第7話 束の間の友情

李はフェアリーフェスティバルに向けて、ひたすらリングで特訓をしていた。由梨乃や嵐藍、聖紅も一緒に特訓に付き合ってくれている。

「みーぎっ、ひだりっ、まわってジャンプ!よし、出来るようになってる!」

皆の掛け声で、李は自分の成長を実感した。

「お疲れ。これ、ウーララのホワイトチョコレート」

聖紅が飲み物を差し出してくれる。李はヘッドフォンを外してそれを受け取った。

「ありがとうございます」

「上手くなってんじゃん。これなら、皆で踊る曲も安心だね」

聖紅が微笑む。


その時、桃子が部屋に入ってきた。

「李さん、良かったら私と一緒に動きを合わせて下さらない?」

李はフェアリーフェスティバルで桃子とユニットを組む予定だ。

「ぜ、是非!」

桃子がヘッドフォンをつける。李もそれに倣った。

「!」

動き出してみて、李は驚いた。桃子のフェアリーの動きはとても滑らかだったのだ。経験の差が如実に表れて、李は焦る。その時、桃子が李の手を握ってくれた。

「大丈夫よ、動きを合わせることに集中して。右、左、そうよ」

桃子の導きもあり、息を合わせることに慣れてきた李だったが、急に部屋に人がドカドカと入ってきて、集中が途切れた。

部屋に入ってきた人々は、色々な機材を持っている。

「メディアの密着取材だわ。少し静かにするように言うわね」

どうやらメディアがフェアリーフェスティバルの、ドキュメンタリーを撮りにカメラ機材を持って訪れたようだ。

桃子が、李が緊張している旨を伝えると、カメラは遠くの方から、李達を写してきた。

「さあ、もう一度動きを合わせましょう。右、左」

桃子は相変わらず李の手を握ってくれていて、李は安心してフェアリーを動かすことが出来た。


30分程練習をした後、二人はヘッドフォンを取った。

「疲れたわね、皆でお茶でもしましょうか」

フェアリーを動かす集中力は並大抵のものではないため、30分でも十分に疲れる。

全員で大広間に移動して、紅茶を飲むことにした。しかし、紅茶を飲む間も、カメラが回っていて変な気持ちにさせられる。出来上がったドキュメンタリー映像は一体、どのようになっているのだろうか。


その時だった。大広間の扉近くに立っていたメディアの人が急にざわざわとし始めた。

「何、不審者が入ろうとしている?」

「フェアリー関係者じゃないのか」

変な空気が流れ始め、桃子が聞く。

「どうしたんですの」

メディア関係者も困惑している。

「校門のところに不審者がいて、学院に入ろうとしているそうです」

桃子が立ち上がり、校門へと歩き出す。聖紅、由梨乃、嵐藍、李も桃子に続く。

校門のところで、学院のフェンスによじ登ろうとしている子供がいた。メディア関係者や警備員に止められている。

「はーなーしーてー!あたしはただ、李に会いたいの!」

その姿を見て、李はあっ、と声を上げた。子供は李の前の学校での親友、進藤しんどう麻友まゆだ。

「麻友!!」

「知っている人かしら?」

桃子が李に聞く。

「はい、前の学校の親友で……」

「いだー!髪の毛を引っ張るなー!」

麻友は騒いで、尚もフェンスの上によじ登ろうとしている。

「麻友!!どうしてここに!」

李が駆け寄った。

「あっ、李!良かった!あたし李に会いに来たんだよ!突然転校しちゃったから、別れの挨拶も言えなくて」

「どうして今頃ここに?学院は今、警備が厳しいから、危ないよ」

「知ってる。フェアリーフェスティバルでしょ。それに、李も出るんでしょ」

「う、うん」

「応援しに来たんだ、あたし。李、頑張ってよね。あたし、テレビで絶対観てるから」

「それを言いにここへ……?ありがとう。でも、危ないから、早く帰ったほうが……」

「いたー!だから、髪の毛を引っ張るなー!」

麻友は、フェンスの下に引きずり下ろされようとしていた。

「絶対、頑張ってねー!応援してるからー!」

「ありがとうー!!」

李と麻友はフェンス越しに手を振り合った。

「お友達、乱暴されて可哀想だったわね」

嵐藍が慰める。

「でもまた、学院の外で会ったら良いじゃん」

聖紅が言う。

「お友達のためにも、フェアリーフェスティバル、頑張りましょうね」

桃子が声をかける。

李はそれに頷いた。

「はい」


そして、その日はやって来た。

「レディースアンドジェントルメーン!フェアリーフェスティバルの始まりですよー!」

司会者が言う。

李は生徒会員と、リングの外で待機していた。肩には、ヘッドフォンがかけられている。

桃子が目で合図をした。全員同時にヘッドフォンをかける。その一瞬の後、音楽がかかった。


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