第10話 フェアリーフェスティバル③

今度は、中等部3人によるユニットの番だ。3人のフェアリーは、燕尾服にシルクハットをかぶって登場した。由梨乃、礼奈、なずなの3人は、制服を着ている。リングには、椅子とステッキが置いてある。曲が流れ始めた。3人のフェアリーは、椅子に座ったり、立ったり曲に合わせて動いた。燕尾服の裾がはためく。同時にステッキをくるくると回した。曲が最後に差し掛かると、かぶっていたシルクハットを脱いで、ステッキでシルクハットを叩く。その時、シルクハットから、鳩が飛び去った。会場から拍手が沸き起こる。3人のフェアリーは、タイミングを合わせてお辞儀をした。


そして、いよいよ高等部の登場だ。唐の時代の漢服に身を纏った聖紅とフェアリーが出てくる。聖紅は手に、二胡を持っていた。フェアリーがリングに上がると、聖紅は二胡を弾き出した。優雅な中華の曲だ。フェアリーは漢服の裾を翻して踊っている。薄紅色の服がくるくると回る。まるで花のようだ。曲が終わると、ホールが一旦暗くなる。次に出てきたときには、聖紅とフェアリーは、チャイナドレスに着替えていた。ポップな曲が流れる。聖紅は、ヘッドフォンをしたまま、フェアリーと同じ動きで踊り出した。聖紅とフェアリーの一糸乱れぬ動きに、李は舞台袖で驚いていた。更に、聖紅はピンク色のメガホンを取り出した。

「みーんな、ベルベットローズと一緒にー!チャッチャッ、チャチャンチャン!」

どうやら、聖紅のフェアリーは、ベルベットローズと言うらしい。会場も聖紅の声に合わせて手拍子をする。

「シェシェ(ありがとう)!ウォーアイニーメン(皆愛してる)!」

聖紅がメガホンでまた叫ぶ。会場は大喝采に包まれた。


舞台袖に下がってきた聖紅と目が合う。

「どうだった?」

聖紅がタオルを握りしめて笑顔で聞いてきた。

「最高です。先輩凄い!」

聖紅が李を抱き締める。

「このー、良いこと言いやがってー」


舞台では、成美の演技が始まろうとしていた。

成美のフェアリーは、片方の裾が長いドレスを着ていた。一方の成美は、制服である。曲が鳴り始めた。タンゴだ。成美のフェアリーは裾を翻して、ステップを踏む。タップダンスのように、カカカカカッと靴が鳴る。成美のフェアリーは、カッコいい。会場も沸く。

2曲目は、『オペラ座の怪人』だった。顔の半面を覆う仮面をつけて、フェアリーが立っている。リングに設えられた階段を、ゆっくりと下っていく。階段の途中でフェアリーが転び、仮面が剥がれた。仮面の下は、特殊メイクを施したのか、醜くなっている。最後は一輪の薔薇を持ち、フェアリーが口づけをして、終わった。悲恋を見事に表現した曲に会場はうっとりとなる。


次はトリ、桃子の番である。桃子は葛藤メーカーの振り袖を着ている。フェアリーも同じく振り袖だ。

「先輩、頑張って下さい!」

李が声をかけると、桃子が少し笑った。

「李さん、ありがとう。それじゃ、行って参ります」

桃子が表舞台へと向かう。

桃子の前には、琴が置いてあった。桃子がヘッドフォンを装着すると、琴を弾き出した。

フェアリーが桃子の琴に合わせて着物の袖をゆっくりと振る。着物の鮮やかな模様が浮かび上がった。何よりもターンをするときのフェアリーの動きが滑らかで、その動きの美しさに李は息を呑んだ。

琴の音が止むと、琴が下げられた。

厳かに『アメイジング・グレイス』が流れ始める。それに合わせて、桃子のフェアリーが目を瞑った。フェアリーの脇から2本の水が噴水のように沸き上がり、うねりを作って1本の水になる。

「奴の特性は水だからな。水は神が人類に与えた恩寵ということだ」

成美が言う。

「水……属性。綺麗……」

李が呟く。

水が何本もうねりを作っては雫となって消えていく。『アメイジング・グレイス』のように、正に神の恩寵を感じる演技だ。

桃子が演技を終えて戻ってくる。それを李達は迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る