第28話


「ふぅ……。レオナルド様、そろそろ危険です。引き返しましょう。」


「……いや、もう少しだけ進んでみよう。いざとなったら僕も戦いに参加するよ。」


 迷宮ダンジョンと思しき洞窟に入ったレオナルド一行。

 あれから更に三階層降り、現在地下五階層を進んでいた。


 この階層に入ってから、出てくる魔物の強さが跳ね上がった。

 まだ苦戦する様な相手はいないが、次々に現れる魔物達との連戦により、戦闘を受け持つライナルや聖騎士達の顔には疲労の色が見え始めていた。


 ライナルはレオナルドの安全を考慮してここで探索を止め帰還する事を提案したが、迷宮核ダンジョンコアを自分の目で確かめたいという欲に支配されたレオナルドはそれを却下した。


 その様子を見ていた聖騎士達は、お互いに顔を見合わせた。


 出発前、自分達の主人であるラベリアからレオナルドの指示に従うようにと命令されていた。


 しかし、本当にこのまま進んでもいいのだろうか?

 自分達の役目は聖女様をお護りすること。

 この王太子の為にこれ以上危険を侵す必要はあるのだろうか?

 そんな思いが聖騎士達の間で共有された。


 だが、そうしている間にもレオナルドはスタスタと進んでいく。


 意見を言うタイミングを逃した聖騎士達は、溢れそうになった溜息を飲み込み、先を行くレオナルドを追った。



「あった!やはり、進んで正解だったね!」


 それから更に二階層下。

 七階層へと続く階段を降りたレオナルドは、何もないだだっ広い空間の中央で怪しい光を放つ球体を見つけて喜びの声を上げて、走り出した。


「まっ、待ってください!」


 慌てて止めるライナルだったが、レオナルドはその声を無視して球体へと大股で進む。


「レオナルド様!止まってください!くそっ……邪魔だ!」


 突如地面から這い出てきたアンデット達に行手を阻まれるライナルや聖騎士達。


 そして、何故か一切背後を振り返る事なく真っ直ぐに球体の目の前までやってきたレオナルドは、それに手を伸ばした。 


「くっくっくっ……」


 レオナルドの口から押し殺した笑いが漏れる。

 その手には光を失った球体が乗っていた。


「あははははっ!少し……いや、かなり舐めていた様だね。絶対絶命の大ピンチだよ。……けど、千載一遇の大チャンスでもある。」


 突然楽しそうに笑い出したかと思えば、ぶつぶつと独り言を言い出したレオナルドに、ライナルは警戒しながらも声をかけた。


「……殿下、ご無事ですか?」


 その声で振り向いたレオナルドは、いつもの様に優しげな微笑みを携えて首を縦に振った。


「あぁ、ライナル。私は問題ないよ、今の所はね。」


 『今の所?』

 ライナルはその言葉に引っ掛かり、何かあるのかと尋ねようとしたが、それよりも早くレオナルドが口を開いた。


「少し用事ができた。この洞窟・・を出たらあの女・・・とはお別れかな……。」


 レオナルドがそう言葉を漏らすと、一呼吸おいて、ライナルの後ろにいる聖騎士達から、凄まじい殺気がレオナルドに向けて突き刺さった。


「……貴様、あの・・・とは、聖女様の事を言っているのか?」


「ん?そうだね。君達の言う聖女様であってるよ。」


 レオナルドは自身に向けられた殺気を気にする素振りも見せず、堂々とそう言い放った。


「何もできない王太子如きが、聖女様を侮辱するなど許されんぞ。」


「へぇー。……なら、どうするんだい?ここで私を殺すのかい?」


 返答を返す間も無く瞬時に飛び出した聖騎士の一人が、有無を言わさずレオナルドの首を目掛けて剣を振るう。


「俺の事、忘れてません?」


 斬り飛ばされた首がコロコロと地面を転がり、血のついた白銀の騎士兜が外れて中の人頭が飛び出してきた。


「信じていたよ、ライナル。」


 そう言ってニコニコと笑みを向けてくるレオナルドに、ライナルは申し訳無さそうに目尻を下げた。


「殿下、俺一人では全員を抑えることが出来ません。申し訳ありませんが、殿下にも手を貸して貰いたいです。」


「あぁ、いいよ。……と言うか、ライナルはもう手を出さなくて良い。残りは全部、私が相手するよ。」


 格下だと見下していた相手に、しかも不意をついたにも関わらず、仲間の一人が殺され、動揺していた聖騎士達だったが、すぐに行動を開始した。


「ここで確実に仕留めろ!迷宮ならば時間が経てば死体も消える!」


 レオナルド達を囲むように散開した聖騎士達は、示し合わせたかのように同時に突撃した。


「おいで、『グロリア』。」

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人か魔物か まくらのおとも @daidadadai

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