第27話


「本当にここなのかい?ただの洞窟にしか見えないけど……」


 とある山の中で、人二人が並んで入れる程度の小さな洞窟の入り口を前に、王太子レオナルドは隣に立つ自身の近衛であるライナルへと疑問を投げかけた。


「村人の話ではここで間違いないはずですよ。俺にもただの洞窟にしか見えませんがね。」


 ライナルはそう言って肩をすくめた。

 レオナルドは首を傾げながら後ろを振り、白銀の鎧を身につけた集団に声をかけた。


「貴方達は、ここが迷宮ダンジョンかどうかわかりますか?」


 その集団は聖騎士団と呼ばれる聖王国の騎士達であった。

 先頭にいた人物が、レオナルドの疑問に言葉を返す。


「申し訳ありませんが、我々も中に入らない事には何とも……」


「そうですか……入ってみるしか無さそうですね。」


 レオナルドは、ライナルに先頭を任せ、洞窟の中へと足を踏み入れた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 レオナルドはここ数ヶ月、『平民の生活を知るのも王族として大切な事だ』ともっともらしい理由をつけてラベリアと共に辺境の村々を回っている。


 そんな時、シーガルド王国の西部に位置する村で、近くの山に新しい迷宮ダンジョンができているかも知れないと言う話を村人から聞く事になった。


 何でも村を訪れた冒険者風の男女が、食事処で話しているのを聞いたそうだ。


『あの山の中に迷宮ダンジョンがあるとはなー。あの感じ、まだ出来たばかりってところか?』


『えぇ、恐らくそうでしょうね。取り敢えず、ギルドに報告しないと。』


『そうだな。飯食ったら街に戻るとするかー。』


 と言う話をその二人はしていたそうだ。


 村人が興味本位で話し掛けてみると、顔の上半分を仮面で隠した男の方の冒険者が、『危険だから近寄るなよ』と言って大まかな場所を教えてくれたと言う。


 その話を聞いたレオナルドは、ライナルを連れてその迷宮ダンジョンへと向かう事にした。


 迷宮ダンジョンとは、魔物の巣窟であると同時に、宝石や特殊な魔道具が入った宝箱が置いてあったり、薬草や鉱石といった様々な素材が採れたりと、上手く管理出来れば富を生み出す金のなる木となり得る物だ。


 新たな迷宮が見つかるというのは国力に直結する一大事である。

 レオナルドは『王太子たる私自ら迷宮ダンジョンかどうか確認してこよう。』と言って村人が教わったと言う場所へと向かう事にした。


 ラビリアにも村人から聞いた話をし、共に行くかと誘ったが、村人の治療を優先したいからと断られた。


 レオナルドの誘いを断ったラビリアだったが、心配だからと言って最低限の護衛だけ残し、残りの聖騎士達をレオナルドの供につけた。


 結果、レオナルドはライナルとその聖騎士達を連れてその迷宮ダンジョンと思われる場所へと向かう事となったのだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 洞窟の中に入ったレオナルド達は、入り口よりも広々とした通路を襲ってくる魔物を倒しながら奥へ奥へと進んでいた。


「確かに魔物は多いですが、宝箱もありませんし、下へ降りる階段も見つかりません。やはり、ここは迷宮ダンジョンではないのではないでしょうか。」


 襲いかかって来たシャドウウルフと呼ばれる狼型の魔物を一太刀で斬り捨てた聖騎士の一人がそう口にした。


 こういった洞窟型の迷宮ダンジョンでは、下へと続く階層構造となっていることが多く、それぞれの階層がまるで別空間に飛ばされたかの様に環境が変わってしまうといったこともある。

 その階数は古い物ほど多くなると言われているが、正確な事は判明していない。


「出来たばかりと言う話でしたし、一階層のみという可能性はあるけど、宝箱が無いとなるとやはりハズレなのかな……」


 レオナルドはそう言って少し肩を落とした。


 取り敢えず奥まで進んでみようというレオナルドの提案に従い、一行は更に奥へと足を進める。


 現れる魔物の数は減って来たが、その分強さが増している。

 それでもライナルや聖騎士達は、涼しい顔で魔物を倒しており、レオナルドは特に危険を感じる事もなく散歩でもするかの様に歩いていく。


「レオナルド様!あれを見てください!」


 オーガと呼ばれる鬼のような魔物を得意の雷撃魔法で丸焦げにしたライナルが指差した先には、下へと降る階段があった。


「階段か!これで、ここが迷宮ダンジョンである可能性が一気に上がったね。……よしっ、下の階に行ってみよう。迷宮核ダンジョンコアさえ見付けられれば確定だからね。」


 意気揚々と下層へと降りるレオナルド。


「村人の話にあった冒険者が、魔物が多いだけの何の変哲もないこの洞窟を迷宮ダンジョンだと判断したって事は、そう遠く無い場所にコアがあるはずだからね。」


 どこか誇らしげにそんな事を行って軽快に歩を進めるレオナルドに、聖騎士達は少しばかり不安になった。


「(あの人は、迷宮ダンジョンの恐ろしさを知らないのか……?)」

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