第26話
マグナルから謝礼の品を受け取った後、いくつか話をしてからフラウベルと城を出たレンは、サバルの街の中心部へと来ていた。
「お兄ちゃん!フラウ、あれ食べてみたい!」
商店や屋台が立ち並ぶ一画で、フラウベルの指差した串焼きの屋台の列に並んだ。
「店主、それを二本くれ。」
「あいよ!」
順番が回ってきたレンは、串焼き二本を受け取り、先程マグナルから受け取った金で代金を支払った。
レンと手を繋ぎながら、逆の手で串焼きを持ったフラウは、多くの人が行き交う大通りを歩きながらそれを口に運ぶ。
「うーん……お兄ちゃんの作ったごはんの方が美味しいなぁー……」
あまりお気に召さなかったようだが、残さず食べたフラウベルは食べ終えた串をレンに手渡した。
「ごちそうさまでした!」
その後も、様々な店を冷やかしながら街を散策した二人は、現在大通りから逸れた少し薄暗い道を歩いていた。
「〜〜〜〜♪」
レンは鼻歌を歌いながら先を歩くフラウベルの後ろを黙ってついて行く。
「フラウベル、この辺りでいい。」
どんどんと進んで行き、周りに人影が見えなくなったところで、レンはそう言って足を止めた。
レンの声で歩みを止めたフラウベルは、たたたっと走ってレンの元へと戻ってきた。
「俺に何か用か?」
レンは唐突にそう声をかけたが、周りに二人以外の人の姿はない。
「お兄ちゃん、殺す?」
無垢な瞳でレンを見上げながら、恐ろしい事を口にしたフラウベルに、レンは首を横に振った。
「いや、まだ手を出すな。」
レンはとある一点を見つめてもう一度同じことを言った。
「俺に、何か用か?」
「……居場所までバレているか。」
その第三者の声と共に、レンの見つめる先に一人の男が現れた。
「そんなお粗末な隠密でバレないとでも思ったか?」
男は片眉をピクリと反応させたが、それ以上の反応は見られなかった。
「聖女様がお呼びだ。着いて来て貰おう。」
男は一瞬フラウベルに視線を向けて、レンにそう言った。
しかし、レンからの返答は嘲笑だった。
「馬鹿かお前は。フラウベルが人質になるわけないだろ。」
「……多少腕は立つようだが図に乗るなよ。」
男は腰に携えた剣を引き抜いた。
「フラウベル、
『はーい!』と剣呑な空気をぶち壊すように元気に手を挙げて返事を返したフラウベル。
そして——
「ぎっ——」「ぐえっ——」「あがっ——」
三人の呻き声が一瞬聞こえたが、すぐに静けさが戻って来た。
「これでお前も理解できたか?」
「ちっ……」
仲間が殺された事を察した男は、すぐ様その場から逃走する事を選択した。
「にがさないよーだ!」
後ろを向いて駆け出した男だったが、何かに足を掴まれて地面に倒れ込んだ。
「ぐっ……」
男は足に巻きついた蔦を剣で切ろうと試みるが、金属同士がぶつかる様な音が鳴り、傷一つつける事は叶わなかった。
「そーれっ!」
フラウベルの掛け声と共に、男の足を縛った蔦が空に向けて立ち上がり、男を逆さ吊りにした。
「くそっ!植物魔法の使い手か!」
「少し黙れ。」
レンの言葉で男は声を失った。
「お前の案内は不要だ、
「わかった!」
地面から伸びた蔦が男の全身に絡みつき、その姿を覆い隠すと、くちゃっと言う音と共に蔦の隙間から赤い液体が流れ出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……一体、何者でしょうか……」
遠視の魔法で一連の様子を伺っていた聖女ラベリアは一人きりの自室で小さく呟いた。
「厄介ですね……。」
ラベリアは徐に机の上に置かれたベルを鳴らした。
「お呼びでしょうか。」
ベルの音を聞いてラベリアの元にやって来たのは、白銀の鎧を身に着けた一人の男だった。
白髪混じりの長い髪を後ろで纏めたその男は、ラベリアの座の椅子の側で跪いた。
「例の男の迎えに出した部隊が壊滅してしまいました。」
「申し訳ありません。次こそは必ず。」
「いえ、こちらから手を出すのは悪手でしょう。厄介ですが、一度手を引くことにします。私の目にも気付いていた様子でしたので、恐らく監視の人員もバレているでしょうしね。……一度、全員撤退させてください。」
「はっ。」
男はラベリアの指示を伝える為、部屋から出て行った。
男が部屋を出るのを見送り、ラベリアは机に向かい小さくため息を吐き出した。
暫し考えに耽っていたラベリアだったが、背後に魔力の揺らぎを感じ、ゆっくりと椅子から腰を上げた。
「……。」
無言で振り返ると、そこには大小二つの人影があった。
「来てやったぞ、聖女とやら。」
「こんにちは!」
「……案内が不要とは、こういう事でしたか。」
先程までサバルの街にいた筈のレンとフラウベルが遠く離れた隠れ家の自室に突然現れた事に動揺しつつも、平静を装い言葉を返す。
「俺もお前に用があってな。」
レンはそう言ってベッドに腰を下ろし、フラウベルを膝に乗せた。
ラベリアはレンから目を離さずに、ゆっくりと背後のベルに手を伸ばす。
「この部屋は一時的に外界から隔離している。ベルを鳴らしても誰も来ないぞ?」
伸ばしかけた手を止める。
背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
「取り敢えず座れ。少し、話をしよう。」
レンの言葉に従い、ラベリアは再び椅子に腰を下ろした。
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