第4話


 再び自室に戻り、報告書を書き進めていたミカルドの耳にニールの声が聞こえて来た。


『ミカルド様、こちらニール。森の中で謎の二人組に遭遇した。現在——』


 耳につけたピアス型の受信機から聞こえたニールの報告を聞きながら、妙な胸騒ぎを覚えたミカルドは、すぐに部屋を飛び出した。


「船を出す準備は出来ていますか!?」


「でっ、できてやすぜ!何かあったんですかい?」


 ミカルドはそう問いかけて来た船員に、島を出るとだけ言い残し、船を降りて簡易拠点へと足早に向かった。


「皆さん、すぐに島を出ます!物資を纏めて船へ運んで下さい!設置済みの物は全て放棄してください!」


 ミカルドの剣幕に驚きながらも、指示を受けた団員達は素早く動き始めた。

 元々すぐに退去出来るようにとの指示を出していた為、そう時間はかからないだろう。

 ミカルドがそう考えて森に視線を向けた瞬間、耳の受信機からノイズが聞こえ、森の中から激しい雷鳴と衝突音が響き渡った。


「ッ!!皆さん!物資も全て廃棄します!今すぐ船へ!」


 ミカルドはそう叫ぶと船へと駆け出した。

 それを聞いた団員達も、手に持っていた物資を全て手放しミカルドの後に続く。


 船にかけられたスロープを駆け上がるミカルド。

 甲板に近づくにつれ、嫌に静かな事に違和感を覚え始める。


「まさか……」


 甲板に辿り着いたミカルドが見たのは、倒れ伏した船員達の姿と、中央付近に佇む1匹のゴブリンの姿であった。


「えっ?ゴブリン?えっ?何でみんな倒れてんだ?」


 少し遅れて甲板に上がって来た団員の一人がそう呟いた。


 船員達は戦闘を専門にしていないとはいえ、最低限の戦闘力は持っている。


 ゴブリン1匹となると、新人冒険者が実践訓練を行う時に相手にする程度の弱い魔物であり、10人以上の船員達がゴブリン一匹に制圧されている光景は異常と言わざるを得ない。


 ミカルドは団員のその呟きに反応する事はなかったが、同じ心境だった。


「一先ず、あのゴブリンを始末しましょうかねぇ。皆さんは船員達の安否を確認して頂けますか?」


 そう指示を出したミカルドは懐から短剣を取り出して構える。

 いかにもひ弱な研究者といった風貌のミカルドだが、必要な素材を自分で取りに行くために戦闘訓練もそこそこ積んでいた。


「ゲヒッ」


 そこで漸くミカルドの姿を視界に入れたゴブリンは、ギザギザの歯を剥き出しにして嫌らしく笑い、次の瞬間、その姿が掻き消えた。


「ッ!!」


 ミカルドは咄嗟に構えた短剣を振り上げる。

 ガキンッという金属音と共に、目の前に現れたゴブリンが振った棍棒を弾き返した。


「本当にゴブリンですか、あなたは!?」


 ミカルドは自分の知るゴブリンよりも遥かに重い攻撃に体勢を崩されながらも、ガラ空きになったゴブリンの腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。


 吹き飛ばされながらも器用に空中でくるりと回転して綺麗な着地を決めたゴブリンは、相変わらず歯を剥き出しにして下品な笑みを浮かべている。


 ゴブリンとは思えぬ強さに驚きはしたが、恐らくこのままいけば、多少の時間は掛かるだろうが、目の前のゴブリンを始末することは可能だろう。

 そう判断したミカルドだが、その顔に余裕は感じられず、むしろ焦りの色が強い。


 何故なら、ゴブリンとは群れる・・・種族だからだ。


 そして、リカルドの懸念はすぐに的中する事となる。


「グヒッ」「グヘヘヘ」「ゲヘッゲヘッ」


 船内に入る為の扉が開かれ、三匹のゴブリンが現れたのだ。

 その手には食料の入った袋が握られていた。


「その食糧は差し上げますんで、大人しく帰ってはくれませんかねぇ……」


 ゴブリン相手に対話が通じる訳もなく、追加の三匹も棍棒を構え、ミカルドに襲いかかってきた。

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