第5話 到達。<サボン>

「あそこだ!」


高台の丘にり着くと、眼下に広がるドロックドは少し大きめの平地を指さし、そこが<サボン>だ、とペルシャロに告げた。


「あそこが…。やっとですね。ミトミル」


「あぁ。本当に疲れたな…。しかし、ここに本当にこの国最強の剣士がいるのか?ドロックド、お前は名を知らないのか?」


「あぁ。おられるさ。この国最強の剣士様が。しかし、そのお方は、常に魔界からの攻撃からこの街を守ること、今はそれしか出来ないでおられるのだ」


「どういうことですか?」


ペルシャロは被っている頭巾を少しずらして、首を斜めに傾けた。


「あまりにもあのお方の力が凄すぎて、魔界の魔物たちは、まず、この街を滅ぼし、あの剣士様を殺してから、人間界、そして天界をも滅ぼさんとしているのだよ。つまりは、この街さえ、潰してしまえば、魔物たち、魔界は確実に増え、広がってゆくということだ。だから、ここにあの方がおられることは、町人の中でも長老と町で唯一の勇者である俺しか、そのお名前を知らないのだ」


「そうなのですか…。それで?わたくしには逢わせていただけるのですか?わたくしの目的もその剣士様と同じ。魔界を滅ぼすことです。是非、お力になりたい…イエ、お力をお借りしたいのです」


「はい…。一応、長老の許可は取らなければなりませぬが、あの森で起きたこと、そして、あの森で聞いたあなたのお噂…うむ…評判と言うべきか…。それを伝えれば、きっと長老も解ってくださるはず」


「解りました。とにかく、街へはあと少しです。急ぎましょう。何となく、あの街に嫌な陰を感じます…」


ペルシャロは、頭痛がしていた。の世界で、いじめに遭っていた時、酷い頭痛がした。トラックに引かれたあの瞬間のそのまた一瞬前、ただならぬ頭痛に襲われていた。それが、危機察知能力として、の世界で発揮されるようになっていたのだ。





「ドロックド!マーリン!ジャモエ!お前たち、生きていたのか!?」


「あぁ!皆!今帰った!そして、とてつもない土産物があるぞ!!」


「土産物?なんだ?薬草でも手に入れたのか?」


「ふふふ…」


ドロックドは、自分は大して活躍した訳ではなかったが、勝者のよな笑みを浮かべ、こう叫んだ。


「ここにおられるのは、あの噂に名高い、占術師、ペルシャロである!!」


「「「「おぉ――――!!!」」」」


町人全員が、息を呑んだ。余りの町人の瞳のきららかさに、ペルシャロは恥ずかしくさえあった。


⦅ミトミル、わたくしはいつの間にこのような有名な占術師になったのですか?森の中でのことは町人に本当に届いていたかどうか…⦆


ペルシャロは、ミトミルに顔を赤らめ、こそっと謙遜して見せた。


⦅ペルシャロ、お前は本当に優秀な占術師のようだ⦆


⦅え?って、ミトミル、あなたもわたくしが、なぜこうして名高いのか、知らないのですか?⦆


⦅恐らくだ…恐らくだが…魔物たちからの情報ではないだろうか?⦆


⦅魔物たちから!?⦆


⦅あぁ。魔物をペルシャロはたくさん倒した。しかも、どの魔物も一筋縄ではいかない魔物ばかりだった。魔物たちが、魔物たちへ伝え、聞き、伝え、聞き、を繰り返し、人間にもその噂が届いたのではないだろうか…?⦆




「あなたが…占術師様ですか?」


「はい。あなたは、長老様ですか?」


「はい。私は長老のアコーレヒギと申す者。座ったままのご無礼、お詫びします。もう立っておることも儘ならぬでな…」


「アコーレヒギ様、わたくしの名は、ペルシャロと申します。そして、こちらはエルフのミトミル。ここにわたくしが来た目的を、率直に申し上げます。この国で、一番強いと名高い剣士様に逢うことです。わたくしは、魔物を退治し、そして、ゆくゆくは魔界を滅ぼさんと決意しております。その為には、わたくし一人では無理なのです。どうか、剣士様に逢わせていただけませぬでしょうか?」


「ペルシャロ様…と申されるのか…。なんとも透き通ったお奇麗なお名前だ。そして、その自信と知識に溢れ、その血に流々とする生粋の占術師の力がお顔にも表れておられる…。ペルシャロ様ならば、あの方の占術師になれるやも知れません。どうか、この街…イヤ、人間界そして天界を救ってください!!」




ペルシャロは、その後、体の弱い長老に代わり、ドロックドに剣士の元に案内された。


「ドロックド、剣士様は、本当に強いのですか?」


「あぁ。本当にあのお方はお強い方です。きっと、あなたなら、あの方を支えてくださるでしょう」


街の入り組んだ道に入ってゆく。どんどん灯りが無くなり、草も木もぼうぼう生え、魔物の所に行くのでは?と思うほど街の外れに出た。その崖の上に、こじんまりした小屋が一軒ポンと乗っていた。


「あそこにおられます。では。私はこれで。…もう一度、命を助けていただき、ありがとうございました。ペルシャロ様。そして、ミトミル殿」


「いえ。案内、ありがとうございました。これで、やっと、旅立つことが出来そうです」


そう言い終えると、ペルシャロとミトミルは、静かに小屋の前に歩みを進めた。扉を叩こうとすると、中から、ノブが回された。慌ててノブから手を離すと、うち開きのドアから、大男が現れた。しかも、とても格好良く髪は銀色だ。ペルシャロは、思わず驚きと同時に、に戻った。見つめられたのだ。じっ…っと。その瞳に映る、自分を見て、ペルシャロはまた驚いた。ペルシャロは鏡を持たず、転生した草原で、<サボン>を目指すと決めた時から、必要な水は工面しておいたから、水溜まりを覗き込む事も無かった。だから、転生した後の自分の顔をまだ知らなかったことに、たった今気が付いた。


剣士の瞳に映ったペルシャロはとても美しい娘だったのだ。


(これがわたくし!?でも…メガネを取って、髪を金髪にし、くるくるさせたら、こんな感じになっているのかな?)


の世界での自分の顔を思い出していた。そんな、ペルシャロを、大男(例の剣士なのだろうか…?)が呟いた。


「君が、占術師か?」


「はい。ペルシャロと言います。あなたのお名前は?」


「ヒロイドケイス。俺の名は、ヒロイドケイスだ」

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