第15話
メルリエルが産まれたのは
狩人の両親のもとに産まれ、メルリエルと名付けられた少々お転婆なその少女は、両親だけでなく村人からの愛情も受けてすくすくと育って行った。
少女に転機が訪れたのは、ある日村にやって来たこの村の属する領の領軍との出会いだった。
この時はまだ至る所で戦争が勃発している荒れた時代。
援軍として戦場に向かう領軍が、道中メルリエルの住む村の近くで野営する事となったのだ。
近寄るなと忠告を受けたメルリエルだったが、好奇心旺盛なお転婆少女が我慢できる筈もなく、狩の為にと教えられていた隠密術を駆使して村を抜け出し、領軍の野営地へと向かった。
野営地を見つけたメルリエルは、最初はただ見てみたいと思っての行動だったのだが、両親の目も掻い潜ってみせた自分の力を試してみたくなってしまい、野営地に忍び込む事にした。
当然幼い少女に忍び込めるはずもなく、あっさりと見張りの兵士に捕縛され、その兵士にこっぴどく叱られた。
『まぁ君の隠密は悪くなかった。もし、大きくなってもまだ軍に興味があったら領都に行ってみると良い。』
最後に言われたその言葉は、メルリエルのその後に大きく影響する事となる。
説教が終わると、その兵士は親切な事に村まで送ってくれた。
兵士に連れられたメルリエルを見て、両親は大きく狼狽えたが、事情を聞いてメルリエルに特大の雷を落とした。
そして月日が経ち、成人を迎えたメルリエルは、その兵士の言葉に従い領都へと赴き、軍人としての門を叩いた。
軍人となったメルリエルは配属された斥候部隊で経験を積み、遂に戦争へと参加する事となる。
能力の高さが災いし、劣勢の激戦区へと送り込まれたメルリエルは、返り血に塗れながら必死に戦った。
そして、敵国に雇われた傭兵団に捕えられた。
その傭兵団の団長は、捕えられたメルリエルを報酬として受け取り、自らの奴隷として団に引き入れた。
その傭兵団はそこそこ名の売れた傭兵団だったらしく、メルリエルは奴隷として数々の戦争を渡り歩く事になった。
団長はメルリエルを戦闘要員としてしか扱わず、その待遇もそう悪い物ではなかった。
だが、団長が戦死し、その息子が後を継いだ事でそれも終わりを迎えた。
メルリエルとの奴隷契約も引き継いだその息子は、彼女を性欲の捌け口として使い始めたのだ。
クズで傲慢な新しい団長に嫌気がさした団員達が次々と団を離れていき、既に各地で繰り広げられていた戦争も下火になっていた事もあり、傭兵団は解散となった。
メルリエルの新たな主人であるそのドラ息子は、自分に従う数少ない手下を連れて冒険者へと鞍替えした。
勿論、メルリエルも連れて。
「——それから5年が経ち、今に至ります。」
メルリエルはそう締め括った。
「て事は、あいつがそのドラ息子って事か……。」
ランザの言葉に、メルリエルは首を縦に振って肯定した。
「復讐したいか?」
レンの言葉に、メルリエルはギョッとした。
「お前は対価として俺が
淡々と告げられたレンの言葉に、メルリエルは深淵を想わせる漆黒の瞳を見つめ返してはっきりとした言葉を返した。
「私は——」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
皆が寝静まり、辺りが深い闇に覆われた深夜。
レンは一人、灯りを絶やさぬよう薪を焚べていた。
「あの女、中々イイもんだったろ。」
そう言って下品に笑いながら近づいて来た五人の男達が、レンを囲むようにして立ち止まった。
レンは無視して薪を焚べる。
「今は他の奴らとお楽しみ中って訳だ。」
男はそう言って、薄ら明かりの漏れるテントに視線をやった。
「いやー、俺はあんただけに貸したつもりだったんだが、他の奴らにも使われちまうとはなぁ。ヤッちまったもんは仕方ねぇ。許してやるから、追加で何か貰わねぇとなぁ?」
レンは更に一つ薪を焚べると、そこで初めて視線を向けた。
「望みを言え。」
男はその傲慢な態度に反応する事はなく、笑みを深めて口を開いた。
「全部だ。おまえらの持ち物全部寄越せ。それで手打ちにしてやる。……おっと、叫んでも無駄だぞ?これは結界の魔道具でな。外には何も見えないし何も聞こえない。叫んだところで誰にも聞こえやしねぇんだよ。」
レンの視線がテントの方へと向いた事に気が付いた男は、懐から水晶玉の様な魔道具を取り出し、自慢げにそう忠告した。
しかし、レンは視線を動かさずに口を開いた。
「調子はどうだ?」
「かなり違和感はありますが、馴染めば問題なくなると思います。」
突然聞こえて来た第三者の声に、男達は驚き視線を集中させる。
そこに立っていたのは一人の女。
額から大粒の汗を流し、少し息の上がったその女は、長く尖った耳、緑の長い髪にそれと同色の瞳といった
しかし、決定的に
よく見ればエメラルドの様なその瞳は瞳孔が縦に大きく割れており、全身を無数の鱗が覆っている。
見たことも無い生物だったが、男はその顔に見覚えがあった。
「お前は……」
女——メルリエルは、その蛇の様な瞳を男に向けた。
「どうも、
メルリエルの視線を受けた男は固まった様に動かない。
「私はメルリエル。【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます