第8話


「俺から全部説明できたら良かったんだが、どうも記憶が曖昧なとこがあってなぁ……。まぁ一度頭をぶっ潰されてるから、当然といやぁ当然なんだが。」


 ははは。と軽く笑ったランザ。

 笑い事じゃないだろと、皆が思った。


「それに、俺だけじゃあどうしても知識が偏っちまう。貴族関係なんかはやっぱミカルドに聞く方が確実だからな。」


 そうだろ?と同意を求めてランザはミカルドを見る。

 その視線を受けたミカルドは、戸惑いがちに頷いた。


「ランザよりかは知っているとは思いますが……私もそこまで詳しい訳ではありませんよ?貴族と言っても三男ですし、早々に家を出て研究者として生活していましたから……」


「充分だ。旦那が求めているのは、常識のような事ばかりだからな。俺が最初に聞かれたのは、『人間は沢山いるのか?』だったからな。」


「仕方ないだろう。俺のいた場所には人間なんて一人も居なかったんだからな。」


 それまで黙って聞いていたレンがそう反論した。


「……二人は、人間ではないという事だな?」


 バスターは胸に抱えていた疑問をぶつける。


「その認識で構わない。」


「……人間の事を聞いて、どうするつもりだ?まさか、仲良くしようとでも言うつもりか?」


 バスターの挑発的な物言いに、ランザは声を荒げそうになったが、レンがすっと片手を上げた事で喉元まできていた言葉を飲み込んだ。


「仲良くできるかは分からんが……あえて敵対するつもりもない。降りかかる火の粉は容赦なく叩き潰すがな。」


 レンは意味ありげにランザの方に視線を向ける。

 視線を受けたランザは思わず苦笑いをこぼした。


「信じられねぇとは思うが、話した限り旦那はかなり理性的なお方だ。そもそも、こうして対話を選択してくれている時点でお前達もそのぐらい分かってんだろ?もし、お前が思っている様な悪人だったら、こんな面倒な事をせずにお前達を拷問でもして聞き出せばいいんだからな。」


 バスターは一瞬顔を顰めたが、反論の言葉が見つからなかったのか、一つ呼吸を置いて口を開いた。


「そもそも、どうしてお前はそっち側にいる?お前はそいつらに殺されたんだろ?仲間も殺された。なのに何故、そいつらの肩を持つ?」


「あー、まぁそうだよな……。さっきも言ったが、俺の早とちりでこっちから襲い掛かった訳だし、それで殺されたからって恨んだりしねぇよ。巻き込んじまったあいつらには申し訳ないがな。……それに、どうも反抗する気にならねぇんだよなぁ……。」


 ランザは自分の無精髭を撫でながら、レンの事を横目で覗き見た。


「まぁともかく、俺はこの人達の事を恨んじゃいねぇし、むしろこの力をくれた事に感謝してんだ。どーせ一人で気軽にやってたんだ。別に俺がどこへ行こうが誰も構いやしねぇだろ。」


「そういう話をしているのでは……」


「俺はな、バスター。強くなりてぇんだ。」


 この調査団での顔合わせで会った時から、どこかやる気を感じられなかったランザの目が、獲物を狙う肉食獣の様にギラギラとした光を放っており、バスターは思わず閉口した。


「最年少Aランク記録保持者。そう言ってチヤホヤされてたのはもう昔の話。今やSランクに上がれなかった事を憐れまれる始末だ。」


 ランザがAランクに上がったのは約10年前。

 孤児院で育ったランザは12歳で孤児院を出ると、そのまま冒険者ギルドの門を叩き、一気にその才能を開花させた。

 弱冠19歳という最年少でのAランク昇格に、最高位のSランク昇格は確実と将来を期待され、国中から注目されていた。

 だが、そこからランザの歯車は狂っていった。


「もう着いて行けないと言われ、俺が出ていった冒険者パーティーは、今や国でも有数のSランクパーティーの一つになった。Aランクで燻ってる俺と違ってな。」


 冒険者として活動して初めてから少し経った頃に誘われたパーティーに所属していたランザ。

 しかし、そのメンバーはランザがAランクに上がった時点では全員まだCランクだった。

 あまりに実力が離れてしまい、もう着いて行けないとランザの元を去っていったそのパーティーは、その後、順調に昇格を重ね、今やSランク冒険者パーティーとして活躍を続けている。


「別にあいつらを恨んでる訳じゃねぇぞ。俺は、ただ自分の才能の限界を感じ、やる気を失っちまってたんだ。……こうして新たな力を得て、力を制御できる様になればまだまだ強くなれると旦那に太鼓判を押されて、久しぶりに昔の気持ちを思い出したよ。強くなりてぇってな。」


 ランザは楽しそうに口角を上げた。


「強くなるには旦那の所にいるのが一番だって思ったんだ。だから俺は旦那について行くってそう決めたんだ。……どうだ?これで納得してくれたか?」


 バスターも他の冒険者達も、ミカルドでさえ、それ以上口を開くことはなった。


「そらそろいいか?俺の質問に答えてくれたらそれでいい。」


 そんな話は興味ないと言わんばかりにぶった斬り、レンは自分の目的を果たすために口を開いた。

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