第7話


 自分を襲っていた圧力が消えた後、ミカルドは青年の指示に従い大人しく席に着いた。

 黒騎士から発せられたたった一言で制圧された事により、下手に反抗するのも危険だと判断したバスター達冒険者組も、ミカルドに続いて席に着いた。


「俺はレン。後ろの黒騎士はレイナイトだ。」


 レンと名乗った青年は、優雅にティーカップに一口つけると、ミカルドに視線を向けた。


「……私は、ミカルド・フォン・エスエリアと申します。この調査団の団長を勤めております。そして——」


 ミカルドは目まぐるしい状況の変化に混乱しながらも、簡単な自己紹介を行い、続いてバスター達の紹介も行っていく。


 レンは黙ってミカルドの言葉を聞いており、後ろの黒騎士は直立不動で微動だにせず立っている。


 ミカルドの紹介が終わると、レンは後ろに立つランザに視線を向けた。


「ランザ、先ずはお前から話せ。」


「分かりました。じゃあ取り敢えず、俺達に何があったのかから話すか。」


 そう言って、ランザは話し始めた。


「俺のパーティーが森の中で怪しい二人組と遭遇したってのは、ニールからの通信で聞いたよな?もう分かってるとは思うが、その二人組ってのが、ここにいるレンの旦那とレイナイトさんだ。そんで……あー、何でだったかな?ちと忘れちまったが、全員口封じに殺されると思ったんだ。それで、お前達が逃げる時間を稼ごうと、俺達は攻撃を仕掛けた。……まぁそれも俺の早とちりだったんだが……」


 ランザはそこで一つため息をついた。


「まぁともかく、攻撃を仕掛けた俺たちだったが、それはもうあっさり殺された。レイナイトさん一人に、一瞬で全滅だ。」


 ランザのその言葉に、ミカルドが思わず声を上げた。


「で、ですが貴方は生きて——」


「いや、本当に死んだんだろう。そして、なんらかの方法で蘇った。魔物として。」


 そうだろう?と、バスターはランザに問いかける。


「あぁ、そうだ。今の俺は人間じゃねぇ。レンの旦那の魔素に適合したとかなんとか……。旦那も初めての事でいまいちよく分からねぇみてぇだが、俺は新しい命を貰って生き返ったって訳だ。」


「……不死者アンデット、か?」


「そんなっ!これほど意識のしっかりした不死者アンデットなんて聞いたことありませんよ!」


「いや、これがどうやら不死者アンデットでは無いらしい。」


 そう言うと、ランザはその身に宿った新たな力を解放した。


「なっ!!」


「これは、いったい……」


 肌が浅黒く変色し、茶色だった瞳は黄金色に。

 そして、右側頭部からは一本の捻れたツノが天に向かって伸びており、腰のあたりから生えた長い尻尾の先には青い炎が揺れている。

 元々良かった体格は更に一回り以上大きくなり、バチバチと音を立てる雷がその体表を這いまわる。


「【雷炎魔人フールフール】。それが俺の新しい種族だ。」


 ランザから放たれる強烈な威圧感に、五人は口を開くこともできなかった。


「あー、なんだ……。こんな姿でお前達に会う訳にも行かなかったからなぁ。ちーとばかし時間が掛かっちまった。」


 ランザは直ぐに元の姿に戻ると、申し訳なさそうにそう言った。


「お前はかなり早い方だったぞ。レイナイト達はもっと時間が掛かったからな。」


「そりゃあ俺は元々の姿がこっちでしたからね。」


 レンの言葉に、ランザは照れ臭そうに頭を掻きながらそう返した。


 ミカルド達はあまりの出来事に中々言葉が出てこない。

 そんな中、バスターが絞り出す様に声を出した。


「……他の奴らは、どうなったんだ?」


 ミカルドははっとしてその言葉に続いた。


「そ、そうです!他の人達も、ランザと同じ様に魔物へと変わってしまったのですか!?」


 もしかしたら島に置き去りにした冒険者の中で、まだ生きている人がいるかもしれない。

 そう考えたミカルドだったが、その願いも虚しく、ランザは首を横に振った。


「いや、俺以外は全員死んだ。俺のように、魔物に転化することも無かったしな。」


「本当に全員か?島には俺達とお前のパーティー以外の2パーティーも残っていたんだぞ?」


「あぁ、そいつらも死んだんだよバスター。戦闘音を聴いて、俺の指示を無視して森を出ずにこっちに来たんだが、俺達四人の死体を発見してレイナイトさんに襲いかかったんだ。で、俺達と同じように殺されちまったって訳だ。」


 ですよね?というランザの問いかけに、レンは頷く事で肯定した。


「俺以外の十一人の死体は、俺が責任を持って燃やし尽くした。あいつらが不死者アンデットとして蘇る事も無い。荷物とギルドカードは後で引き渡すから、ギルドに持っていってやってくれ。」


「そうか……。了解した。ギルドには俺の方で報告しておこう。それで、お前はどうする?」


「ん?……あぁ、そう言う事か。俺は島で逸れたとでも言っておいてくれ。強力な魔物の足止めに留まったとかでも良いぞ。あながち嘘でもねぇしな。」


 軽い口調で告げられたその言葉で、ランザに自分達に所に戻ってくる気がない事を察したミカルドは、複雑そうな表情でランザに視線を向けた。


「そんな顔すんじゃねぇよミカルド。俺がもう元の暮らしに戻れない事ぐらいお前だって分かってんだろ?」


「そう、ですね……」


「さて、俺の話はこんなもんだ。まぁまだまだ聞きてぇ事もあるだろうが、先に本題に入らせてくれ。」


「本題、というのは?」


「あぁ、俺達がなぜお前達を追ってきたのか、その理由なんだが……」


 ミカルド達は、気を引き締めてランザの言葉を待った。


「レンの旦那に、俺達の住む大陸について色々教えてやってくれねぇか?」


 予想外のお願いに、ミカルド達はキョトンとして首を傾げた。

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