第12話


 ミカルドの用事を済ますついでにクウォタリアの街を見て回ったレンは、いく先々で新たに生まれた疑問をミカルドやランザにぶつけていった。


 そのせいでかなり時間はかかったが、諸々の手続きを全て終えた一行は、移動用の馬車を買いに商会へと向かった。

 秘密が多いレン達を連れて乗合馬車に乗るのは避けるべきだとミカルドが判断したためだ。


 街で一番大きな馬車を扱う商会にやって来たレン達だったが、とある問題が発生していた。


「すんません、どいつもこいつもダメみたいで。普段こんな事はないんですがねぇ……」


 馬車自体はすぐに決まったのだが、肝心のそれを引く馬がミカルド以外の三人の姿を見ると暴れ出してしまうのだ。


「そうですか……。」


「専門の調教師を雇ってもらえれば、地竜も紹介できるのですかねぇ……」


「それしか無さそうですね……」


 あまり乗り気では無さそうなミカルドの様子に、レンは何か問題があるのかと質問した。


「できれば私達だけで移動したかったので、人を雇うのは避けたかったのですが……」


 確かに乗合馬車を避けた理由を考えると、その考えにも納得がいった。


「地竜を操るのに何か許可が必要なのか?」


「いえ、特段許可が必要という訳では無いのですが、地竜は気性が荒く、専門の調教師でないと扱いが難しいのです。」


 地竜と呼ばれているが実際は竜ではなくトカゲの一種だ。

 魔物の血を引いているらしく、力が強く、馬で引くより早く移動ができるためその人気は高い。

 だが、ミカルドが言った通り気性が荒く、専門の調教師で無いと上手く扱えないと言う欠点がある。


「成程。なら何とかなるな。地竜の元へ案内してくれ。」


 レンがはっきりと店員にそう告げると、店員は困惑した様子でミカルドに視線を向けた。

 ミカルドが頷いたのを確認した店員は、絶対に勝手に触れないでくれと忠告し、レン達を案内した。


 店員に案内されて地竜いる厩舎に向かうと、レンは店員の忠告を無視して勝手に柵を飛び越えて中に入ってしまった。

 店員は大慌てで柵を開けるための鍵を取りに行ったが、すぐに戻って来た店員の目に飛び込んできたのは中でも一番体が大きな地竜が大人しく頭を撫でられている姿だった。


 戻って来た店員に気付いたレンが、『存外大人しいじゃ無いか。』と言った時には、店員は顎が外れそうな程口を大きく開けて驚愕した。


 ミカルドはそれを見て大きなため息をついた。


 そんなこんなで無事地竜を購入したミカルドは、選んでいた馬車を地竜用の頑丈な竜車に変え、一緒に購入した。


「よろしく頼む。」


「グルゥ。」


 御者台に座ったレンが声をかけると、地竜は一つ鳴き声を上げて走り出した。


「ミカルドの指示に従うように言ってある。後は任せていいか?」


 レンが隣で手綱を握るミカルドにそう問いかけると、少し顔を強張らせて頷いた。


「安心しろ。しっかりと言い聞かせてある。万が一にも暴れる事は無い。」


 レンはミカルドにそう言い残し、走る竜車の御者台から飛び降り並走すると、器用に扉を開けて車内に入っていった。



 男三人の車内は静かなものだ。

 レンは後ろに流れていく景色を窓から眺めており、その対面にはレイナイトがまるで置物かのようにじっと動かず姿勢を正して座っている。


「なぁー、レンの旦那。」


「何だ?」


 レンは窓の外に視線を向けたまま返答した。


「これからどうすんだ?」


「ん?特に何もしないぞ?ただ普通に暮らすだけだ。」


 ランザは訝しげにレンの後頭部を見つめた。

 それを感じ取ったのか、レン呆れたようにため息を吐いた。


「お前まで俺が人間を滅ぼしに来たと思ってるのか?馬鹿馬鹿しい……。そんな事をして一体何の意味があるんだ。」


「いや、そう言う訳じゃねぇけどよ……。」


「俺はただ普通に暮らしたいだけだ。あそこでは少し、騒がしすぎるからな……」


 レンはそう言って、再び外の景色に視線を戻した。


 あそことは?面倒事って一体?と疑問が湧き起こったランザだったが、自分には関係ないかと思考の外に追いやった。


「くぁぁ……。ちょっとばかし寝るわ。なんかあったら起こしてくれ。」


 ランザは大きな欠伸を一つすると、そう言って目を閉じ眠りについた。

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