第6話 アイドルの涙

絵実と別れた李は聖紅に案内されて、生徒会館の大広間にやって来た。

そこには、ずらりと人が並んでいて、生徒会の面々の他、知らないおじ様方までいた。

「あの人達は一体……?」

李が聖紅に聞く。

「ささ、いいから早く座って」

聖紅は答えず、李を席へ座らせる。

「李さん。この方達は、フェアリーフェスティバルのメディア中継を担当して下さる方達よ。あと、有馬さんも」

桃子がおじ様方の正体を明かす。

月刊フェアリーの有馬も端っこに座っている。李に手を挙げて軽く挨拶してきたため、李は会釈を返した。

知らない人が沢山居て、李は緊張した。

聖紅も席につく。

「それでは、今年のフェアリーフェスティバルのセットリスト会議を始めましょう」

桃子が音頭を取る。

「まず、全員登場が最初と最後の2曲。ソロは1人2曲やってもらいます。ユニットはそれぞれ1曲になります。登場順は例年は年少順だけれど、李さんは初心者だし……」

桃子が言い澱む。

「私から行きます」

嵐藍が手を挙げる。

「そうね、嵐藍さんからお願いしましょう」

桃子が安心したように言う。

「では、初等部は6年生、5年生、4年生の順番で、中等部は1年生、2年生、3年生の順番、高等部は聖紅さん、成美さん、私の順番にしましょう」

「2曲って、私が踊るんですか!?」

あまり大きな声で聞けないため、隣に座っている聖紅に小声で聞く。

「あっはっは、面白いなあ、李ちゃんは。私達が踊るんじゃなくて、フェアリーが踊るんだよ。まっ、私は踊るけどね」

答えた聖紅の声は大きくて、皆に聞こえそうになる。

「聖紅さんはダンスがお上手なのよ。踊りながらフェアリーを動かせるし」

どうやら桃子には聞こえていたようだ。李は縮こまる。

「何か他に分からないところはあるかしら?」

桃子が聞いてくれる。

「あ、あの、ユニットっていうのは……」

「ユニットは初等部、中等部、高等部の3人ずつで組む曲よ」

「出来るだけフォローするから」

嵐藍が続ける。

「あの、高等部の人とは組めないんですか?私、桃子先輩とユニット組んでみたいです」

思わず口をついて出た言葉に自分でも驚く。いくら憧れとはいえ、桃子先輩と組めるわけない。

「それ、良いんじゃないか?」

メディア関係の人が言った。

「メディアの賛成意見も出ていることですし、組みましょうか。最高学年と最年少の組み合わせということで」

思いがけない言葉に李は驚く。

「良いんですか?」

「ええ、良いわよ。頑張りましょうね、李さん」

桃子が微笑む。


「去年もやったけど、猫耳ヘッドフォン、今年もやる?」

「やっぱり、最後は紙吹雪で」

「いや、スモークをたいて……」

あれよあれよという間に、会議は進んでいく。


約2時間に及んだ会議から解放されて、李と聖紅は、生徒会館を出た。

「どうしよう。私、大それたこと言ってしまいました。まだ、フェアリーを左右に動かすだけで大変なのに、桃子先輩とユニット組みたいだなんて」

李の足が止まる。

「やっぱり私、さっきの意見、取り消してきます」

生徒会館に戻ろうとした李の腕を聖紅が掴む。

「やりたいなら、やったら良いじゃん」

「聖紅先輩……」

思わず李は涙ぐむ。

「やらないで後悔するよりは、やって後悔した方が良いと思うな、私は」

それから李の涙を拭って、笑った。

「泣いちゃダメだよ。聖央華の生徒会は皆のアイドルなんだから。アイドルは涙を見せちゃ駄目。何事も楽しんで」

聖紅の言葉にまた、涙が出そうになる。が、こらえる。

「そうですね……」

「なんてね、新聞部や有馬さんに見られたら、大変なことになるからね。聖紅が李を泣かせたーって」

聖紅は舌を出す。

「まっ、フェアリーを動かすのは修行あるのみよ。なんなら私も見るし、由梨乃ちゃんや嵐藍ちゃんも見てくれると思うよ」

「皆さん、ありがとうございます!」


李はフェアリーフェスティバルに向けて頑張ると心の中で誓った。皆と踊りたい!桃子先輩とユニット組みたい!

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