第6話


 島が向かってくる。

 その言葉にキョトンと目を丸くして立ち尽くしていたミカルドだったが、バスターに促され共に船の後方へと向かった。


 そこには既に船に乗るほぼ全員が集まっており、ワイワイガヤガヤと騒いでいた。


「本当に、島が……」


 騒ぐ団員達を掻き分けて、最前列へと躍り出たミカルドは、船を追うようにこちらに進んでくる島の姿を見た。


「もしや、あの島・・・か?」


 隣でつぶやいたバスターの声が耳に入った。

 心拍数が上がり、息が乱れる。


「何故、ここまで接近するまで誰も気付かなかったんですか。あんな巨大なモノが近づいて来てれば、誰かが気付く筈でしょう!」


 ミカルドは半ば八つ当たりの様に叫んだ。

 その問いに答えられるものはおらず、皆が口をつぐんだ。


「……船を止めます。」


「ッ!?正気か?」


「あんな物を国に連れ帰る訳には行かないでしょう。」


 バスターは反論の言葉が見つからず、グッと押し黙った。


 そして、ミカルド率いる調査団は、再び島に降り立つこととなった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 30分と経たずにミカルド達の乗る船は島と接岸した。

 ミカルドは調査団の面々に部屋で待機する様に命じ、バスターを含む四人の冒険者だけを連れて甲板に向かった。


「やはり、あの島でしたか……」


 甲板から島を見たミカルドは、忌々しげにそう吐き捨てた。

 ミカルドの視線の先には、自分達が放棄した簡易拠点で寛ぐゴブリン達の姿があった。


「あいつら、一体どこに隠れてたんだ?森に入ってからゴブリンはおろか、動物すら見なかったと言うのに。」


 ミカルドの隣で見ていたバスターは、独り言の様にそう言った。


「恐らく、なんらかの手法でこちらの認識を阻害できるのでしょうねぇ。船の上で初めて退治した時、気付けば目の前にいましたからねぇ。」


「……ゴブリンがそんな高度な魔法を使ったというのか?」


「魔法か、武術か、それは分かりませんが、あれはただ速さに目が追いつかなかったとは思えません。」


 バスターは胡乱げにこちらを見ていたが、ミカルドはそれを無視してゴブリン達を眺めた。


 暫く眺めていると、簡易拠点で寛いでいたゴブリン達が慌てた様子で移動し始めるのが見てとれた。


「どうしたんでしょか?」


 隣のバスターに目を向けると、何やら真剣な表情で奥の森に視線を向けていた。


「何か来るな。」


 ゴブリン達が一匹残らず姿を消した頃、森の奥からこちらに向かってくる三人・・の人影が見えてきた。


 痛いぐらいに拍動する胸元をギュッと握り締め、ミカルドはその人影に注視する。


 森を抜けて船に近付いてくるその姿がはっきりと見えた時、ミカルド達全員の顔が驚愕に染まった。


「ら、ランザ……」


 見知らぬ黒騎士とフードを目深に被った人物を案内する様に、先頭に立ってこちらに向かってくるのは、死んだと思われていたランザだった。


 ランザ達三人は船から少し離れた位置で立ち止まり、こちらを見上げた。

 そして、フードの人物の側に黒い渦が現れたかと思うとその中へと入っていく。


「消えた?」


「いや、移動しただけだぞ。」


 次の瞬間、背後からランザの声が聞こえ、慌てて振り返った。

 ランザ達三人が同じく黒い渦から出て来たところだった。


「ランザ!生きていたのですね!」


 ミカルドは少し涙ぐみながらランザの元へ駆け寄ろうとしたが、それを阻む様にバスター達四人が立ち塞がった。

 見れば既に武器を構えて臨戦体制に入っている。


「ランザ、お前死んだな?」


 バスターの突然の問いかけに、ミカルドは驚いてランザの姿を凝視したが、その姿は以前と変わらない様に見える。


 ランザは苦笑いを浮かべ両手をあげただけで、それを否定することはなかった。


「取り敢えず、武器を下ろしてくれねぇか?争うつもりはねぇんだ。」


「やったのは後ろの二人か?」


「その辺りもちゃんと話すからよ。取り敢えず武器を下ろしてくれ。お前達を死なせたくねぇんだ。」


 バスターとランザの視線がぶつかり合う。


 一触即発の空気が両者の間に流れる中、別の声が響いた。


「時間の無駄だ。『跪けグラビティ』」


 その声が聞こえた瞬間、ミカルドとバスターのパーティー五人は押し潰される様に崩れ落ちた。


「ぐっ……な、にが……」


 バスターは地面に両手を突いて必死に抵抗しているが、両膝を地面につき土下座の様な体勢になっており、他の四人は完全に這いつくばっていた。


「すんません、レイナイトさん。ちょっとばかり緩めてやってくれねぇか?これじゃあ話どころじゃねぇ。」


 しかし、上から押さえつけられる様な強烈な圧力が弱まる気配は無い。


「レイナイト、もう良い。」


「畏まりました。」


 その会話が聞こえた途端、バスター達を襲っていた圧が霧散した。


 バスターは息を荒げながら、顔を上げる。

 すると、いつ間にか一つのテーブルと人数分の椅子が用意されており、黒髪黒目の青年がその一つに座り、その背後に黒騎士とランザが並んで立っていた。


「少し話が聞きたいだけだ。お前達もさっさと座れ。」

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