第9話


 約四時間にも及ぶミカルド達からの聞き取りにより、大凡の事が判明した。


 ミカルド達の住む大陸——ユールランジア大陸には、大小様々な国が存在し、人間種と呼ばれる、人族ヒューマン森人エルフ鉱人ドワーフ獣人ワービーストなど、様々な人が暮らしている。


 文明レベルは中世ヨーロッパと同等レベルであり、殆どの国が専制君主制を取っており、王侯貴族が存在する。

 少し前まではその支配領域を拡大する為に、至る所で戦争が起こっていたそうだが、今ではそれも随分と落ち着き、今や各国の目は海の外に向いているらしい。


 ミカルド率いる調査団は、シーガルド王国という海に面した中規模国家から派遣されたそうで、これはミカルドの実家がこの国の貴族だからだそうだ。


 他にも冒険者ギルドや、商業ギルドなどの各種ギルドが、存在し、国から独立した組織として認知されている。


 およそ聞きたい事を聞けて満足したのか、止まる事なく続いたレンの質問は終わりを迎えた。


「なるほどな……、大体理解した。長い時間付き合わせて悪かったな。」


 ほぼ全ての質問に答えていたミカルドは、少し疲れを顔に滲ませながらほっと息を吐いた。


「いえ、お役に立てたなら何よりです。……ところで、私からも一つ、質問させてもらってもよろしいですか?」


 ミカルドのその問いかけに、レンは視線だけ向けて先を促した。


「ありがとうございます。……貴方は、領域主・・・と呼ばれる存在をご存知ですか?」


 レンは小さく横に首を振った。


「強大な魔物はその身体から放出られる魔素から自身の眷族を生み出します。その中でも、一つの土地に留まり、眷族と共にその魔素で満たした土地を支配する者達の事を、我々は領域主・・・と呼んでおります。……聖王国などでは、魔王・・とも呼ばれておりますが、何か思い当たる事は御座いますか?」


「あぁ、そう呼ばれているのか。なら俺がそうだ。レイナイトも俺の眷族だしな。」


 レンは自身が領域主であるとあっさりと認めた。


「やはり、そうでしたか……。」


「ランザも、少しばかり生まれは特殊だが、俺の眷族になるな。で?それが何か問題か?」


 え?そうなの?と目を丸くしたランザをよそに、ミカルドは返答する。


「そう、ですね……。もし、こちらの大陸に来るというのであればかなり問題となるでしょう。領域主は人間にとってかなり脅威となる存在です。どの国でも討伐対象となっていますし、魔王と呼ぶ聖王国などでは不倶戴天の敵といった扱いを受けております。……対話が可能な領域主など私は聞いた事が有りませんので、貴方がどういった扱いになるかは分かりませんが……恐らく良い扱いはされないでしょう。」


 レンは「そうか。」と、あまり興味なさげに一言だけ発して、レイナイトが入れ直した紅茶に口をつけた。


「特に問題はない。恐らくそっちの冒険者は分かっていると思うが、俺たちは魔の気配・・・・を消す術を身に付けている。人間社会に紛れ込んだとしても、そうそうバレることはないだろう。……ランザは別だが。」


 ミカルドがほぼ空気と化していた冒険者組に視線を向けると、皆が頷いた。


「俺たち冒険者は対魔物のプロだ。魔物の放つ魔の気配には他の連中よりも敏感なんだが、この二人からは全く感じない。この船にやってきた時、ランザが人間では無くなったと判断したのも、魔の気配を感じ取ったからだ。」


 成程と、ミカルドは納得した。


「俺達からしたらこの二人は脅威以外の何者でもない。魔の気配を感じない魔物なんて悪魔みたいなもんだ。」


 苦々しげにバスターはそう口にした。


「安心できるかどうかはわからないが、俺の眷族以外にこれが出来る奴は見た事がない。そもそも消す理由が無いからな。」


 レンは残った紅茶を飲み干し、カップを机の上に置いた。


「さて、そろそろ帰るか。」


 そう言ってレンは立ち上がり、きた時と同じように黒い渦を作り出した。


「明日の朝また来る。邪魔したな。」


 そう言い残し、レイナイトとランザを連れて渦の中へと消えていった。


 残された面々は黒い渦が消えると同時に、ぐったりと椅子にもたれかかった。


「もう、来なくていいんですけどねぇ……」


 ミカルドは心の底からそう思った。

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