第4話 迷いの森

次の日、ペルシャロとミトミルは、本物の人間に初めて逢うことに成功した。その人間は、3人のパーティーだった。勇者(剣士)・ドロックド、魔法使い(占術)・マーリン、兵(護衛)・ジャモエの3人だ。


「き、君は…まさか、<ペルシャロ>と言う名ではないか?」


「…何故、わたくしの名を?」


ペルシャロは瞬時に警戒する。ミトミルも、昨夜の一件がある。また、スモデモン、あるいは、また新しい魔物かも知れない。なぜなら、ここはまだそれ相応のパーティーでなければ、足を踏み入れることすらしない深い森だ。


「あぁ…あなたに逢えたなら、俺たちは<サボン>に帰れるかも知れん」


「<サボン>?帰る?では、あなたたちは、<サボン>と言う街の町人まちびとですか?」


ペルシャロがあれほどの緊張を解いた。


⦅ペルシャロ、大丈夫なのか?もしかしたら、また魔物やも…⦆


そう、ミトミルが小声で耳打ちした。


⦅大丈夫です。ミトミル。この人間は、微かに<ハイドレンジャー>の匂いがします。この匂いは魔物が特に嫌います。近くに魔物はいないでしょう⦆


⦅ふむ…⦆


ミトミルは、そのペルシャロの知識とエルフの自分でさえ、嗅ぎ分けるのが難しい<ハイドレンジャー>の匂いをかぎ分けたペルシャロの鼻を信用した。


「君の言う通り、俺たちは、<サボン>の町人だ。この森に深入りする気はなかったのだが、うっかり、魔物の子供を殺してしまってな…。その魔物と言うのが、<アストレイ>だったんだ」


『<アストレイ>!?』


ペルシャロとミトミルの声が重なり、深い森の木々がざわぁっと揺れるのがわかった。<アストレイ>は、おとなしい魔物で、直接襲ってくることはそうそうないが、人間を道に迷わせるのだ。そして、迷わせた人間を他の魔物に襲わせ、その残飯をあ漁る魔物だ。の世界で言えば、習性はハイエナ…と言ったところだろうか?


しかし、困った。


「ミトミル、どうしよう。わたくしたちも、もう迷っているかも知れない」


「え!?どういうことだ!?君たちはちゃんと<ポインター>を得ているはずでは?」


「うん。わたくしたちは、<ポインター>を持たず、旅をしているのです。その代わりに、わたくしの<ストロンゲストニードル>と言う占術を用いて旅をしておりました。…ですが…、この<ストロンゲストニードル>は、その名の通り最強の指針ですが、<アストレイ>の魔力にだけは狂わされてしまうのです」


「「「そ、そんなぁ!!」」」


3人は、ペルシャロの言葉に、あわや絶望した。


「しかし、あなた方を迷わせた<アストレイ>の個体の能力が解れば、わたくしの<バブル>で能力を泡に出来ます。個体の能力は、どんなものでしたか?」


ペルシャロは、騒ぐ3人を相手に、実に落ち着いて尋ねた。


「能力…と言っても…。魔力…とは違うのか?」


「魔力は魔力です。しかし、<アストレイ>は、固有の能力を持つのです。例えば、樹を変える。岩を変える。川を変える。花を変える。…等々、1個の家族で能力が限られるのです。だから、それが解れば、わたくしの占術で解けるかと…」


「どうだ、マーリン。気が付いたか?」


ドロックドはマーリンに尋ねた。マーリンも、一応、占術を使う魔法使いだ。一番頼りになるのは、マーリンかも知れない…とドロックドは思ったのだろう。


「確か…<アストレイ>の去った後、野花の色がピンクから青に変わったような…」


「そうですか。ならば、恐らくは案外容易く<バブル>で解くことが出来るでしょう」


「本当か!?」


ジャモエが嬉しそうに飛び上がった。


「えぇ。<アストレイ>の花の能力は、範囲がかなり狭いのです。子供を殺されたと言う理由だとしたら、子供が死んだ場所にだけ魔力を使った可能性が高いです。その近くに案内してもらうことは出来ますか?」


「あぁ…でも、迷っているのだから…」


「大丈夫。わたくしの<ストロンゲストニードル>はある程度の広範囲を守ることが出来ます。大まかな場所が解れば、反応するでしょう。それさえ、解けてしまえば、一気に魔力は解けるでしょう」


「「「「ははぁ…」」」」


「ミトミル、あなたまでなんですか…感心する所ではないでしょう?」


「あ」


ミトミルは、少し面目ない、と顔を赤らめた。





「この辺りのはず…」


3時間ほど歩いて、ドロックドとマーリンとジャエモは、3人の記憶と、魔力で、何とか近しい場所にペルシャロとミトミルを案内した。


「感じます。この辺りには、魔力が確かに…。ここから出なければ、この森からは一生出られませんね」


「そんな…」


「ふふふ。魔力を解けなければ…の話です。私の占術を侮ってもらっては困ります」


そう少し嘲笑するかのように、顔を上に向けると、ペルシャロは言った。


「<フラワーバブル>!」


…そう占術を唱えると、突然、森がぐるぐると回りだしたではないか。地面が崩れ、上から岩がゴロゴロと堕ちてくる。


「「「ウワ―――――――ッッ!!!たっ、助けてくれ―――――!!!」」」


ドロックドとマーリンとジャモエはパニックに陥った。


「<クリエイションアゲイン>!!」


「「「…!?」」」


地崩れと、回っていた森が、ピタッと止まった。そして、にっこりペルシャロは微笑んだ。


「この子ですね。<アストレイ>の子供は…」


「あぁ…」


これこそ、魔物に騙されているのではないか…と思うほど、ドロックドは放心状態で応えた。3人(ミトミルも…?)が見つめる中、ペルシャロはその魔物の子を抱き上げると、こう唱えた。


「<マッチサン>!」


そうすると、魔物の子は太陽の中に溶けて、消えていった。


「これで、もう大丈夫。あの子もきっと天界で次の転生をするでしょう」


「あ、ありがとう…。ペルシャロ。君は、噂にたがわず、素晴らしい占術師だ。これで、<サボン>にあなたたちを案内出来る。付いて来てくれ」


「はい。頼みます」




そうして、ペルシャロとミトミルは、ドロックドとマーリン、ジャモエを従え、<サボン>へ順調に向かった。

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