第5話


 汚い笑い声をあげながら、なぶる様にミカルドを追い詰めていたゴブリン達であったが、ニールからの連絡を受けて船に戻って来た冒険者達にあっさりと始末された。


「なんだ、こいつらは。俺の知ってるゴブリンの強さじゃ無かったぞ。」


 冒険者組の中でランザに次ぐ実力者であるBランク冒険者のバスターは、大剣を背負い直しながら、自らが首を刎ねたゴブリンを興味深そうに見てそう言った。


「そうですよねぇ。貴方達の帰りが遅ければ、恐らく私はやられていたでしょうし。」


 バスターの言葉に同意を示したミカルドは、船員達の治療が行われているのを横目に捉えながら、バスター達にニールからの通信の内容を伝えた。


「て事は、あの戦闘音はランザ達とその二人組の可能性が高いな。……で、どうする?」


「……すぐに船を出します。」


「そうか。」


 バスターは少しだけ顔を顰めたが、それ以上は何も言わず、ゴブリンの死骸の処理に向かった。


 ミカルドはこちらに近づいて来ていた団員に向き直り、声を掛けた。


「被害は?」


「三人、既に死亡していました。」


「そう、ですか……」


 ミカルドはグッと奥歯を噛み締めた後、命を落とした船員の遺体を丁重に保管するように指示を出し、無事だった残りの船員達には出航の指示を出した。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ミカルド達が島を離れてから1週間が経過した。


「船員が三人死亡。護衛の冒険者十二人を島へ置き去りに、ですか……。」


 帰りの航路を進む船の自室で、ミカルドはソファの背もたれにもたれ掛かり天井を見上げ、そう溢した。


 バスター達以外の冒険者達とは魔伝機での通信も繋がらず、安否は不明。


「恐らく、ランザ達は皆……」


 ミカルドはテーブルの上に視線を落とす。


 この1週間、テーブルの上に並べられた魔伝機は何の反応も無くただそこにあった。

 昨日の時点で既に通信可能範囲を出てしまっており、それらは最早ただの置物と化してしまった。


「クソッタレ」


 ミカルドがそう吐き捨てると同時に扉がノックされた。


「バスターだ。入ってもいいか?」


「……ええ、どうぞ。」


 部屋に入ったバスターは、テーブルの上にチラリと視線を向けた後、ミカルドの向かいに座った。


「何かありましたか?」」


「結局、魔伝機は一度も通じなかった。恐らく全員死んでいるだろう。」


「……ええ、そうですね。」


 ミカルドはテーブルの上の魔伝機を手に取り、感情の見えない瞳でそれを見つめた。


「私が欲をかいたせいで、皆さんを死なせてしまいました。初の遠征なので、既知の航路を進み経験を積む。それが、今回の遠征の目的だった筈なのに……」


「確かに、帰りの航路を変更する事も、あの島に行く事も、判断を下したのはあんただ。団長であるあんたがその決断を下し、結果こうなった。だが——


 バスターはミカルドの目を真っ直ぐに見つめて話を続ける。


——俺達は、あんたの意見に反対したか?しなかっただろ。」


「そっ、それは私がっ——」


「あんたが、団長だからか?俺達の依頼人だからだと、そう思っているのか?違うな。俺達は、未知の航路、未知の島に行く事を望んだんだ。それが危険だと承知で、何も言わずにあんたの意見に従った。依頼人を危険に晒す可能性があるのに、その間違った選択をした。依頼を受けた冒険者としては失格だ。」


 バスターはそこで一旦言葉を区切り、深く頭を下げた。


「申し訳なかった。依頼人を危険に晒し、冒険者としての欲・・・・・・・・を優先した。責任は俺達にある。本当にすまなかった。」


「バスター、さん……」


 バスターが頭を上げると、ミカルドと目があった。


「あまり、私の事を舐めないでもらいたい。」


 その目には、その声には、先程までのミカルドの様子からは想像もつかない程の力強さを感じた。


「航路を変えたのも、あの島への上陸を決めたのも、そして、十二人の冒険者を見殺しにしたのも、全て私の責任です。貴方達に責任を押し付け、逃げ出すような外道に成り下がるつもりはない。」


 バスターは力強くそう言い放ったミカルドの姿に目を見張り、そして「ふっ」と小さく笑った。


「そう言えば、あんたは貴族だったな。」


「えぇ。あまり貴族らしく無いと自覚はしていますがねぇ。」


「高貴な血というのも、あながち馬鹿には出来ないようだ。」


 バスターがそう言言い終わると同時に、扉が激しくノックされた。


「団長!団長ー!」


 焦りの感じられるその声に、ミカルドはすぐに席を立ち扉を開けた。


「どうしました!?」


「し、島が!」


「島?」


 船は未だに未知の海域を進んでいる。また新たな島が見つかったのか?と、嫌な記憶が蘇り、顔を顰めた。

 だが、団員の口から出た言葉は全く理解できないものだった。


「し、島が!島が、こちらに向かって来ます!」

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