第8話 フェアリーフェスティバル①

都内でも、かなり広い方と言われている学院内のホールに、特大のリングがある。

そこに、10人のフェアリーが立っていた。

李達は、リングの外で座って待っている。桃子が目で合図をすると、皆一斉にヘッドフォンをかけた。

音楽が鳴る。

『授業終了の チャイムが鳴ったら

 さあ行こう フェアリーリングへ

 そこは希望の場所 女の子の夢が詰まってる』

サビに入る前にターンがあり、難しかったが、何とか皆と同じタイミングで回れた。李はリングとヘッドフォンに集中する。

『フェアリー さあ踊ろう

 嫌なことは何もかも忘れて

 フェアリー さあ回ろう

 天にも舞い上がる気持ち』

サビで動きがぱきっと揃った。リイリーとメイリーの羽が揺れる。

『小さな魔法 それはフェアリー』

曲が終わった。李は安堵のため息を吐く。かなり緊張したが、乗り切った。

ホールに座っている生徒達の歓声が響く。まずは1曲、成功したみたいだ。

ホール内が暗くなる。


ホールが明るくなったときには、嵐藍がピンクのドレスを纏って、グランドピアノの方へ向かい、座った。

チャイコフスキーの有名なバレエ曲、『くるみ割り人形』の一節、『花のワルツ』を嵐藍は弾き始めた。嵐藍のフェアリーもピンクの衣装に花をあしらっている。フェアリーはワルツに合わせてくるくると回っていた。嵐藍はリングの方は見ずにピアノを弾いている。ピアノを弾きながらフェアリーを動かすだけでも凄いのだが、リングの方を全く見ずにフェアリーを動かせるのが凄い。

『花のワルツ』が、終わり、再びホール内が暗くなった。明るくなると、先程までピンクの衣装を纏っていたフェアリーは、燕尾服を着ている。手にはタクトを持っている。今度は、オーケストラの曲が鳴り始めた。それに合わせてフェアリーがタクトを振る。嵐藍も制服に着替えて、今度はリングの側に座っている。生徒達の歓声は止まない。フェアリーの動きの上手さに、李はバックステージでまたしてもため息を吐いた。


嵐藍が終わり、初等部5年の仁蔓間につるま夕依ゆいが出てきた。夕依は矢絣やがすりの着物を着ている。夕依のフェアリーもお揃いの着物を着ている。リングのフェアリーの頭上にお茶の花が咲いた。フェアリーが着物の袖を翻すと、お茶の雫が浮かび上がる。琴の音に合わせて、フェアリーがお茶の雫を操る。

一方、李は出番を控えていた。リイリーとメイリーに衣装を着せて準備をする。

表舞台では、夕依のフェアリーが幾つもの雫を操り、リングを彩っていた。

曲が終わり、場面が変わった。今度は夕依もフェアリーも制服に着替えている。フェアリーの制服はミニチュア版で作ったのだろう。オルゴールが鳴り出す。音楽に合わせ、夕依のフェアリーは、女子生徒の1日を再現した。朝御飯を食べるところ、トーストを咥えて走るところ、授業中に眠るところ、部活動をするところ、そして、フェアリーリングに行くところ――。李とたった1年しか違いがないのに、夕依のフェアリーの動きの繊細さには、驚嘆させられる。


そしていよいよ、李の出番が来た。

李は緊張以上に自分のフェアリーの動きのぎこちなさに呆れた。

内容は『ジャックと豆の木』の音楽劇だ。音楽が鳴り出すと、ジャックに扮するリイリーがよたよたと木を登った。雲の上で待機している巨人役のメイリーは、動きの悪さに、明らかにイライラしている。リイリーがやっとこさ雲の上に着いた時には、メイリーはがなりたてるようにリイリーを追いかけた。リイリーが慌ててよたよたと、また木を降りていく。それを追いかけてメイリーも木を降りていく。メイリーの動きは李が制御しているが、メイリーはこちらを向いて木を降りるため、李を睨み付けながら、降りた。やはり、動きが遅いことに苛立っていたようだ。メイリーは、自身が出せる最高速度でリイリーを追いかけた。リイリーが間一髪のところで、ハサミで木を切る。メイリーがぼたっ、と音を立てて落ちた。こうして、李は生徒達の歓声を浴びつつ、笑いも取ったのだった。

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