第14話


 森人エルフの女が食事をとり始めて少しすると、何事かを話し合っていた男達がこちらへと向かって来た。


「美味そうな飯だな。俺達にも分けてくれよ。」


 リーダーらしき男が後ろに他の四人を従えて、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら話しかけて来た。

 ランザはそんな男達に見向きもせず、無視して食事を続け、ミカルドはチラチラと男達に視線を送って気にしているようだったが、特に何も言わずに黙っている。


「ふむ。対価に何を差し出す?」


 レンのその問いかけに、男は眉間に皺を寄せた。


「あぁ?対価だと?」


「そうだ。食事を分けてやるのは構わんが、相応の対価を寄越せ。まさか、タダで恵んで貰えるとでも?」


 そう言って、レンは隣で食事を続けている女に視線を向けた。

 その視線に気付いた男はニヤリと口角を上げて口を開く。


「なるほど、なるほど……。いいぜ、その女を一晩貸してやる。森人エルフだから胸はねぇが、アソコの具合は悪くねぇぞ。」


 それを聞いた後ろの男達は、ゲラゲラと下品に笑った。


「レイナイト、頼めるか?」


「畏まりました。」


 何を?と聞くこともなく、レイナイトすぐに追加の食事を作り始めた。


「いやー、悪いな。」


「気にするな。」


 すっと右手をあげたレンがパチンと指を鳴らすと、男達の目の前にレン達の使っている物と同じテーブルと椅子が現れた。


「そこに座って待っていろ。」


 男達は突然現れたテーブルに驚いていたが、すぐに席に着いて自分達だけで会話し始めた。

 レイナイトが作った食事を持っていくと、礼も言わずに食べ始めた。

 くちゃくちゃと音を食べるのを嫌い、レンは遮音の結界を張って男達を隔離した。


 散々食い散らかした男達は、これまた礼も言わず、女を置いてそのまま自分達のテントへと帰って行った。


 その頃にはレン達も食事を終え、食後のティータイムに入っていた。


「……ご馳走様……でした……」


「口にあったか?」


「……はい。とても、美味しかったです……」


「そうか。」


 レンは紅茶を入れたカップを口に運んだ。


「名は何と言う?」


「……メル、リエル……。」


「メルリエルか。良い名だ。」


 女——エレナは焦点の定まらない目でレンを見た。


「いい加減邪魔だな、それ。」


 レンはそう言って徐に首輪に触れた。

 すると——


「んなっ!?」


「もうおどろかねぇぞ俺は……」


 ——パチンっと一瞬火花が散り、首輪が外れて地面へと転がった。


「う、そ……」


「これでまともに話せるだろう。」


 本来、奴隷の首輪——本名を魂縛の呪首輪という——を外すには、契約者の血と特殊な契約魔法が必要となる。

 無理やり外せば首輪を付けていた者の魂をも破壊し、一瞬にして廃人へとか変える恐ろしい首輪なのだ。

 ミカルド達が驚いたのも無理はない。


 エレナは転がった首輪を見て、自分の首に手を当てた。


「……はず、れた……うそ……」


「ん?もう普通に話せるはずなんだが……」


 レンは不思議そうにメルリエルを見る。

 バッと勢いよく顔を上げたメルリエルは、正気を取り戻したエメラルドのような綺麗な瞳を涙に濡らしながらレンと目を合わせた。


「ありがとうございます……。本当に、ありがとうございます……」


 レンに感謝を伝えたメルリエルは、声を上げて涙を流した。

 その声が漏れないように黙って遮音と認識阻害の効果を持つ結界を張ったレンに、ランザは『こういう奴がモテるんだろうな。』と尊敬の眼差しを向けた。



「申し訳ありませんでした!」


 ようやく泣き止んだメルリエルはテーブルに両手をつき頭を下げた。

 その際勢いよく額がテーブルにぶつかり、ガンッと大きな音を立てたが、メルリエルは呻き声一つ上げずにそのままの状態で制止した。

 長い耳の先端が少し赤く染まっていたのは、号泣する姿を見られたからだろうか……。


「話しずらい。顔を上げろ。」


 メルリエルはレンの言葉に従いおずおずと顔を上げた。


「先ずは……そうだな。お前の事を話せ。」


「私の事、ですか?」


「あぁ、自己紹介だ。お前の事が知りたい。」


 レンの漆黒の瞳がメルリエルに真っ直ぐに突き刺さる。

 顔を真っ赤に染め上げ、肩を丸めて小さくなりながら、メルリエルは自身の身の上を話し始めた。

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