第4話 あなたのためにおしゃれする
朝教室に入るとなにか違和感のようなものを感じた。いつもとなにか違うような……
「え!?しーちゃんめっちゃ似合ってるじゃん!」
「えー、ホント!アキナもめちゃいい感じじゃん!」
あー、クラスの女子たちが髪を巻いてきたのか。きっと誰かがみんなでやろうって言い出したんだろうなぁ。たしかに、校則の厳しいこの高校で出来るおしゃれといったら髪を巻くぐらいか。そう思っていると、巻髪集団と目があった。なんか気まずい。
「島﨑さんも今度髪巻いたらどう?島崎さんかわいいしめちゃ似合いそう」
「そう……かな?」
「絶対そうだよ。ってか、島﨑さんってあんまりおしゃれとかしなさそうだよね。せっかくかわいいのにもったいないよ」
「わかるー。宝の持ち腐れって感じ」
「そうそう」
こういうときの「かわいい」ってどれくらい本気なのか分からないんだよなぁ。とりあえず感謝しておこう。
「本当?ありがとう。私も少しはおしゃれしてみようかな?」
私は営業スマイルを作って無難な対応をとる。すると女子たちも、
「絶対したほうがいいよー。もし髪巻いたら見せてねー」
と自然と私の元を去っていく。ふう、なんとか乗り切った。ああいう女子の相手するのって疲れるんだよな。まあ、嫌いっていうほどではないんだけど。こっそりと小さくため息をつくと担任の先生が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まる。
授業が終わると、誰と会話することもなくさっさと下校する。今日は部活はお休みだし、一緒に下校する相手もいない。ワイヤレスイヤホンをつけて音楽を聞きながら歩いていると、あっという間に家についた。
自分の部屋に入ると制服を脱ぎ、私服に着替える。クローゼットの中にはなかなかの数の服が入っている。そう、私は割りとファッションに凝っている方なのだ。別に誰かに見せるわけではないのだが、コーディネートを考えるのは楽しいし、おしゃれな服を着て外に出るのも気分がいい。ファッションは私の隠れた趣味なのだ。
そういえば、最近暑くなってきたなぁ。もう一週間もすれば7月になる。夏服の季節になりつつあるが、クローゼットを見ると少し夏服が足りない。今日はこの後予定もないし、せっかくなら服を買いに行くか。私はお気に入りのブラウンのバックに財布を入れ、自転車でショッピングモールに向かった。
ショッピングモールに着くと、贔屓にしている店に足を運ぶ。高校生には少しお高いのだが、その分だけいい服が揃っている。店内に入ると意外な人物を見つけた。アカネちゃんだ。
「アカネちゃん!」
私が声をかけると彼女は少しビクッとした後こちらを向いた。
「ああ、なんだヒマリか」
彼女は少し気まずそうな顔をしている。どうしたのだろう?
「奇遇ですね。アカネちゃんも服を買いに来たんですか? この店けっこういい服が揃ってるんですよね」
「そ、そうだな...…」
なんだか言葉に覇気がない。いつものアカネちゃんと大違いだ。そういえば、アカネちゃんはどちらかというとファッションに無関心な方だったはず。今もパーカーに緩いズボンという完全なダル着だ。アカネちゃん、もしかして……
「もしかして、コーセーさんとのデートのときに着る服を探しに来たんですか?」
アカネちゃんの顔が真っ赤になる。どうやら図星らしい。私は少しニヤニヤしながら、
「アカネちゃん、いつもはクールに振る舞ってるけど、けっこうかわいいところもあるんですね」
「う、うるさい!」
声が少し上ずっている。よっぽど恥ずかしいらしい。でもファッションに無関心なアカネちゃんにとって、デートコーデを選ぶのはけっこうハードルが高いんじゃないか? 実際、さっきからアカネちゃんキョロキョロしまくってるし。よし。ここはヒマリ先生が人肌脱いでやろう。
「アカネちゃん、私がコーディネートしてあげましょうか?」
アカネちゃんは少し悩んだ後、小さく頷いた。
「よ、よろしくお願いします」
私は店内を回り、アカネちゃんに似合いそうな服を探す。いつもクールでアンニュイな雰囲気のアカネちゃんには、やっぱりクールで大人ファッションがいいだろうか。いや、敢えてかわいい系を着せてみるのギャップがあっていいかもしれない。私はかわいい服を着て、少し恥ずかしそうにしているアカネちゃんを想像してみた。これは、なかなか破壊力だ。コーセーさんがあまりの可愛さに気絶しなきゃいいけど。
私は白のブラウスとミニ丈ジーパンを持ってアカネちゃんのもとに行く。アカネちゃんは私に促されるがままに試着室に向かう。私が選んだガーリースタイルのコーデを着たアカネちゃんは少し恥ずかしそうに、
「ヒマリ、その、これかわいすぎじゃ……」
その通りだ。アカネちゃん、かわいすぎる。スラリと伸びた白い足が眩しい。こんなにかわいいとそこら中でナンパされるんじゃないかと心配になる。
「アカネちゃん、コーセーさんにちゃんと守ってもらいましょうね。絶対に側を離れちゃいけませんよ」
アカネちゃんは困惑した顔で頷いた。
それにしても、こんなにかわいくなるとは……やっぱり誰かのために服を着ると、より一層おしゃれが活きるのだろうか?
会計を済ませて店を出るとアカネちゃんは大きく息を吐いた。
「はー、めっちゃ緊張した。やっぱり慣れないことするもんじゃないわね」
「でも、慣れないことしたお陰で、デートが楽しくなりそうですね」
アカネちゃんは小さくコクンと頷いた。
「ヒマリ、ありがとね。お陰で助かったわ」
「いえいえ。こちらこそ楽しかったです」
「そう? ならよかった。……そういえば、ヒマリは何しに来たの?」
「何って、アカネちゃんの服を買いに……」
いや違う。「私の」服を買いに来たんだった。口を開け「しまった」という表情をしている私を見て、アカネちゃんはフフッと笑って、
「仕方ないわね。さっきのお礼に付き合ってあげるわ」
私は満面の笑みで、
「本当ですか! なら、あっちにもいい店があるので、そこに行きましょう! さあ、早く!」
はしゃぐ私を見てアカネちゃんは呆れながら笑った。
アカネちゃんとこうして放課後デートをするなら、おしゃれしてきた甲斐があったなと、アカネちゃんの手を引きながら、私は思ったのだった。
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