第12話 スライム

「スライム...?」


俺は思わず声に出した。


俺は目の前にいる魔物の姿に心当たりがあった。それは転生する前、現世でプレイしていたゲームによく出ていた魔物、スライムにそっくりだった。


まんまるの楕円形の体。体の色は青みがかった水色で、眼球のない白い目がついていて、その下に口らしきギザギザがある。


「なんだこの魔物は...?」


しかし、父はこの魔物を知らないようだ。

謎の魔物は、ぴょんぴょんと飛び上がっている。


「うおらあああ!」


父が桑で魔物に殴りかかった。

しかし、魔物の体はぐにゃりと変形し、桑の攻撃を無効化した。


桑を離すと、ぽよんと元の形に戻った。


「効かないのか...?」


「ピュッ」


魔物は口から何か液体を吐き出した。それが桑の先に付着した。その途端、桑シューと煙をあげ、溶けてしまった。


「酸か!」


桑が武器として使い物にならなくなった。


「じゃあ魔法攻撃だ! 父さん、下がって!」


それを見た俺が氷の魔法を発動する。


「ハッ! くらえ!」


手の上で氷の玉を作り出し、それを魔物に向けて放った。


「ガキィン!」


しかし、魔物の体表に当たる前に、何かに弾かれ、魔法は消えてしまった。


「魔法も効かないのか...?」


そんなの無敵じゃないか。前世で見たスライムは雑魚敵の代表格で、どんな攻撃でも食らわせたら、倒せるくらいの魔物だったぞ。話が違う。


すると、魔物が変形をした。体の左側が伸び、鋭く尖った形になった。

この魔物と対峙した時に、不思議に思ったことがある。それは、村人たちが負っている傷の中に、切り傷があったことだ。スライムの攻撃から切り傷を浴びることが理解できなかったのだが、これで繋がった。

どうやらこの魔物は自由な形に変形できるらしい。そしておそらくあれで切りつけたのだろう。


魔物は素早く動き、変形した刃で俺を狙ってきた。


「しまっ...」


あまりの速さに反応が遅れた。

次の瞬間、父が魔物と俺の間に立ち塞がった。


「ぐっ...」


魔物の作り出した刃が父の腹を貫通し、血が滴っている。俺は顔から血の気が引いた。


「父さん!!」


父はかろうじて顔をあげた。


「ガフッ...! ニブル、無事か...?」


そう言った後、父は俺の上に倒れた。


「父さん...そんな...死んじゃだめだ!!」


涙を目に浮かべながら、俺は叫んだ。


「ニブル、お前の成長をもっと見ていたかった...逃げろ...」


そういうと、父は目を閉じ、息を引き取った。


「父さーん!!!」


冷たくなっていく父の体を抱きながら、父の頬に大粒の涙が落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る