷を負わないはずがない。しかし、こちらの世界で、魔物を相手にペルシャロとして、魔物と対峙することには喜びさえ込み上げてくる。
「頑張るわ。ミトミル。わたくしがこれからしなければならない、最初のことを教えて」
…そうして、ペルシャロはあまたの危機を、その知識と抜きんでた覚悟で、<サボン>に辿り着き、この国最強の剣士ヒロイドケイスと接触することに成功した。
「あ、貴方がヒロイドケイス…ですか?」
「そうだ。君が長老とドロックドが言っていた術師か?」
「えぇ。ペルシャロと申します。こちらはエルフのミトミル。時間がありません。単刀直入に申し上げます。ヒロイドケイス、貴方とともに、魔界を滅ぼしたいのです!どうか、貴方の力をお貸ししてもらうことは出来ませんか?きっと、きっと、お役に立ちます!!」
そこに、長い沈黙が流れた。ヒロイドケイスは、その切れ長の鋭い目で言った。
「ペルシャロ、君を冒険に連れて行くかどうかは、まず、君の腕を見てから出なくてはならない。君の強さを示したまえ」
そう言うと、小屋から、馬を連れ出し、その大きな体をふわっと浮かび上がらせ、馬にまたがると、真に重そうな剣を片手で軽々と振り上げると、手加減なし!と言わんばかりに、ペルシャロに向かって来た。ペルシャロは、引く…どころか、にやっと笑った。そして、さっとヒロイドケイスの前から一瞬で姿を消すと、こう叫んだ。
「<フレイムフォースバローアンニヒレイション>!」
「!?ぐおっ!!」
ざざぁぁっっ!!
ヒロイドケイスが跨っていた馬が、突然炎に包まれ、その姿を消滅した。ミトミルはおもった。
(三牛角を倒した時と大体似たような占術だな…)
「こっ…これは…っ!?」
ヒロイドケイスは、訳も分からず、何故か片膝をつき、何とか引っくり返るのを免れた。
「どうですか?ヒロイドケイス。私と闘うことがあなたに出来ますか?」
「い、今のは…!今のは一体どんな占術を!?君は杖も持たなければ、指を組んだわけでもない。しかも、その手の中に『魔術書』すらないではないか!その占術、いかなして得たのだ!?そして、どうやって操っていいる!?」
ヒロイドケイスの顔が紅潮する。余りにもあっさり負けたのが恥ずかしかったからなのか、こんな凄い占術を見せつけられたことへの興奮からなのか…、どちらにしても、ヒロイドケイスはペルシャロを一瞬で気に入った。
「ふふふ…。ヒロイドケイス、私は“
「ハンドメイドブック?」
「そう。貴方にはこの本は見えません。勿論、如何なる魔物にもこの本は見えません。わたくしが本を開かなくても憶えている占術は、優に千を超えます。この見えない魔術書から、放たれる呪文を予測することはほぼ不可能。この国で最強と謳われるヒロイドケイス、貴方でさえ、私の<フレイムフォースバローアンニヒレイション>にかかれば、私のよく知る世界で言われる言葉があります。『将を射んとする者はまず馬を射よ』と言うような闘いが容易く出来てしまうのです」
ヒロイドケイスは、恐れをなして…イヤ、ホホエンデいる。その瞳は煌々と緑色に光り、頬は紅潮し、小鼻はひくひくと細かく動いている。
「これは…素晴らしい…!!この俺に、初めての闘いで片膝つかせるとは…!!ペルシャロ、これは是が非でも君を俺の相棒とし、魔界を滅ぼさなければならない!!君なら…イヤ、君と俺なら出来る!!違うか!?ペルシャロ!!」
ヒロイドケイスは、ペルシャロをまるで魔物を見ているかのように、目を血走らせてそして、全く逆の正義の言葉を宣誓した。
「ふ。そうですね。ヒロイドケイス。わたくしの強さとその秘密は、貴方にはもうバラしてしまいました。そのわたくしを再び相手とし、もう一度闘ってはもらえませんか?その腕前次第では、貴方と【相棒】となり、魔界を滅ぼさんことを約束しましょう!!」
「…よかろう…俺も、最強の剣士と呼ばれる男だ。君のような小娘に負けていては、魔界消滅の希望は絶たれてしまうかも知れぬからな…。…では、ゆくぞ…」
「良いでしょう…」
にじり…にじり…。2人は間合いを取り始めた。【呼吸】が急に静かになる。ペルシャロの紫色の頭巾が、そよ風にゆらゆら揺れる。手は広げ、やはり、ペルシャロの手には杖もなければ、指を組むこともしないし、さっきも見ていたが、右手も左手も、『魔術書』を持っている様子はまるでない。
(この娘…一体何者なのだ…占術師のくせに、間合いに入る隙もない…こいつ、相当な使い手だ…)
ヒロイドケイスは額に汗を掻いている。その次の瞬間、風がビュッと吹き、一瞬、ペルシャロの視線がヒロイドケイスから外れた。そこを、ヒロイドケイスは見逃さなかった。ヒロイドケイスは、スッと間合いに入り、本気で、重々しい愛刃を振り下ろした。
「頂いた!!」
とほぼ同時の出来事だった。
「<サンダーダブルオーバークラップソード>!!」
「ぐわぁぁぁああx!!!」
重双の剣(ダブルオバークラップソード)の刃が、ペルシャロの頭上を捉える寸前、ペルシャロの占術で、重双の刃に雷が流れた。
「ぐぐっ!!な!何故この剣の名を知っているのだ!?」
「そんなことは易しい…イエ、愚問です。わたくしが賢いからですよ!!」
両の手を天に向け、ペルシャロは声高々に、そう言い放った―――…。
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