第10話
レン達が去っていった後、ミカルドは動かすのも億劫な身体を無理やり動かし、部屋から出ないようにと指示を出していた団員達を集めて事のあらましを説明した。
それを聞いていた団員達はあまりの情報量の多さに目を回していたが、ミカルドは説明を終わらせるとさっさと自室に戻って眠りについた。
そして翌朝、いつもより遅めに目を覚ましミカルドが朝食を取りに食堂に向かうと、キッチンで鍋を振っているレンと何故か鎧の上にエプロンをつ付けて同じくキッチンに立つレイナイトの姿、そして団員から質問攻めにあいながら慌ただしく配膳するランザの姿があった。
幻覚か?と思い両目を擦って改めて見たが、先程と変わらぬ光景が広がっており、胃がキリキリと痛み出した。
「団長!おはようございます!」
入り口で立ち尽くすミカルドに気付いた団員の一人に挨拶を返し、一先ず何も見なかった事にしていつもの席に着いた。
「……ミカルドさん、やっと起きてきたか。」
「……バスターさん、お早う御座います。今日のメニューは何でしょうか?」
対面に座るバスターに返答し、現実逃避するミカルドの前にお盆に乗せられた朝食が運ばれてきた。
「昨日の礼だ。食材はこちらで用意したものを使っているから遠慮なく食べてくれ。」
その声は昨日散々聞いた言い知れぬ覇気を纏った若い男の声。
ゆっくりと視線を上げると、こちらを見るレンと目があった。
「あ、有り難う御座います……。いただきます……」
ミカルドは一切合切の思考を捨て去り、朝食を食べ始めた。
「おいしっ……」
朝食を食べ終えたミカルドは、立ち上がり自らお盆をもって返却台に置きにいくと、そそくさと出口に向かう。
「ミカルド、旦那が話があるってよ。」
だが、後少しのところでランザから声がかかり、くるりと踵を返してレンの座る向かいの席に着いた。
レンはミカルドの一連の様子を見ていたようで、クツクツと肩を揺らして笑っていた。
ミカルドは改めて目の前に座る青年を見た。
艶やかな黒髪に吸い込まれそうな程漆黒の瞳、一見して女性とも見間違いそうな綺麗な顔立ちをしており、その所作の一つ一つに気品を感じる。
こうして対面していると、無条件で敬服してしまいそうな覇気を感じる。
どこかの王族と言われてもすんなり信じてしまうだろう。
そんな関係のない事を考えていると、レンが笑みを浮かべながら口を開いた。
「そんなに俺と話したくなかったか?」
その問いにミカルドはブンブンと首を横に振った。
「そ、そんな事は決して!」
「いや、いい。その気持ちも理解できる。」
昨日よりもだいぶ砕けた様子を見せるレンの姿に、ミカルドは少しだけ肩の力を抜いた。
「……それで、ご用件は何でしょうか?」
「いやなに、俺達もこの船に乗せてもらおうと思ってな。」
「はい……?」
リカルドは目を点にして固まった。
「お前達は帰る途中なんだろ?俺達も乗せていって貰おうと思ってな。相応の報酬も渡すつもりだ。」
何が面白いのか、またクツクツと肩を震わせるレンの姿に、怒りが湧き上がってきた。
ミカルドはその怒りを飲み込むように、一つ深呼吸してから口を開いた。
「あの移動する島はどうされるつもりで?流石にあれを国に持ち帰る訳にはいきませんよ?」
ミカルドの言い分は至極真っ当なものだ。
危険な魔物の住む島を国に持ち帰るなど、反逆罪とも取られかねない所業だ。
レン達を連れて帰るのとどちらが危険かと問われると困るのだが……。
「あぁ、あいつは心配ない。間借りしていただけだからな。」
「
まるで島が生きているかの物言いに、ミカルドは疑問符を浮かべたが、すぐにある事に思い至り驚愕の表情を浮かべた。
「まさか……」
「あいつは
『中々いい乗り心地だったな。揺れないし。』と、レンは続けた。
「あいつには今朝、ここに来る前に帰るように伝えて来た。心配は無用だ。」
「帰るように伝えて来たって……。それでは私に拒否権は無いじゃないじゃないですか……」
「そうだな。お前に拒否権は無い。」
レンはそう言ってニヤリと笑う。
ミカルドは大きなため息をついて机の上に突っ伏してしまった。
「クックック……。そう嫌がってくれるな。俺が乗っている間はこの船の安全は保証するし、先ほども言ったが報酬も渡す。それに、食料もこちらで用意しよう。あの島に放棄した分、あまり余裕も無いのだろう?」
レンが言うように、最初に島を出た時、簡易拠点へ運んでいた食料も放棄したのだ。
その為帰りの食料にあまり余裕はない。
今日はレンの好意のお陰で、久しぶりにまともな食事が取れたのだ。
「はぁ……。分かりました。食料の件、よろしくお願いします。」
『後、たまにでいいので食事を作ってください、お願いします。』と、ミカルドは深く、深く頭を下げた。
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